第7話 四月五週(前編)
帰りの電車で南を発見した場合の対応について、俺は素晴らしい方法を発見した。
電車から降りてすぐに、駅のホームに設置されているトイレに駆け込むのだ。
この方法を思いつくまで数日間かかってしまったが、駅構内で南と鉢合わせる可能性がほぼゼロになった。
このスマートな解決方法を思いついたことと、今日がゴールデンウィークの前日ということもあり、俺は浮かれていた。
どれくらい浮かれていたかと言うと、日置と連れ立って学校を早退し、昼から夜までファーストフードで話し込んでしまったくらいだ。
おかげで、帰る頃にはいつもと同じ時間になっていた。
「あれ、何であいつまだいるんだ?」
また電車内で南を発見した俺は、トイレへの寄り道を終え、駅の駐輪場に向かっていた。
降車客自体が少ないため、トイレで時間を潰してから出るとほぼ無人駅になる。
駅から一歩踏み出すと、いつもならば誰もいない駐輪場に、南と複数の人影があった。
こんなところで話してるということは、西中の同級生の可能性が高い。
それならば俺が会いたくない人間の可能性が高いと考え、もう少しトイレで時間を潰そうとした。
――その瞬間。
「……や、やめてください!」
南の怯えたような声が聞こえてきた。
「……!」
その声を聞いた瞬間、体に緊張が走る。
俺の存在は、まだ誰にも気付かれていない。
これで話が終わって、ハイさようならとなれば、何の問題もない。
「はっ? 何もしてねーじゃん」
「何もやめらんねーよ」
「わ、私もう帰るから……」
「いやいやいやいや」
「明日から休みなんだから、遅くなっても大丈夫っしょ」
「い、いや……」
……全く話は終わらなかった。
これは間違いなく絡まれている。
しかも質の悪い集団に。
このまま放っておいたら、南は間違いなく辛い体験をすることになるだろう。
……できれば南とは会いたくない。
話もしたくないし、する気もない。
見ているだけなら、いや、見なかったことにできたら楽だろうが……。
ここで見なかったことにしてトイレで時間を潰せるほど、俺も人として終わっていない。
俺の心の葛藤が終わる頃、輩が南の腕を掴んだのが見えた。
「だ、誰か……!!」
南が声を上げた瞬間、俺は拳を握りしめ、駐輪場へと足を踏み出した。
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