Volcanic island-07


 シークの言いたい事が理解できたバルドルは、その推理を否定しようとしてやめた。


 バルドルはアークドラゴン封印のために力を与えられたと信じていた。だが本当にそうだと言い切れる根拠が何もない事に気がついたのだ。


「今度は、僕の考えを聞いてくれるかい」


「うん、どうぞ」


「アダム・マジックは……もしかして僕に心を読まれたくなかった?」


「思惑は他にあった……」


「その心は? と言って貰えるかと思ったのだけれど」


「真面目な空気が台無しだろ、続きをどうぞ」


 途端にふざけはじめるバルドルの鞘をシークが軽く叩く。


「アダムは、そもそも僕を封印に使う気がなかったのかもしれない」





 * * * * * * * * *





「よし、手筈はいいな。レイダー、クレスタ、準備が出来たら突撃の合図を」


「分かった。アルジュナと俺の気力で空気の矢を射るから、何か的になるものを持っていてくれ」


「俺はサイレンサーを付けて少し離れて狙います。銃で進むと決めた俺の腕前、見ていて下さい。じゃ、行ってきます」


 夜明けが訪れ、シーク達はアジトの近くで身を潜めていた。風上となる火山の裾野の窪みにはレイダーとクレスタがいる。合図を出せば奇襲開始だ。


 寝ぼけている者は朝の食事や道具の音なのか、敵襲なのか何かわからずに反応が遅れる。起きている者も警戒していなければ装備を持っていない時間だ。


 アジトでは数人が朝食の準備を始めたり、顔を洗ったりと完全に油断している。警備の者が1人戻っていない事など、誰も気づいていない。


 そんなアジトの様子を窺っていると、ゴウンが左手でつまんでいたハンカチがヒュンと鳴る風の音と共に吹き飛ばされた。


 奇襲開始の合図だ。


「よし、暴れるぞ! シーク、リディカ、ミラ! 威力はどうでもいい、小屋とテントをまず燃やしていけ!」


「はい!」


「カイトスター、ゼスタ、ビアンカ、いくぞ! アンナ、ディズ、イヴァン、しっかり守れ! テディ、連携役頼んだ!」


「はい!」


「行くぞ!」


 ゴウンの合図で一斉に立ち上がり、アジトへと攻め入る。魔王教徒達はまだシーク達に気付いていない。


 見張りもしていなかったのか、ファイアーボールが各テントや小屋に放たれたその瞬間も、魔王教徒達は何が起こったのか分かっていなかった。


「おい、燃えてるぞ! 火山の噴石か!?」


「違う! 襲撃だ! 起きろ!」


「ファイアー……ソードォォ!」


「ファイアーボール!」


 敵襲に気が付いてももう遅い。外に出ていた者は装備を取りに戻るのを躊躇い、中にいた者は揺さぶり起こされ、着の身着のまま這い出てくる。


「破ァァァ……フルスイング!」


「双竜斬・峰打ちィィ!」


「ライトボール! 影消していきます!」


 慌てて這い出てきた魔王教徒に対し、ゼスタとビアンカが多少の骨折はご愛嬌とばかりに叩きつけていく。ミラは地面にライトボールを次々と置いて影を消している。


 シーク達は武器に痺れ薬を塗っていた。斬らずに動きを止める作戦だ。


「うぇぇ、気持ちわりい。ゼスタ、本当にこれ終わったら拭き取ってくれんだろうな?」


「イヴァン! アレスの側面でどんどん打ち付けて行け! ディズは動きを真似しろ!」


「はい! アレス、指示して!」


「分かりました! とにかく顔を打ち付けて、はい右! 次はミラの後ろです!」


「なんだこいつら! うわぁぁ!」


「死霊術士! 何やってる!」


 なんとか装備を持ち出した死霊術士が数人、急いで戦闘態勢に入る。魔王教徒らから「無防備な者相手に卑怯だ」と言われながらも、とにかくシーク達は戦力にならない者達を次々に攻撃していく。


