discipline‐15

 

「なるほど。既に情報は共有されていたが、屍を操るとはにわかに信じがたかった。やはり情報源は君達だったか」


「整理すると、これはアークドラゴンが仕向けた訳ではない。魔王教徒はアークドラゴンの討伐を阻止しようと、独自に動いているという事だな」


「はい、そのように感じました」


「4魔を倒し、アークドラゴンを討伐すれば事が済むと思っていたんだが……抵抗勢力が人間ってのは厄介だ」


「今、念のためにと回復魔法を習得する魔法使いも増えているの。アンデッドだと気付けたのは大きかった」


 アスタ村で捕らえた魔王教徒のデギーからも、有力な手がかりは得られていなかった。足抜けの手助けをすると言っても口を割らず、極刑の可能性があっても組織のためにと口を閉ざしている。


 魔王教徒は余程信念や結束が固いのだろう。魔王教徒の総数も、今後の動きもまだ知る事はできていない。


「魔王教徒とアーク級モンスターについては、俺達や他のバスターに任せてくれ。君達は残りのヒュドラ、キマイラ、そして魔王アークドラゴン討伐に集中して欲しい」


「ゴーレムは不完全な状態で、メデューサは作戦勝ちみたいなもんだったし、ヒュドラは上手くいくかな……」


「作戦で勝つのも勝利のうちよ。それより、ヒュドラを倒した後の武器の事、ゴウンさん達に話さなくちゃ」


「あ、そうだった」


 シーク達は、残りの伝説の武器の今後を相談した。また、3人で連携しての攻撃に慣れている今、新しい仲間を迎えるには不安がある事を打ち明ける。


 ゴウン達は互いに顔を見合わせながらテディへと視線を集中させる。テディは慌てて両手でバツを作った。


「だ、駄目ですよ! それに、知り合いで年が近いからと言っても、一度は辞めようと思った程度の志だ。君達とは一緒に行けないよ」


「ん~。君達が3つを手に入れた今、残り2つも君達の仲間が持つべきと思うが、人選が難しいな」


「ヒュドラに殺されたバスターの中に、シルバー等級のパーティーがいた事は話したね。彼らの遺品の武器は、少なくとも俺の弓よりいいものだった。後は伝説の武器が認める使い手に託すしか」


