Breidablik-06
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「お前が一番食ってんじゃねえか」
「だって……だって! あんなに普通に食べられるとは思ってなかったんだもん!」
「だもん! じゃんねえよ。面倒くせえ奴だな」
「面倒くさいとか言わないで!」
食べてから判断しろと言われた後、ビアンカはリディカに小さく切り分けた肉を1口貰い、目を瞑りながら恐る恐る口に入れた。
そして噛んで数秒して驚いたように目を開き、夢中で食べ始めた。それはもう、シークが肉を焼きあげるスピードも追いつかないくらいに。
今まで嫌がっていたのは何だったのかと思う程で、挙句自分で勝手に肉を切り出して焼く始末。
4人で一頭を食べ切る事は出来ないので、シークがアクアを唱え、リディカがアイスバーンでそれを氷にし、幾らかを持って歩く事にした。そうしてしっかり冷やせば多少は長持ちする。
魔法使いがいるパーティーはなかなか都合がいい。その肉すらも、ビアンカはもう今の時点で期待している。
「ほらね。ビアンカさえ頷いていたら、ひもじい思いをしないで済んだ」
「うぅ……モンスターだって考えたら身構えるじゃない。その、悪い成分ありそうだとか」
「もし悪かったら僕が黙っていないよ。狩ってよし、食べてよし、剥いでよし、ナイトカモシカだけは嫌いになれないね」
「聖剣がナイトカモシカを気に入ってるって、なんだかなあ」
食事を取って元気になったのか、歩調も速く、会話も軽やかだ。まずまずのペースで山を下りていく4人は、時折襲い掛かってくるモンスターを倒しつつ、次の日には山の麓に到着した。
「お、帰ってきたか! もう1日遅かったら迎えに行こうかと思っていたところだ」
「ただいまゴウン。ハァ、疲れた」
「ゴウンさん達も元気そうで良かったです」
「こっちは妙なモンスターが出て大変だったぜ」
山の麓には既にゴウン、カイトスター、レイダーの3人が待っていた。小さな岩が転がる斜面にある大きな岩の影で日差しを防ぎ、動物を狩って焼いている。3人はホッとしたように笑みを見せ、立ち上がった。
「西を探索し終えて、3日前に俺達は東へ向かおうとこの麓を横切ったんだ。そうしたらものすごい咆哮が聞こえて、山の斜面のモンスターや動物が一斉に逃げ始めたんだ」
「咆哮って、俺達が山を越えている時にも遠くから聞こえたよね」
「モンスターもそれに怯えたのか、殆ど出なかったもの」
「2時間くらいしてビッグキャットの3倍くらいの大きさのモンスターが出たんだ。2本足で立ち上がって、馬鹿デカい熊のようで……でもあれは確かにビッグキャットだった」
そう言ってゴウンは西の方角を指す。シーク達はそこに大きなモンスターの死骸を見つけた。
それはまるで毛皮の山だった。茶色と灰色が交互に混ざり、爪は鋭く、牙は人間の腕ほどもある。体はウォータードラゴンを思い出すほど大きい。
「確かに……これって、ビッグキャットよね? でもこんなに大きくなるの?」
「モンスターの研究はしているけれど、私はこんなに大きな個体が目撃されたなんて聞いたことがない。ゴウン、詳しく説明して」
「いや、俺にもただ大きいとしか分からなかった。俺が防御して吹き飛ばされる程のパンチ、突進……悪いが次に遭遇したら逃げることを選択すると思う」
「俺が弓で狙い、カイトスターが技で俺の存在から気を逸らせ、ゴウンが常に正面に回る。シークくん達の戦い方を参考にして、恐らく2時間は戦っていたと思う。一撃必殺の技でも少しずつ体力を奪うことしかできなかった」
ゴウンやレイダーの説明を聞きながら、リディカはあの時、咆哮の正体を確かめに行かなくて本当に良かったと胸を撫で下ろした。自分1人の回復魔法では、シーク達を守りきれなかったと思ったからだ。
シーク達は目的のレインボーストーンを手にいれたと報告する事も忘れ、異臭を放つそのモンスターの巨大さに圧倒されていた。
