第17話 五月一週(後編・南視点)

「……で、山岸君とせいらはどういう関係?」

「そう、ただならぬ気配を感じたよ」


 遼太郎と日置君と別れた後、私は千恵と久美に詰め寄られることになった。

 UFOキャッチャーに夢中かと思えば、良く見ているものだ。


「た、ただのクラスメートだよ」

「せいら」


 千恵が私に詰め寄り、肩に手を置いた。


「今正直に話せば、許してあげる」


 笑顔で近付いてくる割に、圧が凄い。

 私は助けを求めるべく、久美の方に顔を向けた。


「さぁ、吐いちゃいなよ~」


 こちらからも笑顔で突き放された。

 二対一。

 目撃証言あり。

 私は観念して、一通りの事情を話すことになった。


――


「つまり、誤解したまま中学の時に喧嘩したけど、仲直りしないまま卒業した、と」

「そこから高校でも同じクラスになっちゃったんだ~。気まずいね~」


 中学時代、私が遼太郎にひどいことを言って、遼太郎にもひどいことを言われた。

 本当に最低だと思って、口を聞こうともしなかった。

 それでも遼太郎は、口論の後に私の悪口を言うことはなかった。


 その後、口論の原因が誤解だと分かった。


 長く誤解が解けなかった理由は、私の味方をした友人達が情報を操作したかららしい。

 受験の前にそれを知り、私は当時の人間関係を清算したくなってしまった。

 結果、同じ中学からの志望者がほとんどいなかった今の高校に進学した。 

 すると、遼太郎が後ろの席に座っていた、という話だ。

 

 ちなみに、絡まれたところを遼太郎に助けられた話はしていない。

 連休に入る前、ちょっとしたきっかけができた、とだけ話した。 


「……で、せいらはどうしたいの?」

「え?」

「さっきの感じだと、二人のわだかまりも解けてきたんじゃない?」

「そ、そうかな?」


 私は、どうしたいのだろうか。

 とりあえずは、普通に接することができるように?

 通学路で会っても、挨拶や雑談する程度の関係、かな?

 その旨を二人に伝える。


「えっ、そんなんでいいの?」

「えっ?」

「……せいらって、今好きな人とか、気になっている人はいないの?」

「いないよ?」


 花盛りの女子としては悲しいことだが、即答してしまう。

 クラスで人気のあるような男子は、中学時代の苦い経験から、好きになれそうもない。

 かと言って大人しい男子がタイプという訳でもなく、その状況は高校に入ってからも変わっていない。


「……自覚、ないのかな?」

「……さっきの目は、クラスメート程度に向ける目じゃなかったのにね~」


 何事か二人で話しているが、何を言っているか良く分からない。


「せいら」

「あ、はい」


 千恵が急に真面目なトーンで話し出す。


「まずは、挨拶」

「挨拶」と私は復唱する。


「山岸君は、クラスで女子と話してるとこ見たことないし、もっと言えば日置君としか話してないよね?」

「あ、うん、そうかも……?」

「だから、取っ付きにくい感じがしているし、誰とも挨拶していない」

「確かに、挨拶の習慣とかなさそ~」

「待っていても話しかけてくることはないだろうから……次会ったら、挨拶しちゃおう」

「私から……?」

「せいらから」

「挨拶しちゃえばその後の話にもつなげやすいし、せいらが言う普通の関係に近づけるかもね~」


 遼太郎がさりげなくディスられていた気がするが、一旦置いておく。


 確かに、普通の関係になるには最初の一歩を踏み出す必要がある。

 そして、その一歩目を踏み出すべきなのは、やはり私からだろう。


 まずは、挨拶。


「うん、分かった。次会ったら私から挨拶してみる」

「せいらは素直だね~」


 久美に何故か頭を撫でられた。


「……大丈夫、今日話したら緊張も解けたから、普通にできると思う」

「うん、またどうなったか教えて」

「ファイト~~」

 

「さすが千恵、知恵が出たね~」

「ふふ、伊達に中学時代、勉強ばっかりしてないからね」

「彼氏は?」

「できたことないけど?」

「……ファイト~~」


 こうして、私は次に遼太郎に会った時、自分から挨拶することを決意した。


『何とかなりそうかも』と、当時の私はなぜか自信満々になっていた。


 その小学生のような作戦に疑問を持つ人間は、残念ながらこの三人の中にはいなかったのだった。

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