Volcanic island-06
シークに「ね?」と言われた時、バルドルは誇らしげだった。鞘に隠れていたものの、少し艶やかだったかもしれない。
「そうだったったな、頼めるか」
「シーク、その人に僕を触れさせておくれ」
拘束された男は仰向けに寝かされ、バルドルを腹の上に置かれる。まずはシークが男に向かって質問をすることにした。
「まずはあなたは……魔王教徒ですか」
「うん、魔王教徒だって」
「ここで何をしているんですか」
「アークドラゴン復活の鍵を集めている。アジトを見つけられるとは、計画が台無しだ。アークドラゴン復活も近いというのにだって」
男は驚いたような顔をしているが、驚いたのはむしろシーク達の方だった。
「アークドラゴンは、まだ復活していない!」
「良かった……でも、魔王教徒はアークドラゴンが復活しているかどうかまで情報を得ているって事でもあるね」
「アークドラゴンはどこにいる!」
「ここでそれを仕切っているってことか。何人いるんだ……」
「あの……心を読むのも大変なのだから、1つずつゆっくりお願いしても?」
各自がそれぞれ思い思いに発言するため、バルドルはどれから答えるべきか悩んでいる。自分の持ち主の言葉が1番だと判断したバルドルは、幾つか心を読んだ後、シークの質問から答えていった。
「えっと、ここの人数は104人、ここが魔王教徒の現在の本部、明日攫ってきた人が到着して、鍵を彫り込む……んだってさ」
「104人……結構多いな」
魔王教徒はアークドラゴンの封印されている場所を把握していた。隠し通せないと思ったのか、それからは抵抗を見せなかった。
そのアークドラゴンがまだ復活していない事、明日来る者達にイヴァンのように術式を彫り込んで、封印解除に利用する気だという事を白状した。
途中からは隠している事を全て話すとジェスチャーされたが、最後まで口を塞ぐ布は外されなかった。
それら1つ1つの情報がどれも衝撃的なものだったが、シークはその話の中で特に重要な情報に気が付いた。
「術式を彫るって事は、ここにアダム・マジックがいるってことだよね」
「そうか! そうよね! バルドル、アダム・マジックの事を訊き出して!」
「……この人はあまり知らないようだけれど、ここで彫るのは確かなようだよ」
シークはアダム・マジックがいる事を確信する。そして前から疑問に思ってたことを1つ尋ねた。
「アダム・マジックは……アンデッド?」
「アンデッドはアダムではないみたいだね」
バルドルは男の心を読んで、その疑いをすぐに否定した。
「えっ、なんだって? じゃあ……魔王教徒は何のために墓を発いたんだ」
「アダム・マジックの墓を荒し、遺体を持ち去ったのは確かなんだよな?」
「えっと……それは確かだね。もう50年以上前らしい」
「そんなに経ってたのか……そりゃあ痕跡なんて消えてる訳だ」
シーク達はその目的がますます分からなくなってくる。
アレスが感じたイヴァンの背の術式から漏れ出す魔力は、間違いなくアダムのものだ。けれど、アダムがアンデッドではないとなれば、今までの仮説が根本から崩れてしまう。
「アダムの魔力は……どうやって術式に込めた?」
「手掛かりを掴みに来たんだし、ここで何を悩んでも仕方ないわ。知ってる奴を捕まえるしかない」
アダムの事がどうであれ、この星明かりの中では戦えない。ビアンカの言葉に頷くと、皆は作戦を立てはじめた。
「俺達のパーティーで攻めるのには自信がないですね。俺の銃で、何処からか身を潜めて狙撃するべきですか? 足や腕なら命までは奪わない」
「狙撃部隊としてなら、俺もクレスタの援護をしよう。地形的にどこがいいか……」
「わ、私、ガードとして通用するかな、邪魔にならないかな」
「ぼ、ぼく……ちゃんとレイダーの狙い通りにできるかな……」
全員が攻撃に精通しているとは限らないが、持って来た魔力封じの魔具は20個しかない。ましてや対人戦は相手の息の根を止めることができない分難しい。