「分かっていて挑もうとした私達も愚かなんだけどね。不安なら防具を一斉に更新、必要と判断したら連絡をちょうだい」


「えっ、一緒に行ってくれるんですか?」


「勿論よ。知り合いも多いし、管理所にだってある程度顔が利く。とりあえずはアーク級モンスターの討伐を、管理所からの正式な依頼にして貰いましょう」


 シーク達も賛成した。元々僅か数人で解決しようなど、最初から無理な話だった。協力を仰げるなら目一杯頼んだ方がいい。


 シーク達は受付で職員にも相談した。ゴウン達は騎士ナイトの称号を持っており、バスターに命令を下せる立場にいる。管理所として拒否するはずもない。


 受注や情報共有を含めて管理所が取りまとめる。勿論、報酬も出す。


 そう方針として決まった時だった。


「アーク級のモンスターは、アークドラゴンみたいに倒してまた復活なんてことはないよね?」


「それは大丈夫だね。アークドラゴンを倒すまでに、出来るだけ多くのアーク級モンスターを倒すべきだ。万物の器と言っても不完全であればある程いい」


「ん? シーク君、バルドル、また復活とはどういう事だ?」


 ゴウンがシークの何気ない一言を拾った。ゴウン達だけでなくゼスタやビアンカも、まだアークドラゴンが何度も復活している事を知らない。


 シークは管理所の職員らも交えて300年前の事、その更に前にもあったアークドラゴンとの戦いの事を説明した。 


「なんてこった。何度も蘇っているのか!」


「何故そんな大事なことが史実に載っていないんだ! という事は今回倒しても、また復活するかもしれないってことだな?」


 伝説の武器達の説明に、その場の皆は衝撃を受けていた。復活するその原理は分からないが、このままだと危機をいったん回避するだけになってしまう。


 300年後か、それよりももっと早いか、その頃には今と同じような状況に陥ってしまう。


「確実に倒す方法はないのか? 魔王教徒にアーク級モンスター、おまけに魔王アークドラゴンが不死身。こんなにも厄介な事実が出てくるとは」


「管理所としましては、最初にアークドラゴンが出現した時の記録が無いか、調べてみる他にありません。倒せば全て終わると思っていましたが……」


「なあ、ケルベロス。倒しても復活するかもしれねえって可能性は考えていたんだろ?」


「いや。けど最初も倒したと思い込んでいただけって可能性もあるぜ。その時は俺やバルドルも戦ったはずなんだが、今ほど自我が育ってなかったから殆ど覚えてねえ」


「あたしも覚えとらん。微かにその時の光景を思い出せるかどうかやね、持ち主の名前も分からん」


 勇者ディーゴ達の戦い以前については、バルドル達もあまり良く分かっていないらしい。もしかすると、アークドラゴンの復活はもう何回、何十回と繰り返されている可能性だってある。


 どうすればアークドラゴンの息の根を確実に止められるのか、今その答えは出てこない。


「魔王教徒は何か知ってるのかな。もしかしたら、何百年も前から死霊術士ネクロマンサーがいて、定期的に復活させているとか」


「あり得る話よね。アンデッドとは聞いた事がないけど、どこかに魔王教徒の本部があって、そこに復活させるための何かがあったりして」


 ビアンカが魔王教徒との繋がりについて、更に掘り下げて考えるべき事がないかと様々な可能性を挙げていく。魔王教徒はアークドラゴンの事を知っていて、そして4魔の事まで把握していた。それがどうにも引っかかるようだ。


 その引っかかりを基に、更に疑問を掘り下げたのはゼスタだった。


「……なあ、魔王教徒は何で管理所すら知らないアークドラゴンの事を知っていたんだ? それに、俺達が今まで倒されていると勘違いしてきたのは何故だ? バルドルが誰に伝える事も出来なかったのは分かるけどよ」


「勇者ディーゴ達は封印したと言った。数百年の間にそれが倒されたという話に変わった……」


 シークも何かを掴みかけたようだ。歴史の授業ではもっと古くからの地理や政治、国や権力などの話を聞いてきた。それに並ぶほどの重要な事なのに、それが正しく伝わらない事などあるだろうか。


「魔王教徒が、アークドラゴンから目を逸らさせるために、倒されたと広めた……?」


「まさか! いえ……その可能性はあります。古書を漁り、どの時点から倒されたという記述になっているか、それで色々と見えてくるかもしれません」


 管理所の職員が立ち上がり、急いで協会本部へと電話で連絡を取りに行く。封印から討伐に話が変わったのはいつなのか、そこから読み解けるかもしれない。


「あたしらも、何か思い出さないけんことがあるかもしれんね。何か忘れとるかもしれんばい」


「俺っちは対峙した事だけ覚えてるぜ。でも倒した時の事は分からねえ」


「僕も生憎、止めを刺したって覚えがないんだ」


 武器達は記憶を呼び覚まそうとするが、何せもう自我が確立される何百年も前の事だ。簡単には思い出せない。


 そんな中、1人だけバスターと縁のない生活を送ってきたシャルナクは、別の観点から魔王教徒について考えていた。魔王教徒がなぜムゲン特別自治区を訪れたのか。魔王教徒がかつて湖ではなく、山を越えてムゲンの地を訪れたのは何故か。


「……魔王教徒は死霊術を操る。私達の居場所を知り、わざわざ人目につかない山越えをしてやってきた……」


「……あっ、シャルナク、それもしかして」


 シークはシャルナクの呟きで閃く。これが正解だとでも言うかのように、皆の顔を見ながら自分の考えを述べた。


「もしかしてアークドラゴンは……アンデッド? そして魔王教徒は、ムゲン自治区まで人目につかずに行けるルートの、どこかに本拠地を置いている……」

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