emergency-09
「気を付けろ! 焼かれるぞ!」
「皆さん、引き続き攻撃をお願いします! 回復も補助魔法も! 俺の鞄にエリクサ―が入ってます!」
シークの声に頷き、バスター達の攻撃にも一層の熱が入る。嫌がらせのように魔法を畳みかけ、縄を巻き付け、怯む様子は一切見せない。
「炎を吐くぞ!」
「……ヴォフッ」
「うおっ!? あっぶねえ……」
アークドラゴンが数メーテ先に炎の玉を吐く。その場所が高温で溶け、マグマ溜まりのような沼になる。
「こんな攻撃も残してやがったのか!」
新たに1つ、また1つと灼熱の沼が発生し、少しずつシーク達の動ける範囲が狭められていく。熱気のせいで皆の前髪が汗で額にべったりとはりつく。
「ビアンカ……じゃないグングニル! 翼を完全に斬り落とさないと飛び去ってしまう!」
「翼は任せるばい! あたしはケルベロスちゃんと首を貫くけん! 用心しなさいね、鱗が毒を持ちよるごとある!」
「毒……イヴァン! あーまた間違う、アレス! 尻尾はいいから左翼を落とそう!」
「分かりました! この血はむしろ治癒を促すために流しているのかもしれませんね!」
尻尾を切り落とす事を諦め、シークとイヴァン(アレス)がアークドラゴンの背に乗り、翼へと攻撃を開始する。燃え盛るような気力を生じさせながら、イヴァンの体が空中でくるりと回る。
「ブレードロール・焔!」
イヴァン(アレス)が縦に回転し、火車のようにアークドラゴンの翼に襲い掛かる。その翼を半分程斬り裂いた上で焦がしたのは、傷口を焦がし、血液による治癒を阻害するためだ。
「負けてられないね、行こう! スワロウリバーサル・フレア!」
返し斬りによってジャリっと鱗の表面が擦れ、割れる音が聞こえると同時に左翼が完全に斬り落とされた。
「やった、このまま片方の翼も……」
シークが確かな手応えを感じ、地に落ちた翼を見てガッツポーズをする。だがアークドラゴンはシークをチラリと振り返っただけだ。再びゼスタとビアンカへ引っ掻きや噛みつき、炎を吐くなどの攻撃を始める。
「どういうことだ、翼を落としたのに全く気にもしない……?」
「飛べなくなったのですから、物凄い反撃や憤怒を見せると思ったんですが」
「アークドラゴンにとっては気にするような事ではない、という事だね。とりあえず、翼を落としても気にしないのならもう片方も落とそう」
「了解しました、シークさんは首を落とす方に回って下さい!」
シークはアークドラゴンの背の上を駆け、そのままバルドルを首へと振り下ろす。
「フレア・ブルクラッシュ!」
深くはないものの、鱗を叩き割って肉を斬った確かな手応えがある。共鳴ならアークドラゴンと戦えると思った矢先、後方からは叫び声が上がった。
「うわぁぁ!」
「えっ、アレス!?」
「ケア! ……ヒール!」
アレスは右翼を斬って後方の地面へと降り、再び斬り上げるために地面を蹴ろうとしていた。しかしその瞬間をアークドラゴンの短くなった尻尾が襲う。
イヴァンの体は弾き飛ばされ、アレスは手放されてしまった。共鳴は武器を持っている間でなければ維持できない。
「おい3人とも! 俺様とシャルナクの共鳴はいったん解く! 治癒術までは上手くいかねえ、救護に当たるから暫く耐えやがれ!」
「回復魔法が使える人は、加勢頼むばい! ……油断出来んっちことやね、早くこのまま……」
「うおっ!?」
3人を背に乗せたまま、アークドラゴンが体を独楽のように一回転させた。急な動きについていけず、ビアンカ(グングニル)とゼスタ(ケルベロス)が振り落とされる。
背に乗っているのは首にバルドルを突き立てたままのシークだけだ。
「危ない! アイスバーン!」
シークは咄嗟に大気を凍らせ、2人がマグマの沼に落ちないように厚い氷を敷いた。
溶けるまでは一瞬だが、足場が出来れば飛び退くことが出来る。間一髪免れた2人の無事に胸を撫で下ろし、シークはアークドラゴンへの攻撃を再開した。