「そうだな……狙撃はレイダーとクレスタ。アンナとディズはリディカを守れ、リディカが全体の回復を。ミラは戦況を把握し、イヴァンと共に各所に応援。捕虜がいれば安全な所まで連れて行くように」
「落ち着いて、とにかく後衛を狙う奴らを報告しろ。テディが指示を出す。シーク、ビアンカ、ゼスタは魔具を。俺はカイトスターと一緒に前線に出る」
「分かりました。俺達は死霊術士を優先的に倒していこう。ディズ、アンナ、クレスタ、ミラ、もう一度魔王教徒との戦い方を教えておく。死霊術は……」
交戦経験があるシークやゴウン達が色々とレクチャーをし、シャドウムーブメントなどの厄介な術の対処法を伝える。
夜明けに奇襲を掛けようと決め、少しでも力を蓄えようと休むことにした。
* * * * * * * * *
「まったく、君は大事な日の前には寝られない
「どうだろう、そうかも。でも不思議と眠れないイライラなんかはないんだ、心まで澄んでる感じ」
深夜。
暗闇の中で睡眠を取る皆の中、前線で戦うはずのシークは目を覚まし、少し離れたところで涼んでいた。見張りはクレスタとレイダーが交代で行っている。
シークの手にはバルドルがあった。
「僕はあまり活躍出来そうにないね。寝不足な上に全部峰打ち、全部斬れない。あーあ、『刃痒い』ったらないよ」
「君は寝ていていいんだよ、バルドル。見張りはレイダーさんとクレスタがやってくれてる。アルジュナも起きてるし」
「お気遣い無用。シークを差し置いて眠りこけるなんて、暇な道中以外にするつもりはないのでね」
「あっ、また寝てたな。心がけとして、いい加減じゃない?」
「うん、加減は上手いつもりだよ、どうもね。僕を差し置いて眠る分には構わないからいつでもどうぞ」
起きているからといって、特に何か真剣な話をしている訳でもない。軽快で絶妙に噛み合わない。いつ聞いても、楽しい時も真剣な時も、この1人と1本は調子が変わらない。
「……ねえ、バルドル」
「何だい、シーク」
「魔王教徒の事、色々考えてみたんだ。世界を滅ぼして、作り直すって、どういう意味なんだろう」
「そのままの意味じゃないかな」
「その世界に、魔王教徒は連れて行って貰える、と。アークドラゴンに殺されずに」
「彼らの考えではそのようだね」
どうでもいい思考から色々と物思いに耽るシークに、バルドルが案外真面目に答える。こんな時、シークはとても鋭い所を突くからだ。
「アダム・マジックはこんな状況を予測していたのかな。体を乗り換えたのが本当なら、死霊術が生み出される事も想定していたのかな」
「死霊術自体はアダム・マジックの術研究の段階で、既に出来上がっていたのかもしれないね」
「その結果、自分の体がアンデッドとして使われる……いや、捕まえた男はアンデッドにしていないって言ったんだっけ」
「謎が全く解けないのは僕も気になっている。でも疑問が浮かぶにつれ、魔王教徒とアダムの距離が少しずつ近くなっている気がするよ」
バルドルの言葉を聞き、シークは何か嫌な予感が体中を走った。シークのこの嫌な予感というのはよく的中する。
「……シーク、もしかして何か嫌な事を考えたのかい」
「アダム・マジックが君達に術式を彫って、封印の道具にしたんだよね」
「そうだね」
「でも、バルドルだけ封印には使われなかった。アダムが封印になったけど、他に術式を彫れる武器が1つもなかったとは考えづらい。アダムが君に役目を伝えた時、心を読んだかい」
「残念ながら」
「魔王教徒は、アークドラゴンの封印場所を突き止めていた。封印を解く方法も知っている。じゃあ俺達が知っている方のアダムの遺体を手に入れてから50年、何をしてたんだ? 君の在り処も、君に込めた魔力で追えたはずだ」
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