GO ROUND‐12
「アルジュナ、君を探しに来たんだ。最初に見つけてくれたこの
「あんた、こんなとこで置いとかれてもピーピー泣くだけやないね。ちゃんと使って貰わな、腐るばい」
「グングニルは相変わらずだね……。でも僕のせいでキマイラの封印が解けちゃって」
「もう倒したぜ! 心配すんな」
「ほんと……? 良かった、みんな本当に凄いね……」
「うん、どうもね」
アルジュナが安堵のため息をつく。レイダーが持ち上げてもいいかと尋ねると、アルジュナは不安そうな声で「いいよ」と返事した。
「これは……なんだこの軽さは! いつも使っている弓がとても重く感じる程だ! 一体これは」
持ち上げた瞬間、レイダーは驚いて感想を口にする。
「ぼ、ボクのリムは……バルンストックで、その、ハンドルとレスト、グリップまでがアダマンタイトで……。ストリングは……ブラックドラゴンの髭で……」
「何だって!? どれも今では幻の素材じゃないか! 照準付近にある曲線が視界を邪魔しないし、握りも手に馴染む……見ろよこのリムのしなり! 引いたストリングの伸び! 引けば引くだけ、リムと共にどこまでも伸びるようだ!」
レイダーが別人のように饒舌になった。どれ程素晴らしいコンポジットボウなのかを力説されるが、その解説を聞いて理解できる者は誰もいない。
「ぼ、ボクそんなに……凄いかな、こんなに汚れちゃって、それに古いし……」
「何を言うんだ、こんなに素晴らしい弓は他にない! 神木バルンストックの質感を損なわない赤と、アダマンタイトのレッドブラック! ああ、何千年眺めていても絶対に飽きない自信がある!」
レイダーの興奮に、その場の皆は言葉を挟む隙がない。このまま喋らせていれば、次の緊急の目的も忘れ、明日になっても喋っていそうだ。
「早くアルジュナで矢を射る機会が欲しいところだ。ああ、矢もとびきりのものを新調しないとな。見ろよこの……」
「レイダー」
「この腕の振りすらコントロールするかのような」
「レイダー! そろそろ山を下りるぞ、お前の感動はしっかり伝わった」
「あ、すまん、つい興奮してしまって。決して今使っている弓に不満はないんだが、それでもアルジュナは……」
「レイダー」
「分かった、分かったよ。黙るさ」
まだ何かを言いたそうにしているレイダーに呆れながら、カイトスターはシークの肩を叩いて「行こう」と促す。
アルジュナを見つけるという目的は達成したものの、シーク達は故郷の事で頭がいっぱいだ。アンデッドを引き連れた魔王教徒を追い抜かさなければ、想定される危機に間に合わない。
「ちょっと整理を。俺達はマイムから北上して来ましたが、魔王教徒を見かけていません。とすると、この北か、西側のアンザ連邦の森に出るか。森はモンスターが強いく、魔王教徒は進めません。海に出たとして大勢を乗せられるような場所は……」
テディが地図を見ながら町を調べる。マイムから北は海沿いが断崖絶壁になっており、アンデッドが船に乗り込めるとは思えない。
「ってことは、見つからないように山の中を歩いて……アンザ連邦北端まで出るか、ギタカムア山を越えてアンザ連邦東部に出て……いや、待って」
テディの説明を聞きながら、シークはその指の北にある場所に気付く。
「ギタカムア山の北、海を渡ればムゲン特別自治区が近い!」
「船で一番近い国は真北のウカンジ、そのすぐ北にはイース湖だ。ギタカムアの山脈を北端まで歩けば……海の傍まで誰にも見つからずにアンデッドを連れて行ける」
「見せて! 確かに……北東のマガナン湾の周辺は村もないし、その海を挟んだ北のウカンジはそもそも国の人口が10万人程度しかいない」
「獣人の皆が言ってたよな。ムゲンの山脈から魔王教徒が降りて来たって」
アンデッドは動きが遅い。他のバスターや一般の商人に見つかれば、まず陸上で一掃、もしくは海上で沈没させられて残らない。
それを防ぐとなれば、他の経路はそう多くない。
