Devout believer-04
「俺達の同期ってどうしてるんだろう」
「そういう話って、そういえば聞かねえな」
「君達に触発されて、大冒険するバスターが続出すると思っていたのだけれど。僕の読みは外れたかな」
新人もモンスター退治に慣れてきて、日銭を稼ぐのには困らなくなった。1日に2つがやっとだったクエスト達成が3つになり、やがて4つになる。
大抵のバスターがボアではなくオークを倒せるようになった。
しかし1日にパーティーで数万ゴールドも稼げば、それなりの暮らしが出来てしまう。金が貯まると酒を買い、賭博に手を出し、遊びを覚え始めるのだ。
装備など必要最低限で良くなり、後は遊ぶ金欲しさにクエストを受注するだけのバスターに成り下がる。
残念ながら今年もそのようなバスターが出始めていて、装備はファッションに成り下がる。恥ずかしげもなく「シーク・イグニスタが今着ているものと同じデザインを」と詰め寄る者もいる。
その結果が、店主ビエルゴが言ったバスターの態度に繋がっていた。
「見た目だけの真似が出来ればそれでいいんだろう。この時期に拠点を1度も移していないバスターはもう駄目だ。春に買ったというのに、またグレー等級の装備を欲しがってどうする」
「なんかちょっと悲しい現実だな。まあ俺もシークも、ビアンカだってそうなる可能性はあったんだけど」
「そうだね。魔術書を買えなかった、1人でモンスターから逃げ回ってた、ベテランパーティーを外れた……普通はその時点で底辺決定だよね」
「えっと、一応の確認なのだけれど、僕との出会いが君達を変えたのかな」
「ああ、その通りだよバルドル。拾って良かった」
バルドルに顔があったなら、きっと笑顔に違いない。シークに認められるとどうにも気分がいいらしい。
「まあでも、町の周辺のモンスターを狩る奴もいなきゃ困るよな」
「かといって町の周辺ではあまりバスターとすれ違ってないよね。俺達が考える以上に、活動中のバスターは少ないのかも」
ビエルゴはまさにそうだと頷いて紅茶を飲み干す。白髪交じりの頭を掻き、数枚の紙をテーブルの上に並べた。皺の寄ったその白い紙には、文章と共にグラフが描かれている。
「これは鍛冶屋の集まりで出た資料だ。こっちは管理所の資料。ギリングでの直近3年の等級別装備の売れ行き、それと協会所属の全バスターの構成表だ」
「うわあ、こんな統計を取っているんですね。直近3年間か……あれ? ブルーより上の装備が殆ど出てない」
「ギリングの周辺に強いモンスターがいねえからか」
「それもある。だがこれを見てくれ」
ビエルゴは紙を1枚めくり、そしてそこに書いてある日付を見せた。
「20年前と……30年前?」
「そうだ。20年前はオレンジやパープルが何着も出ていた。周辺の環境は殆ど変わっていない。減ったのはこの町だけかと思ったが……管理所のバスター構成表を見てくれ」
ビエルゴが指で示した棒と折れ線のグラフは、バスター全体の人数と、等級毎の人数の割合を表示している。総人数は緩やかな減少傾向にあり、20年前から比べると1割程減っている。
ただ、シーク達が驚いたのは等級毎の割合の方だった。
「え、一番多い等級……ブルーがだいたい40%!? ホワイト25%……グレーが20%もいるのか! オレンジは10%、パープルが5%弱、シルバーは1%未満って、えっ?」
「なんだこれ、昔と比べると明らかに上の等級が減ってるぜ。シークはともかく、俺とビアンカもブルーまでは根性でいけたんだぞ? 他の奴らは何やってんだよ」
20年前、10年前のグラフと見比べると、オレンジ等級に到達していないバスターの割合が増えている。平均年齢や登録からの年数はやや上昇傾向にあることから、バスターの昇級スピードが落ちていることになる。
「シーク、見てごらん。一番出ている装備はグレー、その次がホワイト用だ。4割もいるブルー等級の装備交換は、この町に限って言えば1割しかいない」
「俺っちの推測だけどよ。ずっと使い続けているか、等級に見合った装備に更新してねえんだぜ」
「……確かにブルー等級以上の装備はとても丈夫だから、すぐに更新する必要はないけど」
「武器や防具が消耗するような戦い方をしていないか、更新に興味がない、更新する金がない、そんなところか」
討伐クエストを毎日数個こなすだけでも実績として認められ、半年から1年で昇級条件を満たせる。オークやオーガなどを繰り返し討伐していればもっと早いはずだ。向上心があるなら昇級の申請くらいはしているだろう。
2人は人助けをした、感謝されたという些細な事でホワイト等級に上がれた。実力と等級が見合うようにならなければと焦っていたのに、それすらもやっていない同期のバスターに落胆もしていた。
「ともあれ、お前さん達のような向上心の高いバスターは少ないってことだ。他のバスターの刺激になるよう、手本を見せてやってくれ。強いモンスターや貴重な材料を追い求める姿で、他のバスターを目覚めさせて欲しい」
「アダマンタイトを打てる鍛冶師を育てるには、バスターがアダマントを狩ってくれないと素材が手に入らないの。上の等級の需要がないと、良い装備の製作も出来ない。私達も鍛冶の店としてこの先そう長くはやれないから、本当は弟子を取って、技能の伝承をしたいんだけど」
「肝心の素材や、必要とするバスターがいねえじゃなあ。戦う姿を見て貰うって言っても、この付近のモンスターはそんなに強くないし」
いつかのようにミノタウロスが現れた! などという事態がそうそう起きる訳でもない。低等級モンスターの乱獲などすれば、いつかのミリット・リターのように変な言いがかりをつける者が出ないとも限らない。
少し悩んだものの、どうすればいいかは明日ビアンカ達と話し合うしかない。ビエルゴにはひとまずバスターの質の向上に手を貸す事を約束した。
ところで、武器屋マークに立ち寄った理由は別にある。世間話ばかりでじれったさに痺れを切らしたのか、本題に入る事を促したのはケルベロスだった。
「なあ、なあ! それでそれで? テュールはどうなったんだ? ちゃんと元気になったか?」
「あ、そうだった」
ビエルゴはケルベロスへと顔を向け、ニッと歯を見せて笑った。どうやら期待していいようだ。
「おおよそ9割方、削られた部分が戻ったというのでな。3日前に完成したところだ……どれ、今連れてくる。おい、マーシャ!」
シーク達は、テュールが鍬になった事を後悔していたらどうしようかと心配していた。やっぱり元の盾がいいと言いだした時、復元は可能なのだろうか。チッキーは落胆しないだろうか……。そう考えていると、マーシャが寝室の方から何かを持ってきた。
「はい、お待ちかねのご対面ね」
「どうだ、製作途中で『本人』の申し出があって方針転換してな」
「これは……鎌?」
目の前に置かれたのは、どこからみても正真正銘の「鎌」だった。持ち手の一部だけを木で巻かれ、柄の部分は赤味を帯びた黒、刃の部分が透き通るように白い。
「テュール! カッコよくなったじゃねえか!」
「うんうん、今にも戦いに出られそうだね」
テュールにはバルドル達の声が届いていた。鎌という見た目からは想像できない程紳士的な男の声が響く。
「……ああケルベロスとバルドル、それに心優しい『この物』達の主であるお2人ですか。わたくしもようやく生まれ変わる事が出来ました、皆に感謝を申し上げます」
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