第23話 五月五週(後編)

 全科目の結果の返却も完了し、高校生活で初めての定期試験は終了した。

 案の定と言うか、俺と日置は無事に致命傷を受けた。


 出席日数だけを気にしていたが、この点数のまま行くと進級が危ない。

 俺と日置は、二教科で赤点を取ってしまい、仲良く追試を受けることになった。


 一方で、住田は全教科で平均点以上を取っていた。

 思っていたのと違う。


「大変だったんだね……」


 帰り道、そんなことを話していると、困ったような顔をして南は言った。

 点数は大変なことになったが、冷静に考えればやるべきことをやっていなかっただけなので、これはただの自業自得だ。


「とりあえず追試は何とかしないとな……」


 赤点を取った人間には追試がある。

 その追試でも合格点を取れないと再追試がある。

 再追試になると合格点の基準が上がってしまううえに、クリアできなければ通知表で『1』が付く。

 これだけは何としても避けなければならない。

 聞くところによると、一学期で『1』を取ると補習で夏休みがなくなるらしい。


「遼太郎が追試を受けるようになるなんて思わなかった」


 当然と言うか、追試に引っ掛からなかった南が言う。


 南は、学年トップとまではいかないものの、小学校から中学校までは上位の成績をキープしていた。

 その頃からしっかりと勉強をしていたのだろう。

 今回の試験でも同じように努力して、悪くない結果を残せたようだ。


「正直、遊び過ぎてた」

「朝、来てないこと結構あったもんね」

「最初の方で良く分からなくなったから、もういいかなって」

「追試の準備は大丈夫?」

「……う~ん」


 俺が引っ掛かったのは、数学と化学だ。


 化学はそれでも、暗記で何とか合格できる気がしている。

 問題は数学の方で、入学当初に集中していなかったことで、出だしから躓いている。

 基本が解からないので、応用問題は完全にお手上げだ。

 自力での理解にどれくらい時間がかかるのか、今の段階では分からない。

 

「あんま自信はないけど、やるしかないからな」

「そうだよね……」


 そう言うと、南は何事か考えこんだ。

 俺も投げ出したい気持ちでいっぱいだった。

 それでも仕方がないから、今夜から教科書を開こうか、なんてことを考えていた時。


「……遼太郎、一緒に勉強しない?」

「え?」


 考えてもいなかった申し出に、思わず聞き返してしまう。


 今まで誰かと一緒に勉強をしたことがなかったため、発想自体がなかった。


「私が遼太郎より勉強できるとは全く思わないけど」と南は前置きして、「数学とか、最初の考え方は誰かに聞きながらやってみた方が分かりやすいと思う」と言った。


 正直、南がこんなところで力を貸してくれるとは思ってもいなかった。

 俺のなけなしのプライドが邪魔をする、なんてことはまるでなく。

 渡りに船とばかりに、俺はその提案に飛び付いた。


「いいのか?」

「うん。遼太郎にはずっと送ってもらってるし」


 南はそう言った後、「追試で引っ掛かっちゃったら、一緒に帰れなくなっちゃうでしょ」と笑った。


「神様、仏様、南様……」

「私がそこに入っちゃったら、神頼みじゃない?」

「地獄に仏だ、本当にありがたい」

「まぁまぁ、私も手伝うけど、頑張るのは遼太郎だから」

「いや、うん、頑張るよ。絶対合格する」

「じゃあ早速だけど、明日の放課後からやろうか」

「分かった。どこでやる?」

「う~ん……。教室はちょっと、人がいつまで残ってるか分からないよね」


 今はこうして一緒に帰っているが、教室ではほぼ話さない。

 お互いの友人の前でも話していないので、何と言うか、クラスメートに見られるのは避けたい。

 やましいことはなく、気恥ずかしいだけなのだが。


「図書館とかは?」

「人がいると、あんまり話はできないから……。あ、職員室の近くに自習室があるよ」

「自習室?」

「うん、一度使ったあるけど、多分人いないよ?」

「じゃあそこにするか」

「そうだね、明日使ってみてまた考えようか」

 

 こうして、俺と南は一緒に勉強することになったのであった。  

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