evolution-08

 

 シークが唱えたストーンバレットは、巨石となってメデューサに襲い掛かった。


 下半身を潰されたメデューサは、もがき苦しみながら上半身をくねらせ、痛みに絶叫しながらも威嚇のように腕をのばす。


 しかしながら、髪の蛇達はなおも牙を剥き出しにして蠢いていた。岩に押し潰されたメデューサも、まだ抜け出そうともがいている。


 3人はメデューサを押し潰す岩の後ろに回り込んた。タイミングを合わせて一斉に攻撃を仕掛けようと決め、武器を構える。


「いくぜ、3、2……」


「3人とも、すぐに離れて!」


 しかし、その攻撃はシャルナクの叫びによって止められた。


 3人は咄嗟に飛び退いてシャルナクを見上げた。次の瞬間、3人共が固まってしまう。無数の紫色の蛇が岩を這い上がり、シャルナクの全身を覆っていたのだ。


「アァァ……ッ!」


「シャ……シャルナク!?」


「まさか、頭の蛇だけで動き回れるのか!」


「そんな……申し訳ない、それは僕も今初めて知った」


 どうやらバルドルも蛇が単体で動けるとは知らなかったらしい。


「シャルナクを助けなきゃ!」


「でも、どうやって……」


「おいお前ら! いったんメデューサから離れろ!」


「えっ……キャ!」


 ケルベロスの言葉で動こうとした瞬間、ビアンカが足に痛みを感じてその場に倒れた。その足には何十匹もの蛇が忍び寄っている。ビアンカもまた、瞬く間に全身を覆い尽くされてしまう。


「お嬢! いかん、油断したばい!」


「ビアンカ!」


 このまま助けに行けば、シークとゼスタまで巻き込まれてしまう。メデューサを倒すのが先決だと分かってはいるが、苦しむ2人がこのまま耐えられるかは分からない。


「バルドル、急いでメデューサを叩く!」


「うん、魔法を放って、蛇が全て焼け死ぬ隙を狙おう。唱えたらそのまま突っ込んでおくれ、僕が指示する!」


「頼むよ!」


 シークがバルドルを握りしめて駆け出し、メデューサから離れたところで魔法を唱える。メデューサとは10メーテ程の距離だ。


「集中……いくよバルドル」


「いつでも」


「爆炎……フレア!」


 シークがフレアを唱え、バルドルを構えて跳躍する。思いきり力を込め、練習しろと言われていた前方宙返りをしつつ、ブルクラシュよりも更に加速させた攻撃を繰り出した。


「技名……分かんないけど! 喰らえ!」


 重く速い一撃は、メデューサを押し潰していた巨石さえも粉々に砕く。もはや今年バスターになったばかりとは思えないその威力に、バルドルはおろか、感触で岩を砕いたと分かったシーク自身も驚く。


「なんて威力だ。君、本当にソードに転職する気は……ってシーク、そのまま前に避けるんだ!」


「……えっ!?」


 シークがバルドルの言葉を聞き、訳も分からずくるりと前回りをして距離を取る。バルドルに「振り向いても大丈夫」と言われて振り向き、そこにあるものを薄目で確認した。


「なっ!? こいつ、下半身を捨てやがった!」


「攻撃を避けるために、自らの体を切り離したようだね。数こそ少ないけれど、蛇も復活しつつある」


 バルドルが言った通り、メデューサは岩の下から抜け出すために自らの体を引きちぎっていた。どれ程の執念なのか、大量の血を流しながらも両腕を使って向かってくる。


 フレアによって目を潰されたようだが、匂いと音と熱でシークを感知している。頭の蛇のように、いつ体が再生してもおかしくない。


「まずい、こうしている間にビアンカやシャルナクが……毒で体力が減り続けたら2人共……」


 ビアンカとシャルナクはどんどん咬み傷が増えている。このまま毒によって継続ダメージを受け続ければ、そう長くない時間で体力が尽きてしまう。


「シーク!」


 シークの考えが纏まらない中、ゼスタはメデューサを凝視しながら少しずつ距離を取っていた。


「俺がシャルナクを救い出す。シーク、ビアンカと俺からメデューサを遠ざけてくれ。グングニル、ビアンカを頼んだぞ!」


「……なるほどね、分かった。お嬢、あたしを信じて体を貸しちゃるね。蛇を全部放りたくって、ちゃんと薬ば飲んでから元に戻しちゃるけん」


「つま、り……共鳴、ね。こんな事で頼るのは悔しいけど……お願いする、わ」


「ケルベロス、俺の事も任せた! お前に体を預けたら、麻痺と毒を受けてもシャルナクを救いだせるよな」


「おう、俺っちの事を信じろよ? 途中で共鳴が切れたら道連れだからな!」


 ビアンカとゼスタの共鳴を成功させるため、シークはビアンカからメデューサを離し、ゼスタとも距離を取る。グングニルやケルベロスの意識が誤ってメデューサや他の者に移り込まないようにするためだ。


