Landmark-04
シークの分析に満足したのか、バルドルは理由の説明を始めた。
「これだけの数がいるんだ、人間を襲うつもりがあればもう被害は出ている。サハギンは海の中に戻れないんだよ」
「ハリケーンからではなくて、もっと強いモンスターが迫っているのかも」
「僕はサハギンが恐れる正体に心当たりがある。晴天で君が全力を出せる状況なら、きっと君を討伐に向かわせた。でも、この状況で戦うのは厳しいね」
バルドルは何かを危惧していた。
ただ、目の前で戦っているバスター達、もちろんゼスタやビアンカを含め、全員サハギンがここに現れた本当の理由に気付いていない。
「バルドル、君ならどうする。俺が倒せないなら、どうしたらいい? 俺達が対峙すべき相手は……」
「シークさーん!」
シークがどうやって切り抜けるかを尋ねようとしていると、背後からシークを呼ぶ声が聞こえた。
「イヴァン!? 君は管理所にいる約束だ!」
「管理所と、見張り台からの伝言です! 沖に大きなモンスターがいます! 青紫の巨大なドラゴンだそうです!」
「青紫の……まさかウォータードラゴン」
シークはモンスターの特徴を聞き、一瞬で鳥肌が立った。仮説通りなら、サハギンはウォータードラゴンから逃げていた事になる。
「放送設備が嵐で壊れて、皆さんに呼びかけが出来ないんです! だからぼくが陸に港にいるバスターさんに、一斉退避をお知らせに来ました!」
ウォータードラゴンであれば、ブルー、オレンジ等級の者は太刀打ちできないだろう。サハギン相手であれば町の中でも警邏隊を組み、殲滅出来る。管理所の判断は賢明だ。
「シークさん、イヴァンさんの身の安全はボクが保証します。バスターの皆さんにはボク達が知らせましょう」
「……分かった。頼んだよ!」
イヴァンがアレスを背負ったまま、埠頭の方へと駆けて行く。1人1人に状況を知らせて回る姿を確認し、シークはふうっとため息をついた。
「バルドル、俺をここに下がらせた理由はなんとなく分かった。大勢いては共鳴の邪魔、と」
「うん、つまりはそういうこと。君は再戦したい所だろうけれど……生憎、僕にとっても主を倒された仇なものでね。今回は僕に譲ってくれるかい」
「分かった」
淡々と告げるバルドルの真剣な声に、シークはバルドルの思いが何かあるのだと汲み取って頷いた。
「……共鳴に頼らなきゃ強敵に立ち向かえない俺のこと、君はどう思ってる?」
バルドルが共鳴でシークの代わりに戦えば、いつだって困難に打ち勝つことが出来た。
もちろん足りない分は連携や工夫で補ってきた。魔法剣まで生み出し、良い所まで追い詰め、逆に追い詰められて切り抜けてきた。シークは決して楽をしてきたつもりも、安易に共鳴に頼ったつもりもない。
「何度も伝えたと思うのだけれど」
バルドルは心優しく、そして持ち主思いの剣だ。この状況を楽しみにして……いないとは言い切れないが、シークはそこを疑った事はない。
しかし、自身の力で全てを片付けられない持ち主を、どのように思っているのか。こんな時シークはそれが不安になる。
内心頼りない持ち主だと思ってはいないか、本当は勇者ディーゴのように、不完全だが致し方ない持ち主なのではないか。
「俺の強さはまだ全然足りてない。それは誰も否定できない事実だ」
人間が直接戦うより、伝説の武器が人間を操ったほうが手っ取り早い。シーク自身の能力など問題ではない、さっさと疲れて共鳴してくれた方が楽だと思われていないか。
強敵を相手にした時、シークはいつも自分の力でトドメを刺せない。そこがどうしても気になっていた。バルドルはもう一度、今度は必要以上に大きな「ハァ~」をシークへと聞かせた。
「君は自分の事をもっと評価するべきだ。僕が持ち主選びを間違えると思うかい。君以外に使われたくないと伝えたはずだよ」
「共鳴すれば解決できる、そう安易に考えてしまいそうな自分が怖いんだ。共鳴しないで済むならしたくないって、本当は思ってる」
シークの言葉は本音というより弱音だった。ここでの発言に限れば、共鳴に頼らず倒すという固い決意でもない。バルドルはそれ程に思い悩んでいたと知り、言い方を変えた。
「まったく。君なしではいられない刀身になってしまったって、言ったはずだよ。この状況では己の全力を出す事も、被害を出さずに切り抜けるのも難しい。君に出来るかどうかではなくて、殆どの人間には出来ない」
「まあ、そうだとは思うけど、でも」
「最後まで聞いておくれ。けれど僕なら出来るんだ。僕に最も適した体を貸してくれる君がいればね。僕は君じゃなくちゃ駄目なんだ、シーク。君にどれだけ自信がなかろうと」
「そこまで言うのなら……分かった。君に託すよ」
シークは目を閉じ、バルドルへと意識を集中させる。体の中に泡のようなものが沸き起こる感覚になった時、シークは意識を手放した。
目を開いた時、それはシークではなく、シークの体を借りたバルドルとなっていた。
「はぁ。我が主に一番足りない物は気力でも魔力でも技術でもない、自信だ。全く『柄が掛かる』主人だよ、何度言えば分かるのやら」
シーク(バルドル)はそう呟いてバルドル本体を構える。イヴァンの呼びかけに戸惑っているバスター達を押しのけながら、サハギンの群れを全くの手加減なしに斬り払い始めた。
共鳴したシーク(バルドル)は、風に煽られる事も雨に顔を拭う事もない。その堂々とした姿に、周囲の者は思わず息を飲む。
「みんな、下がっていておくれ。僕の主は犠牲者が出たならきっと僕を叱る。そして落ち込む。巻き込みたくないし、怒られたくないから、今はイヴァンの指示に従っておくれよ」
伝え聞いたシークの雰囲気と違う様子に、皆は戸惑いながらも頷く。その間にもシーク(バルドル)は剣閃などの範囲技でサハギンを倒し、海へと近づいていく。
「シーク・イグニスタ! 危ないぞ! こんな嵐の海に……」
「ウォータードラゴンが来るんだ。僕が止める、じゃなきゃサハギンも海に帰らないからね」
そう告げ、シーク(バルドル)はバルドル本体に魔力を溜め始めた。バチバチと鳴り出すのは電気だ。刀身から零さないように湛えられた紫電の刃は、刀身と共に高く掲げられ、沖に向かって放たれる。
「サンダーボルト。あーあ、ここからじゃ魔法剣は届かないね。僕ともあろう聖剣が魔法に力を借りるとは」
海に大きな稲妻が落ち、そこにウォータードラゴンの首から上が浮かび上がった。金色の目を光らせ、牙が上下にはみ出ている口を大きく開いている。ウォータードラゴンはこちらへと向かっていた。
「なんだ、あれがウォータードラゴンか!」
「あ、あんなの勝てるわけねえ!」
皆はその姿に腰を抜かし、呆気にとられている。サハギン達は大パニックとなって港を飛び回り、人間がいることも忘れて縮こまっていた。
「フゥゥ……グゥゥ……グルルル……」
「僕とシークが共鳴したならモンスターなど恐れるに足らず。シークが僕の事をどれだけ信じてくれているのか、強さで証明してみせる。きっとシークは安心して笑ってくれる」
バルドルはいつしかシークのための戦いを考えるようになっていた。自分が斬りたいかどうかではなく、シークを如何にして凄いバスターだと知らしめるか。バルドルはそれが楽しみでもあった。
「ひぃぃ! 来るぞ、来るぞ! 逃げろ!」
打ち付けられたウォータードラゴンの首の衝撃で、港一帯が大きく揺れた。
ウォータードラゴンは頭をニュッと伸ばし、バスターやサハギンやその死体、全てを首で海へ払い落とそうとする。
「うん、軽いね。ヒュドラはもっと強かった。君なんて芋虫と同じさ……エアリアル・スラスト」
シーク(バルドル)がウォータードラゴンの目を一突きする。ウォータードラゴンは痛みに首を仰け反らせた後、すぐに首を叩きつけて攻撃を再開した。
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