第8話 四月五週(後編)
「お、お、お前達、何やってるんですかぁっ!」
震えながら飛び出した俺は、緊張のあまり良く分からない言葉を発してしまう。
ロン毛の教師か、ツンデレの人形か。
「あぁ……っ!?」
「!?」
こちらを見た輩達は、俺の姿を見て一瞬動揺したようだ。
南も動揺したように見えたが、気のせいに違いない。
敢えて俺も確認しないよう、南から目を逸らした。
「な、なんなんだぁっ!!」
俺はもう一度気合を入れて叫ぶ。
「お、お前が何なんだよ!?」
「通りがかりの一般市民だっ!」
「どう見ても不審者じゃねーか!!」
不審者に不審者と言われてしまったが、所詮輩の言うことだ。
絡まれた女性を助ける俺の一体どこが不審だというのだろうか。
……強いて言えば顔を隠すため、ファーストフードの紙袋を目出し帽にして、頭から被っていることだろうか。
しかし、驚かせたのも束の間、緊張して震え続ける俺を見た輩達は落ち着きを取り戻したようだ。
「なんだこいつ」
「やっちまうか……」
注意が俺に向いた。
何だこれ、チャンスか。
「そこの女ぁ、さっさと行け! 走れぇッ!!」
「っ!!」
その言葉を聞いた南は、輩の横を抜けて走り出す。
「モテない男はかわいそうだねぇ! オラオラ系を勘違いして、犯罪に走るんだから!」
「なんだと……」
「おー、こわ」
「てめぇ、待てっ!」
煽りながら南と逆方向に走り出す。
輩の標的は俺に変わったようだ。
南を追いかけるやつはいなかったので、走るのをやめて振り返る。
輩全員が俺に追いつき、少し息を荒げながら言う。
「お前、もう終わりだぜ」
「謝っても許さねーから」
輩三名は、俺を追い詰めたと思い込み、好き勝手言っている。
緊張で震えていた不審者を、三対一で囲めばそうなってしまうだろうが……。
一人、背の低い男が俺に近付いて、俺の肩を強く押した。
その瞬間――。
「うッ!」
そのまま崩れ落ちる背の低い男。
「は?」
「え?」
何が起こったか、理解が追い付かない輩二名。
俺の足元で呻く輩一名。
特に何事もなかったかのように振る舞う不審者一名。俺だ。
「あ~~、痛い痛い。三人に囲まれて、暴力まで振るわれたら、もう何しても正当防衛だよな~~」
肩を抑えながら、大げさに言う俺。
俺の震えは止まっている。
何を隠そう、南の前に出ていくことに緊張していただけで、こんな雑魚には最初からビビっていない。
肩を押された時、鳩尾に一発入れてやったのだ。
「おい、お前、紙袋の中身をリュックの中に出したせいで、油臭くなったじゃねぇか」
そう言いながらもう一人の輩の腹に拳を入れる。
持ち帰りした紙袋の中身は、走ったことによってリュックの中で散乱していることだろう。
ハンバーガーとポテトで、リュックの中がハッピーセットだ。
全部こいつらのせいだ、許さない。
「がっ……」
二人目の輩が言葉にならない声を上げる。
絡んでくるなら体くらい鍛えておけよ、と思う。
その様子を見て、最後の一人が途端にビビりだす。
「あ、あ……」
震えて上手く動けない、先程までの俺を見ているかのようだぜ。
「てめぇらみたいなのが駅前にいたら、過疎化が進むんじゃ、ボケ!」
先の二人と同じように、腹に一発入れて沈める。
輩三兄弟、これにて成敗完了だ。
「これに懲りたら就職しろ」
こんな時間にこんなことしている連中は、きっと仕事をしていない。
そう決めつけて、俺は決め台詞を放った。
閑散とした駅前の横道。
夜中に地面で呻く男達。
それを見て満足気に腕を組む紙袋を被った男。俺。
誰がどう見ても、不審者は俺なのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます