第25話 六月一週(②)

 南と追試対策の勉強を始めた翌日。


 入学から二か月も経つと、手探りだった高校生活にも慣れ始め、クラスメートは決まったグループに属してくる。

 俺は日置と住田の三人で行動することが多いが、南も特に仲の良いクラスメートと三人で、何やら集まっていることが多い。

 その三人とは、以前娯楽施設で遭遇した女子達だが、ようやく顔と名前が一致した。


 一人は、『松本 千恵』という名の、少し背の高めな、すらっとした女子だ。

 髪が長くて、姿勢も良く、顔立ちも相当整っている。

 一見すると少々冷たい印象を受けるが、南と話している時の表情はとても柔らかく、良く笑っているところを見かける。

 たまに眼鏡を掛けると、とても凛とした雰囲気になるのだが、日置はそれを見て『女教師』というあだ名で呼んでいた。

 

 もう一人は、背が低めな『有坂 久美』だ。

 その髪型を『おかっぱ』と表現したところ、「クラスで孤立したくなければ、それは本人の前では絶対に口に出すな」と住田に言われた。

 どうやらショートボブと言う髪型らしいが、それが愛嬌のある顔立ちにとても良く似合っており、『これは男が放っておかないな』という感じだ。

 本人はそれを知ってか知らずか、人と話すときの距離が近く、彼女と話をする男子が照れている姿をたまに見かける。


 そこに南が入り、クラスの仲良し女子三人組が完成だ。

 

 南の容姿はと言うと、俺が後ろの席なのでたまに見ているが、髪の毛がとても綺麗でさらさらとしている。

 艶のある黒髪が肩の辺りで切り揃えられ、『清潔感とはこういうことか』といった感じだ。

 そして前から見ても、その清潔感は全く損なわれない。

 中学の時から顔立ちは変わっていないはずだが、一緒に帰っている時など、ふとした瞬間に『美人だな』と思ってしまっている時がある。


 そんな見目麗しい三人が集まれば、自然と人も集まってくる。

 スクールカーストの頂点だ。

 今日もクラスのチャラチャラした男達が話しかけている。


 二人は普通に相手をしているが、南は少し引いたところにいる感じだ。

 ああいうタイプの男子が苦手というのが分かるが、そこまで露骨な態度ではない。

 ……俺を相手にする時は大概露骨だったが。


 さて、俺の周りを見てみよう。


 背が高くも低くもない、『日置』。

 下の名前で呼ぶことはまずないので、割愛する。

 天然パーマでニヤニヤした顔立ちをしている。

 意外と誰とでも話せる。

 あまり学校に来ない。

 以上。


 背が低めな『住田』。

 下の名前で呼ぶことはまずないので、割愛する。

 かなり顔立ちが整っているが、長めの髪と俯きがちな姿勢のせいで良く見えない。

 女子とはあまり話さない。

 学校の近くに住んでいるが、あまり学校に来ない。

 勉強はできるようだが、学校に来ないせいで、頭の良い印象は誰からも持たれていない。

 以上。


 そして俺。

 とても顔がかっこいいが、誰からもそれを言われたことがない。

 とても喧嘩が強いが、現代社会ではそれを必要とされていない。

 勉強と運動はできない。

 女子とは全く話さない。

 あまり学校に来ない。 

 以上。


 ……そう、スクールカーストの底辺だ。

 今日も俺達三人以外に誰も集まってこない。

 休み時間、眩しいものを見るように、南達が集まっている方を三人で見ていた。


「お……茂田、えらいグイグイいってるじゃん」


 茂田は男子のスクールカースト最上位に位置する、痩身の男子だ。

 最近、南達のグループに声を掛けているのを見かける。

 茂田は何とか頑張って南達に話題を振っているようだが、あまり盛り上がらず、塩対応気味に流されている。


「せいらちゃんは相手にしてないな」

「だから、『せいらちゃん』呼びやめろって」


 本人がいないとき、日置は南を『せいらちゃん』と呼ぶ。

 お前ゲームセンターで『南さん』って呼んでただろ、覚えてるぞ。


 ちなみに南と一緒に帰っていることは、二人には一切話していない。

 放課後に勉強していることも、勿論話していない。


 隠している訳ではないが、伝えるタイミングも中々なく、あらたまって話すことでもなく……うん、隠している。


 教室では未だに南と話さないので、同じ中学出身だということさえも、ほとんどのクラスメートが知らないのではないだろうか。

 

「お……。茂田、馴れ馴れしく『せいら』って呼んでるぜ」

「せいらちゃん微妙な顔してるな」

「空気が読めれば、もう引いてもいい頃だと思うがな」


 チャイムが鳴って、クラスメート達もそれぞれの席に戻っていく。


 今まで集まっていた茂田達が離れて、南は少しほっとした顔をしていた。


 俺も南のその表情を見て、何となく安心した気持ちになるのだった。

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