Misty Forest-03
バルドルが言う通り、シーク達では力不足だ。筋力や瞬発力だけではなく、技術力が備わっていない。
ウォートレントに対しては炎の魔法が有効なのだが、シークの火力が効くくらいならシルバーランクのモンスターと判断されるはずもない。考えて撃たなければ森林火災につながる可能性もある。
「いた、マイコニドだ! 俺達はあっちをやろう。悔しいけどそれが現実だ」
「毒を吐くのよね、槍のリーチはギリギリかな」
「俺は間合いを取れないから、確実に毒を喰らっちまう。手出しができないな」
シーク達はゴウン達の邪魔になりそうなマイコニドを相手にする。銅が太いキノコ型のマイコニドは、人間の子供程の大きさがある。青紫の傘に黒い斑点があり、いかにも毒々しい。おまけに足があるかのように動き回る。
「毒を吐くってことは、口があるのかな。どう吐くんだ?」
「傘の裏に毒の粉がいっぱいついているんだ、5分の4殺しくらいの猛毒だよ」
「5……半殺しじゃ済まないと言いたいわけだね」
シークはまず加減しながらファイアーボールを放つ。村に居た頃に収穫したキノコと言えば火で炙り、こんがりと焼いたものが定番だった。そんなキノコをイメージしながら炎を浴びせたところ、マイコニドは身をキュウキュウと鳴らして縮んでいく。
「なんだか美味しそうな匂いがするわね」
「やっぱり完全には焦げてくれないか……っと、森の木に燃え移ったら大変だ、アクア!」
シークは十数秒待った後で水の魔法を唱え、燃えるマイコニドの炎を消していく。幸いにも毒の胞子が焼け、水によって重みも加えられたことで、マイコニドの傘の裏からは毒の胞子が出てこなくなった。
「ゼスタ、ビアンカ! これならマイコニドを武器で攻撃できる! 俺がファイアーボールとアクアを掛け終わったやつから倒してくれ!」
「了解!」
シークは自分達に向かってくるマイコニドだけでなく、ゴウン達へと向かうマイコニドにも魔法を掛ける。
「十字斬り!」
「破ァァァ……エイミング!」
「あーあ、僕は暇で仕方がないよ」
「毒を吸い込む覚悟で斬りに行くより、確実な方法を取りたいからね。ファイアーボール!」
「毒は出さなくなっているじゃないか。あーまた1匹、僕が斬るはずだったモンスターが減っていく」
「アクア! 恨み節を言わない、埋め合わせはする……から!」
シーク達がマイコニドの数を減らしている頃、ゴウン達は全力を持ってウォートレントに攻撃を始めていた。
「よっしゃ
「武器飲み込まれんなよ! ……パワーショット! そこ狙ってくれ!」
「レイダー後ろだ! シールドバレット!」
「ブオォォォォ!」
カイトスターが太い枝を斬り落とし、レイダーがその切り口の柔らかい部分を狙って強力な一矢を放つ。囲まれながら、根と枝を振り回されながら、ゴウン達の士気は全く下がっていない。
大きな洞に飲み込まれないよう常に動きつつ、周囲のウォートレントを確実に弱らせていく。
「トルネード!」
「ぶわっ、放つ前に言ってくれリディカ!」
リディカが竜巻を呼び起こし、ウォートレントへと全体攻撃を仕掛けた。暴風の猛烈な力は小枝や葉を吹き飛ばし、幹を傷つけてウォートレントを更に消耗させる。
「シークくん! みんな、耳を塞ぐんだ!」
「えっ、えっ!?」
「いいから塞げ! 説明は後だ!」
カイトスターが振りかぶり、ゴウンが叫ぶと同時にウォートレントの幹へと一撃を繰り出す。
「剣……閃!」
「ンギヤァァァァァァ!」
「……!?」
ウォートレントは真っ二つにされる瞬間、耳をつんざくような断末魔を上げた。それが最後の悪あがきだったのか、ウォートレントはその場に地響きを立てて横たわった。
「なんて悲鳴!」
「ロングソードで大木を真っ二つに……」
「シルバーランクバスターって、すげえ……」
「でも、まだ周りに何体もいるわ! マイコニドは倒し終わったし、リディカさんの守りを固めようよ!」
「分かった!」