「けれどヒュドラがいる以上、魔王教徒の狙いがギリングにある可能性も高い。集めたアンデッドをそこに留めておくとも限らない。別行動の可能性もある」
「クッソ、どっちを追えばいいんだ……。北に向かわねえとシャルナク達や、獣人の皆が巻き込まれてしまう。かといってギリングに向かわれたら今は手薄だ」
ゼスタがどちらに向かうかを悩み、頭を抱える。提案を口にしたのは、先程まで大興奮していたレイダーだった。
「俺達のパーティーはムゲン自治区に、ゼスタくん達はギリングに。ここは二手に分かれるべきだ。手がかりを見つけた方がすみやかに管理所に報告。そうすればバスター間で連携が取れる」
「そうですね。ここで戦力を分散させるのが魔王教徒の狙いだったとしても、今はそれしかないですね。どちらかを捨てる訳にはいかない」
「全く他の場所を狙うかもしれないが、全てはカバーできない。ゴウン、俺達は北上しよう。こっちはレイダーのアルジュナもある。君達はリディカの支援がなくなるが、大丈夫か」
「回復魔法は俺も若干は使えます。心配しないで下さい」
小石や土で滑り易い斜面は、登りよりも下りの方が歩きづらい。時折誰かが尻餅を突きながら数メーテ程滑り落ちる。真夜中になって下りきる頃には皆足がガクガクだった。
土埃の匂いが渇ききった皆の装備にまとわりつき、何を触ってもザラザラとする。
「ここで野宿にしよう。急ぐ旅だが、疲れている時は人が多い方が安全だ。明日の朝別れよう……」
「……物音がするよ、シーク」
「えっ」
ゴウンが野宿を提案した直後、バルドルが何かを聞き取った。
「僕を地面に置いておくれ。……北の方角」
「俺が双眼鏡で見よう。……何か、いる。狼にしては大きい? あれは……あれは! ゴウンさん! アークモンスターじゃないでしょうか!」
テディーが指差し、リディカがライトボールを打ち上げる。照らされた数十メーテ先には巨大な狼の姿があった。上顎から巨大な牙を垂らして歯茎を剥き出し、今にも駆けてきそうだ。
「皆、戦闘態勢! シークくん達は見ていてくれ。他人の戦いを見る機会だと思って」
名付けるならアークウルフ。ゴウンがまず突進の構えで挑発する。
「ゴウンさん!」
ゴウンはアークウルフの噛みつきを盾で防ぎつつ、ビンタのように打ち付ける。
「破ァァ……剣閃!」
「ヴォォウ!」
「プロテクト! 2人とも左右に避けて! ファイアトルネード!」
アークウルフが攻撃する隙を与えず、ゴウンが盾と剣でことごとく視界を邪魔する。その間にカイトスターが斬撃を浴びせる。リディカが魔法を合わせるタイミングは絶妙で、迷いがない。
ゴウン達はテディも参加させ、思うままに戦わせている。
「双竜斬! ……ブルクラッシュ!」
「俺だって……スワロウリバーサル!」
「ヒール・オール! ゴウン、左よ!」
「カイトスター、そっちを睨んだ! 一度後ろに退け!」
「ヴオォォォウ!」
アークウルフが前足の爪を立て、振り向きながらカイトスターを襲う。その隙を狙い、レイダーがアルジュナのストリングを静かに引いた。
初めてのアルジュナでの戦闘だ。レイダーは興奮しながらも緊張している。その手は微かに震えてもいた。
が、そんな緊張はそう長くは続かなかった。
「さっさと全力で限界まで張りやがれ! 俺様のストリングに切れる心配してやがんのか? 照準は、ほら首だよ首! 少しでも力抜いたら承知しねえぞ!」
「……えっ」
「えっ!? じゃねえよ、何とぼけた声出してんだ! 生きるか死ぬかの戦闘だろうが! 度胸はねえのか、さっさと撃て! 気持ちよく一発ドーンと放ってみろ!」
その声の主は他でもないアルジュナだ。道中の頼りなく自信など微塵も感じさせなかった態度とは似ても似つかない。
レイダーは言われるがまま、渾身の力で矢を放った。
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