 勿論殺したり、痛めつけるためではない。気絶させた者をテディ、ディズ、アンナが次々に縛って拘束していく。


「人を攫って、世界を滅亡させようとしている奴らに、卑怯だなんて言われたくない……ね!」


「シークさん! 小屋とテントは全部燃やしました、行って下さい!」


「アンナ、ディズ、死霊術士はシークくん達に任せろ! 動ける奴を減らせ!」


 辺りはすっかり明るくなり、煙や炎の向こう側では激しいぶつかり合いの音が聞こえる。


毒沼ポイズンボグ!」


「ヘルファイア!」


 術を畳みかけられると、不用意に突っ込んでは行けない。その数はおよそ30人、こちらが用意している魔具の数が足りない。


「ゴウンさん!」


「無傷で捕えるのは難しそうだ、ガードは俺に任せろ、リディカがついている、行け!」


 ゴウンが突進を始めると、すぐに足元に死霊術士が作りだした毒沼が発生する。


「アイスバーン! これで沈みません! 滑りやすいので気を付けて! ……ブリザード!」


 シークが機転を利かせて毒沼を凍らせ、ゴウンを死霊術士に接近させる。接近戦が出来ない死霊術士達は、逃げるためにすぐに影移動を始める。


「お嬢! 行くばい!」


「ええ、お見通しよ! フルスイング!」


十字斬クロスアタック!」


「ゼスタ! 後ろの奴を蹴り飛ばして!」


 影から出てくる死霊術士をビアンカがスイングで殴りつけ、ゼスタが両手に持ったケルベロスの峰と柄を使って強打を喰する。


 更にビアンカが槍を回転させて叩きつけ、死霊術士を地面に倒していく。


「くっ……この島にモンスターが居ない事が仇になったか! ヘルファイア!」


 死霊術士が漆黒の炎を発生させた。死霊術士は全力だが、シーク達は手加減せざるをえない。どうしても発動の隙を与えてしまう。


「みんな避けて! ブリザード……ソード!」


「ああ良かった、僕の出番があったようだ」


「まだまだ行くよ!」


「うん、おかわり大歓迎」


「トルネードソードォォ! テディさん! 魔具を!」


 シークが吹雪生み出した後、渦巻く風で魔王教徒の体を浮かせては地に落としてく。


「シーク……えげつないな、それ」


「うっ……そんな事より拘束!」


「刃の代わりにどんどん剣の腹でぶっ叩いていけ!」


 カイトスターが通常の技を出しつつ、器用に剣の腹を当てていく。側面で平手打ちのように殴られた者は悶絶し、術を唱えられる状態にない。


「クソオォォお前らぁ! 我らの計画の邪魔だァァァ!」


「シールドバレットォ! 悪い、毒解除……頼む!」


「リディカさん、後ろ!」


「てやぁー! 大丈夫です! ぼくとアレスで守ります!」


 動き回れる死霊術士の数はとうとう10人程になった。後方では戦う術を殆ど持たない魔王教徒達が拘束されていた。


「結構順調ね……アンデッドは隠していないようだし」


「アンデッドなら回復魔法でどうにでもなる。ゴーレムみたいなのじゃなければな」


「魔具、これで最後です!」


 テディが最後の魔具を死霊術士の腕に嵌める。もう気絶させる以外に手段はない。死霊術士は一斉に詠唱を始め、その場に黒く渦巻く風を発生させる。


「ヘルブラスト!」


「ストーン! みんな影に!」


「掛かったな! 毒沼! 自ら死の影を作るとは愚か者め!」


「避けろ!」


 死霊術士達はニヤリと笑い、半数が影移動に移る。そのタイミングをずっと待っていたのはむしろシーク達の方だった。


 風を切る音が死霊術士の耳を掠めた瞬間、彼らは何かの衝撃を受けた。


 彼らの視界には確かに全員が映っていた。


 しかし違和感を覚えた腕や足に、矢や銃弾が突き抜けた痕が確認できた瞬間、彼らは急に襲う痛みと恐怖でパニックに陥った。


「は、ハァァァ! 腕がぁァァ!」


「だ、誰だ! 何処から……痛ぇェェェエエエ……!」


「痺れ……動かねえ、手が、手がァァ!」


 体の自由が奪われていく恐怖の中、彼らが睨む視線の先には、レイダーとクレスタの姿があった。


 火山が噴煙を上げるそのはるか手前の丘で、2人は矢と銃口をしっかりと向けて威嚇していた。残りの死霊術士はそんな状況など全く知らない。影移動によって、シーク達の罠の目の前に現れる。


 魔王教徒は普段からヒッソリと行動していて、まともな交戦経験がない。どんなに死霊術を極めようと、それを戦略的に使いこなすことが出来ないのだ。


「楽勝だな」


 ふとカイトスターが呟いた時だった。

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