Volcanic island-08
海の方角から、巨大な黒い炎が一直線にシーク達の目の前を通り抜けた。危うく焦げてしまうのではという程の距離に、その場にいた死霊術士達さえも一瞬固まる。
「何だ……」
「海の方! 誰か来ます!」
「まだ仲間がいたか! 皆捕える……まずい避けろ!」
視線の先には、海から昇る朝日の光を斜め後ろから浴び、両手を前に突き出して詠唱する男がいた。
皆が認識した瞬間、またもや炎が放たれた。その軌道上にいるゴウンやカイトスターがバク転をして避ける。
「俺達の援軍じゃ、なさそうだな」
「ああ、アダム様!」
「アダム様が戻られた! これで我々の勝利だ!」
「えっ、今……何て」
人影はゆっくりと近づいてくる。真っ黒なローブにフードを被った人物を見て、魔王教徒達からは歓声が上がった。
それぞれが呼ぶその名は、この場で最も聞きたくない名前だった。
昨晩捕えた男から訊き出した通り、やはり魔王教徒はアダム・マジックと繋がっていたのだ。
「アダム様、敵襲です! 仲間が捕えられ……」
「皆、警戒しろ!」
ゴウンの叫び声で、皆が武器を構える。アダムの後ろには、もう2人の男が並んで歩いていた。
「くそっ……魔具はないし」
「とにかく戦わなきゃやられる! シーク、ビアンカ! 俺達で行くぞ。ゴウンさんは魔王教徒の残りを片づけて下さい!」
「ちょっと勝手に決めないで! あーもう! グングニル頼むわよ! ミラ、私達の回復にまわって!」
シーク達はアダムの許へと駆け出す。他の魔王教徒との混戦に持ち込む事だけは避けなければならない。
「お嬢! 思いっきりやんなさい! アダムは魔法使いなんやけ、どうせ防御術くらい自分に掛けとる!」
「分かったわ!」
まずビアンカが先頭に出る。空を割く音が鳴り、残像が見える程の速度で槍を思いきり振り切った。
「フルスイング!」
「続くぞ! 双竜斬・峰打ちィィ!」
「ゼスタ! 剣閃の要領でそのまま俺っちの峰を直接当てろ!」
「ライト・ブルクラッシュ!」
その隙に、ゼスタとシークが後方2人の魔王教徒に攻撃を仕掛ける。アダムから引き離し、1対1に持ち込むのだ。
「僕は聖なる裁き、セイント・ブルクラッシュと名付けたのだけれど、どうだい」
「次はそれで……まずい!」
魔王教徒はケルベロス、バルドル、それぞれの剣の腹で攻撃を与えられた。だがそれだけでおとなしく倒れてはくれず、反撃のため毒沼を出し同時にヘルファイアを放つ。
攻撃を与えた直後、シークが無防備な状態から身を守ろうとアイスバーンを唱えるも、間に合わない。
「アイスソード……!」
「魔法障壁・マジックウォール! ハァ、ハァ、間に合った! シークさん、ゼスタさん! あと20秒くらい維持します!」
そこにミラが到着し、プロテクト・オールや継続回復魔法を発動させた。
「助かった、有難う! ビアンカ、耐えてくれ!」
「グングニル頼みなの、早めにお願い……旋風ゥゥ!」
「お前らが済めば……その女を殺してアンデッドにしてやろう……我らを見くびるな、ヘルブラストォ!」
「ブリザードソードォ!」
「シーク」
バルドルの呼びかけに応える暇もなく、シークは魔王教徒を数回殴打する。ヘルファイアを唱えられるとブリザード、ヘルブラストを唱えられるとストーンバレットで無効化していく。
とにかく攻撃が無意味である事を見せつけて、相手の戦意を挫くつもりだ。
幾ら悪者と言えどこれ以上痛めつけたくは無かったのだ。
「シーク、こいつを倒したら伝えたい事があるのだけれど」
「分かった、こいつを拘束するから手短……柄短に」
「シーク! こっちは終わった、気絶しちまった! 俺はビアンカの加勢に回る!」
「降参しろ、殺そうと言う訳じゃない。俺達はアークドラゴンの復活を止めたいだけだけ……」
「まずいわ! シーク避けて!」
「シーク! 後ろに跳び退くんだ!」
魔王教徒を諭そうと試みるシークに、ビアンカとバルドルが大声で警告する。反射的に体が動いたシークの目の前を、黒い炎が駆け抜けた。