「血まで凍らせる! ブリザード・ブルクラッシュ!」
「シーク、まずい! 僕をそのままにしてしっかり掴まっておくれ!」
「えっ……えっ!?」
アークドラゴンが今度は上下に体を動かす。シークを振り落とそうとしたのかと思っていると、アークドラゴンは数歩の助走の後で飛び上がった。
「うそだろ……」
斬り落とした筈の翼は、確かに地面に両翼とも落ちている。しかしアークドラゴンは空を飛んでいる。
バルドルに掴まったまま、小手の革が焼け爛れそうな鱗を触らないようにして、シークはゆっくり振り返った。
「アークドラゴンの、気力の翼……! 翼を切り落としたのは無駄だったのか!?」
「この巨体を気力だけで飛ばすのはかなり消耗するはずだ、むしろこのまま飛ばせた方がいい」
黒く禍々しい気力が、翼の形となって浮かび上がっている。
シークが呆然としながらも振り落とされないように踏ん張っていると、地上から何かを叫ぶ声が近づいてきた。
「……業火……乱舞ゥゥ!」
それはゼスタの声だった。ケルベロスとの共鳴を解いたゼスタは、同じく共鳴を解いたビアンカとの合わせ技で飛んできたのだ。
ゼスタはビアンカのフルスイングで足裏を打ち飛ばされ、まだ然程高度がないアークドラゴンへと攻撃を仕掛ける。
その瞬間、ゼスタはケルベロスと再び共鳴し、攻撃力が増した業火乱舞で腹部を抉るように炎の刃で切り刻んだ。上空にいながら攻撃されるとは思っていなかったのか、攻撃を全て当てられたアークドラゴンはされるがままだ。
「シーク、後は頼んだぁぁ!」
共鳴を解いたゼスタが地上に落ちていく。地上ではゼスタの落下地点に駆け寄り、プロテクトを張ろうとするシャルナクの姿が見えた。
「俺達も攻撃だ!」
「問題は、このまま他の皆がついて来れない所に飛んで行かれる事だね。疲れさせるのも作戦だけれど、早く地上に落とさないと」
シークが用心しながら鱗を掴み、バルドルをゆっくりと引き抜く。足で踏ん張ってバランスを取り、バルドルを再び背に思いきり突き刺した。
「バランス、頼んだよ!」
「威力もオマケしておくよ」
シークはそのまま肉を裂きながら、首元へと斬り上げる。
「地走り……フレア!」
「そのままで。ビアンカの魔槍が来る」
アークドラゴンの体が急に揺れ、シーク達にもその衝撃が伝わる。ビアンカのスマウグが命中したのだ。
「すげえ……ビアンカこんなところまで……うおっ!?」
「エアリアルソード、恐らくイヴァンだ。支援の魔法使いに掛けてもらったんだね。アルジュナとシャルナクのパワーショットも来るよ」
空を飛ぶアークドラゴン相手に、地上にいる者達もただ指をくわえて見ているだけではなかった。それぞれ一番射程の長い技で、撃ち落とそうと試みている。
「会心破点いこう!」
「シーク! アークドラゴンの攻撃の向きを変えるんだ!」
「待って、この方向だと先には村が……まさか届かないよね!? 畳み掛けるよ! ブルクラッシュ・フレア! 一刀両断!」
シークが叩き斬った衝撃でターゲットから逸れたのか、短く放たれた光の砲弾は何もない荒野のど真ん中へと降り注いた。吹き飛んだ大地から爆薬程度では再現できない程の爆炎が立ち昇る。
「グオォォォ!」
アークドラゴンの咆哮が大空に響き渡る。
「あんなのが村に当たったら……! バルドル、渾身の力で頼む!」
「分かった、地に落とそう」
地上からの攻撃は暫くして完全に止んだ。皆気力や魔力を使い果たして倒れ、エリクサーを飲み干して回復を待っている。
だが、アークドラゴンはそれを見逃さなかった。唸り声と共に見下ろすと、大空を旋回して皆のいる方へと向きを変え、大きく口を開く。
「まずい! みんなを狙う気だ! いくよ会心破点!」
「全力だ! 僕の気力も全部使っておくれ!」
「みんなー! 逃げろォォ! 会心……破点! フレアァァ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます