GO ROUND‐11
「……他に原因が? 何か、心当たりでもあるのかい」
「気になったのは、以前いたはずのモンスターがいないという事だけじゃないんだ」
バルドルは気になっている事を整理しながら、シーク達にも分かり易いように説明する。
「他に不審な点が?」
「モンスターはおろか、動物の死骸も見当たらない。麓のシロ村とは違って乾燥地帯だし、骨、あるいはミイラになってもおかしくない。それが全くない」
シークはそれがつまり何を意味するのか分かってしまった。不安そうなその顔は青ざめている。
「……ねえ、それってつまり」
「世界にこんなにもモンスターがいなくて、死骸も見当たらない場所があると思うかい」
「魔王教徒……死霊術の材料」
シークが呟き、皆の背筋が凍った。とても重大なことを見逃していたのだ。
「もうアンデッド化させて、どこかに引き連れているってこと!?」
「まずいな。山一帯のモンスターをアンデッド化させるなんて、村が消えるなんて次元の話じゃないぞ」
「どこに向かったのかしら。何か……何か手がかりはない? テディ、あなた双眼鏡を持っていたわよね」
「あ、はい! ちょっと待ってくださいよ……っと」
カイトスターとリディカが焦り、何か策はないかと頭を抱える。テディは双眼鏡を持ち出して辺りを見回し、何か気になるものがないかを探し始めた。ゼスタは今一度、バルドルの話から導き出される可能性を整理する。
「魔王教徒は、もう俺達が仲間を捕えた事を知っているんじゃないか。バスター管理所が警戒している事も知っているはずだ」
「そうね、動きが最近見られなかったのはそういう事よね」
ビアンカが左手の拳を顎下にあてて頷き、ゼスタの言葉に同意する。
「それを……逆手に取られている可能性がある」
「どういうこと?」
「冬の山に、ヒュドラ退治には行けない。とすれば、俺達の次の目的地はギタカムア山。奴らは4魔の封印場所も知っていたんだ」
「魔王教徒は魔王、つまりアークドラゴン関連の情報を収集しているはず。4魔封印が史実から消えた件といい、十分考えられるわ」
ゼスタとビアンカの会話に続き、皆があらゆるケースを考えようとしていた。
「だとしたら……この辺りのモンスターを狩りつくし、キマイラが村に降りて行くように仕向けて、その間にアンデッド化した、って事は考えられないか」
「でも、魔王教徒がモンスターを? ……そうか! クエストを出して、バスターに倒させたのかも! もしキマイラに遭遇してバスターが殺されても、魔王教徒は痛くも痒くもない」
「待って待って! 私達がキマイラ討伐に向かうと踏んでいるって事は、ここで私達が戦っても構わないって、そう考えているってことよね?」
「キマイラが殺すからいい、と考えている? いや、それなら奴らは絶対に俺達がやられる所を見届けたいはず」
「その間、ヒュドラも雪山で動けないし。もしかして……」
ゼスタが顔面蒼白でビアンカとシークに視線を送る。寒くもないのに震えが止まらなくなるゼスタを見かね、ケルベロスが代弁した。
「今一番魔王教徒にとって邪魔な、ゼスタ、ビアンカ、シークの故郷を壊滅させる」
「なんてこと! ど、どうしよう、ここからじゃ間に合わないわ!」
「あくまでも可能性の話だ……って、俺っち余計な事を言っちまったか」
あくまで可能性の話だったが辻褄は合う。このキマイラ退治すら仕組まれているとすれば、魔王教徒の計画は随分と進んでいるのかもしれない。
「お嬢、落ち着き。まだ決まった訳やないんよ。強いバスターもおるんやけ、まずは管理所ば行って、そして連絡入れてもらい、ね?」
「そ、そうよね。でもどうしよう、もう襲われてたら……」
ビアンカはすっかり泣き顔だ。故郷の両親の事を考え、気が気ではない。
「モンスターを狩っとたとして、何日も掛かったはず。キマイラがシロ村を襲ったのは昨日ばい。2、3日で向かったとしても、そげん遠くへは行っとらん」
「グスッ……分かった、早くみんなに知らせなくちゃ」
ビアンカが意志を固めている間、シークとバルドルはそれを黙って聞いていた。いや、赤茶色の地面を見つめながら、ただ黙っていた訳ではなかった。
「この仮説だと……魔王教徒がシロ村を襲わせた、つまりそういう事だよね」
「魔王教徒にとって、シロ村はキマイラの餌でしかなかったってことになる」
「ただ思想が違うだけなら分からなくもない。でも! 他人の命をどうでもいいと思える奴らは許せない!」
シークが悔しそうに歯を噛み締める。シークの背中では、バルドルがバルンストック製の鞘から白く気力を放って怒りを表していた。
「僕を作った鍛冶師はシロ村出身だと聞いている。僕にとって、魔王教徒はモンスターと一緒だ。たった今、斬りたい相手になった」
「とりあえず早くアルジュナを見つけて、一度ギリングに戻ろう。俺達が間に合わなくても、せめて他のバスターの協力を仰げば」
「皆さん! ちょっといいですか! 右手の上の方、あの部分だけ大きく斜面が抉れています、もしかして……」
ゼスタがシークとバルドルを宥めていると、テディが気になる地点を見つけた。テディが指し示す先は、茶色い山肌の一部だけが大きく抉れている。
「方向的にはバルドルの言っていた通りだな、すぐ向かおう!」
駆け足になろうとしても、斜面は足が沈む程柔らかい。近いと思えても、結局辿り着いたのは1時間も掛かってからの事だった。
赤茶色の土や岩が、掘られたのではなく吹き飛んだようだ。その場所からバルドルが景色を確認し、はっきりと「うん」と告げた。
「ここだね、ここでキマイラを封印したんだ」
「という事は、この辺りにあるはず!」
シーク達は周囲を見渡し、アルジュナが落ちていないかと探し回る。燃えるような赤い本体は見ればすぐに分かるというが、生憎ここは周囲の地面も赤い。
「ねえバルドル、バルドルが声をかけたら返事してくれないかな。ケルベロスやグングニルも」
「そうだね、目で探さずに声で探した方が早いかもしれない」
シークが歩き、バルドルがアルジュナの名前を呼ぶ。同じようにグングニルとケルベロスの大きな声も聞こえてくる。
「アルジュナ、あまり埋もれているとバルンストックのリムが腐るよ」
「おいバルドル、怯えさせるなって」
「おーいアルジュナ! 弦が切れて恥ずかしいのか? 笑わねえから出てこーい」
「ケルベロスまで、なんて事を」
探す気があるのかないのか、バルドルとケルベロスの声掛けがどうも雑だ。そんな緊張感を削ぐ大声がやまびことなる中、小さな声に気付いたのはレイダーだった。
「待った! 今、返事が聞こえなかったか」
「えっ」
レイダーがゆっくりと斜面を下る。大きく山肌が抉れた地点から15メーテ程下ったところで、レイダーは表面の土を払い、皆を大声で呼んだ。
「おい、あったぞ! 弓だ、それも……グリップまで真っ赤! これじゃないか!」
シーク達が慌てて駆け寄り、レイダーの足元を覗き込む。そこには半分埋まった状態の真っ赤な弓があった。
「お、アルジュナじゃねえか」
「えっとアルジュナ、久しぶりだね」
当然ながら見た目では反応が分からない。けれど次の瞬間、はっきりと声が聞こえた。
「ケルベロスと……バルドル? ああ、そっちはグングニル! ああ良かった! 目覚めたら土の中に埋まってて、ボク凄く怖くて……」
勇ましく、燃えるような曲線を描くコンポジットボウ。だがアルジェナは見た目らしからぬ怯えた頼りない声で、武器仲間の呼びかけに応える。
「キマイラの封印なんて、ボクには無理だったんだよ……」
伝説の武器だというのに、勇ましさの欠片もない。駆けつけたシーク達は、どう声を掛けたら良いかと悩んでいた。
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