「うわっ!?」
大きな目を見開いたシークは、恐る恐る左前方の地面へと視線を移した。
「なん……で」
「こいつ、仲間を……」
シークの視線の先には、先程までシークを睨みながら悶えていた魔王教徒「だったもの」が横たわっていた。
アダムの攻撃が直撃し、一瞬で焼かれてしまったのだ。
「アダム! アダム・マジック! あなたは魔法使いの生みの親、後世の人々の暮らしを守る存在ではなかったのですか!」
「……」
「様子がおかしいわ! これだけ殴打しても倒れない! 確かに攻撃は通っているのに……」
「はっ、起きろ! 逃げて! 逃げ……」
シークは咄嗟にゼスタが倒した魔王教徒へ呼びかけた。しかし、気絶したままの魔王教徒は起き上がることなく、アダムの魔法に焼かれてしまう。
「無抵抗な人を……アダム・マジック! 悪人を裁くのは俺達じゃない! こいつらは法が裁く! だから俺達は生かして捕えるつもりだったのに!」
シークの怒りが伝わっていないのか、アダムはシーク達に見向きもしない。そのまま殴打されながらも無言で歩き続ける。
「何だこいつ……!」
「この……!」
ゼスタがアダム・マジックのフードに手を掛け、その頭部を露わにさせる。その瞬間、ゼスタだけでなく、シークとビアンカも固まった。
「そういう事か、アダム・マジックの心が全く読めねえと思ったんだ」
「あたしも、人に攻撃をしよる感覚やなかったけん、おかしいち思いよったところよ」
「……アンデッド」
それは目が白濁し、肌の色は黒緑色、髪が所々抜け落ちた男のアンデッドだった。
マントを引き剥がせば、打ち付けた場所は抉れ、足の骨も折れていた。しかし強い魔力を纏っているのか、そのまま歩き続けている。
「文字通りの傀儡……」
まるでシーク達の事など少しも見えていないのか、アダムはそのまま壊滅状態のアジトに向かう。
「くっそ、倒せない! 止めないと」
「ゴウンさん達に退避を呼び掛けて! ミラ、テディさんと手分けしてレイダーさんとクレスタに、いったん退避するように連絡を」
「分かりました!」
ミラとゼスタが走りだす。ゼスタは魔王教徒を制圧したゴウン達に、ミラはテディに話し、狙撃を終えたレイダーとクレスタにも状況を伝えに行く。
テディから連絡を受け、イヴァン達もこちらの様子がおかしいことに気付いた。魔具や縄で拘束した者達を一カ所に集め終わったのか、こちらへと向かってくる。
「イヴァン! アンナ、ディズ! 離れろ!」
「シーク、アンデッドなら手加減無用よ! 叩き潰して終わり!」
「駄目だ! こいつはアダムの手掛かりになる! もしかしたらあの拘束した死霊術士の中に、操っている奴がいるかもしれない」
「確かに魔王教徒はこいつの事をアダムって呼んだし、アダムに繋がる何かがありそうね、でも捕える方法は……」
シークはアンデッドを解放出来ないかと考える。その間に再びアンデッドが詠唱の構えに入った。
「魔法が来るぞ!」
「シーク、アダムの事はさっきの奴からある程度訊き出した。こいつから離れるんだ」
「でも」
「こいつは傀儡、手掛かりじゃない。早く退くんだ」
「でも、操っている奴を見つけ出さなくちゃ」
「言わなきゃ分からないのかい。こいつを操っているのがアダム・マジックなんだ」
「えっ……」
シークがバルドルの言葉に立ち止まった瞬間、アンデッドは詠唱を終え、巨大な岩を発生させた。
「うっそ、何!?」
それは民家数軒分ほどの大きさとなってシーク達の頭上を覆い、物凄いスピードで前方へと飛んでいく。
「これでアジトの魔王教徒を潰す気か!?」
「いや、それにしては飛び過ぎて……」
その巨石の姿が遠く小さくなった時、退避を始めていたディズの大きな叫び声が聞こえてきた。
「火山にぶつかる!」
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