その一行の中で、バルドルとケルベロスだけは何かを察していた。バルドルがゆっくりとどこかにあるかもしれない口を開く。
「アークドラゴン、もしくは4魔の力が強いモンスターを更に増やそうとしているんだと思う」
「どういうことだ」
「……これも僕達が謝らないといけないことなのだけれど、アークドラゴンは、300年前の僕達の実力を把握したのだと思う」
「いや、だからどういう事だ。詳しく聞かせてくれ」
カイトスターがバルドルの言葉が意味するものは何かと再度尋ねる。バルドルはそれに対し、ゆっくりと自身の仮説を語り始めた。
「単純な話なんだ。君達には4魔がどのようにして誕生したのか、話をしたことがなかったね」
「伝説にはアークドラゴンが生み出した、と記されているはずだ。……確かに、どのようにして、と言われるとその手段は謎だな」
レイダーが腕組みをしながら伝説の抜けている部分に気付いて考え込む。伝説は全てが記されている訳ではないのだ。
「アークという言葉が示すように、アークドラゴンは万物を持ち合わせた、いわば入れ物なんだ。言い変えると万能モンスター。4魔はその中で特に凶暴に育った4体で、当時のディーゴ達をかなり苦しめた」
「万能、モンスター……」
「正確に言うと『やおよろず』の能力を持っているってことになるかな。現存する生物、植物、細菌、それらすべての種類に匹敵する」
「俺っちやバルドルが言う4魔は、その中の4体に過ぎねえんだ。元々はただの岩に潜む細菌だったもの、蛇とイノシシと馬が魔力で三位一体となったもの。それがゴーレム、メデューサ、ヒュドラ、キマイラだ」
ケルベロスが喋ったことで、ゴウン達は「え?」と周囲を見渡す。聞き慣れない声の主が誰なのか分からないようだ。その正体をシークが教えようとする前に、バルドルが説明の続きを始めてしまう。
「4魔じゃない魔物にも、アークドラゴンはそれぞれの一番強い個体に魔力を与えた。ゴブリンも人の言葉を理解できる程の知能にまで進化し、巨人になった」
「そんな個体がまた出てきたってことか。ディーゴ達を苦しめられると理解したアークドラゴンによって……それが再び始まろうとしているってことだな」
それが事実ならとてもまずいことになる。現在、確認されているモンスターは600種を超える。動物型200種、水棲100種、鳥類100種、爬虫類100種、植物系100種、アンデッドやドラゴンまで合わせると合計700種近い。
「一斉に全部が強くなる訳じゃなかった。けれどこれは……もはやシーク達だけで片付けられる話じゃなくなった。バスター管理所に報告して、事態を把握して貰わないと」
「分かった、レインボーストーンどころじゃないな。見つけられなかったが仕方がない」
ゴウンはレインボーストーンが見つかった事をまだ知らない。おまけに、シークがゴーレムを倒した事も知らない。
シークはまだこちらの成果を何も伝えていなかったことに気が付き、ゴウン、カイトスター、レイダーの3人に歩み寄る。そして重たい鞄の中でぶつかり合う拳大の石を見せた。
「こ、これ……レインボーストーンか!? 見つかったのか!」
「はい。それと……ゼスタ、紹介してあげてよ」
ゼスタを手招きし、シークはもう1つの収穫を報告させる。
「あ、えっと……これ、冥剣ケルベロスなんです。さっきちょっと喋ったけど」
「おう! シークがゴーレムを倒しちまったからな、おかげで救い出されて今はゼスタが持ち主って訳だ、よろしくな」
「今、何と言った? ゴーレムを倒しただと!?」
レインボーストーンが見つかり、伝説の双剣が見つかり、ゴーレムを倒した。
ビアンカが暗がりの中でゴーレムと戦う姿の写真、倒した後の写真などを見せる。ゴウン達は開いた口が塞がらないまま、写真とシークを交互に見比べていた。
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