 共鳴後、蛇に体を覆われたビアンカ(グングニル)が起き上がった。体に纏わりつく蛇をむしり取り、それらをグングニル本体によって一瞬で塵へと変える。


 そのままビアンカ(グングニル)は麻痺と毒を解除するためにアイテムを口に入れ、水と共に流し込んでいく。


「やれやれ、誕生して初めて『味わう』のがこんな変な味の草とはね。バルドル坊や、あんたも早よ共鳴しなさい! 大丈夫、メデューサの中には入り込まん。封印しとったあたしがよくわかっとる」


 バルドルはシークに共鳴をしていいかと尋ねる。右前方ではゼスタ(ケルベロス)が岩に跳び上がり、シャルナクに絡みつく蛇を手で剥ぎ取っている所だった。噛みつかれてもその手を止めることなく、剥がした蛇は全て切り刻んでいく。


「……余力なんて残していられない。バルドル、俺と共鳴できるだけの力が溜まったのなら、あとは任せる」


「うん、どのみち麻痺と毒を覚悟で斬らないと倒せないみたいだ。体を借りるよ」


「300年前の無念を、しっかりと晴らしておいで」


「おっと、気遣いの言葉をどうもね」


 シークが目を閉じると、体の中が温かくなっていく。メデューサがシークに這って近づき、とうとう数メーテ程になった頃、シーク(バルドル)はゆっくり目を開けた。


「……ふう、シークは良く頑張った。時間を掛ければ倒せただろうけれど……僕に300年の思いを晴らすため譲ってくれた。期待に応えるよ」


「坊や、倒さんであたしにも残すんよ」


「シークの体に入ると加減が出来なくてね。君も使いたい技で仕留めるといいよ、同時に行こうか」


 もはや思考能力もなくなったメデューサが、シーク(バルドル)の鎧を噛もうとする。しかしそれをシーク(バルドル)は片手で刎ね飛ばし、バルドル本体を真っ直ぐに構えた。


「シーク、後でさっきの技の名前を教えてあげるよ。技名は……翔龍破斬しょうりゅうはざん


「あたしもとっておきを出しとこうかね……牙嵐無双がらんむそう!」


 シーク(バルドル)が這い寄るメデューサの頭めがけて前方宙返りをし、そして一撃を振り下ろした。その動作はシークの動きよりも更に早い。


 バルドルの本体は強い光を放ち、残像は何秒も美しく鮮明に漂う。


 それに続き、今度はビアンカ(グングニル)がグングニル本体を頭上高く持ち上げて高速で回し始めた。風を纏いながら大気中の静電気を集めて矛先に溜めるのだ。


 バチバチと音を鳴らす電気が、電光石火の如くメデューサの背中から胸を貫いた。


「グゥ……ウェェ……」


 メデューサの動きが止まった。蛇達も魂が抜けたようにボトリと地面に落ちて動かなくなる。その様子を見て、ゼスタ(ケルベロス)は少々悔しそうな声で呟いた。


「チッ、俺っちの出番はなしかよ……まあいいか。こんなもん置いたまま帰れねえだろ。見てろ」


 シャルナクに薬を飲ませ、無事を確認したゼスタ(ケルベロス)は、岩の上から降りてメデューサの死骸に近寄る。そして両手のケルベロス本体を光らせ、闘志を文字通り燃やして宿らせた。


業火乱舞ごうからんぶ


 ケルベロス本体から放たれた気力と技の力が、剣撃の残像全てを炎に変えてメデューサの死骸を焼き尽くす。それはまるで超高速の演武。


 ゼスタ(ケルベロス)は、復活も他のモンスターが取り込むこともないよう、メデューサを完全に消滅させたのだ。

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