バルドルが出番を期待してウズウズしているのを知ってか知らずか、3人はリディカの周囲に立ち、鞭のように襲い掛かる枝をいなして援護を始めた。
「くっ……こいつ一撃が重い! 斬り払うのは無理だ!」
「こういう時、槍の出番よね……ぐっ、柄が丈夫だと、なんとかガードできるわ! 反撃……は、無理!」
「有難うみんな、でも相手は強いわ! 無理だったら退きなさい!」
リディカが魔法詠唱に専念できるよう、シークはバルドルを使った防御だけでなく、魔法と魔法剣で応戦を始める。
「後輩の前で、俺達がノロノロと戦っている訳にはいかんよな! よっしゃ!」
「大技を見せてやる! アローレイン!」
「ファイアートルネード!」
「纏めてぶった斬ってやる! 剣閃!」
「カイトスターの剣閃の後、すぐに耳を塞げ! 聴力と意識をやられるぞ!」
光の矢が大量にウォートレントに降り注ぎ、無数の矢を受けたその幹をリディカの業火が包む。トドメにカイトスターの剣の残像が光の薄板のように現れ、真っ二つにしていく。
「ンギャァァァァァァ!」
「キーーーーー!」
「うっ! 耳痛っ」
シークが耳を塞ぎつつ一瞬目を瞑った時、背後ではウォートレントが1体シーク達へと忍び寄っていた。バルドルが教えようとするも、全員耳を塞いでいる。
「あっ!」
シークは一瞬気づくのが遅かった。驚いた時には既にバルドルを持つ腕が肩まで飲み込まれている所だった。
「シーク!」
「シークくん!? まずい、私の魔法だと君まで巻き込んでしまうわ!」
「痛っ! こんの……!」
噛まれるというよりはただ洞が閉じていく。シークが腕を引き抜こうとしてもびくともしない。ゴウン達は前方にあと2体残っている個体を相手していて、シーク達を助ける余裕はない。
「この……シークを離せ!」
「エイミング! ……硬くて、傷しか付かないわ!」
「ゼスタ、ビアンカ! 俺に考えがある!」
ゼスタとビアンカの攻撃では、樹皮に傷がつく程度。シークは上手くいくと信じつつ、自分とリディカを狙うウォートレントの攻撃を防いで貰うことにする。
「うわっ、落ち葉がドサッと……くぬぬぬ! 力負けしたくねえ! 歯、食い縛って、これで全力だ!」
「槍が折れそう! でもここで負けてちゃ、レインボーストーンを見つけた時の……楽しみが遠退くわ!」
「プロテクト! 暫くはこれで潰される事はないわ! 向こうのウォートレントを倒したらすぐに解放させるから!」
リディカのプロテクトを受け、シークは飲み込まれた腕に力を溜める。向かってくる枝はゼスタとビアンカが防いでくれるが、身動きが取れない。
「バルドル、無事かい?」
『無事と言えるか分からないけど、君が手を放すと僕はお終いだ。そのまま握ってくれていると助かるよシーク』
「つまり、無事って事だね。それじゃあ……いくよ」
『なるほど。僕がミノタウロス戦で教えた事を覚えてくれていて何よりだ』
「口閉じないと……舌を噛むよ! ファイアーソード……の魔力を込めるだけ!」
『口はないのでご心配なく』
バルドルがシークの意図を察する。バルドルは真っ暗なウォートレントの中で魔力を込められ、赤く光っていく。
『あ、見えた。シーク、肘が動くなら上に曲げて、そしたらウォートレントの体内の壁に届く」
「有難う、……破ッ!」
シークがウォートレントの洞の中でバルドルを振り回すと、バルドルの「当たり」「はずれ」という籠った声が内側から響く。内側から焼かれ、ウォートレントが嫌そうに身をよじる。
「バルドル、ごめん俺の腕が熱い……アクアソード!」
『その調子だ。水をパンパンに溜めて、内側から破裂させブブブブ……』
「そうすると……困ったことに俺は自分の耳を片方しか塞げないんだよ!」
「シークくん、大丈夫! 私の魔法で防げるし治せるわ!」
「……だそうだ! バルドル、もうちょっと耐えてくれ!」
「ブブブ、ブグググ!」
「え? 何? 頑張る? じゃあお言葉に甘えて……もう一回アクアソード!」
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