Interference-02
店主に連れられて向かった倉庫には、3段の棚が10メーテ四方程の暗い倉庫の中に4列あった。その棚にはぎっしりと装備が置かれている。
鎧、小手、足防具、更には弓矢まで、売り物は店の表に置いているだけではなかったのだ。
「ホワイトの棚はこっちだ」
店主は棚の奥で在庫確認をしていた奥さんに声をかけ、店番の交代をした。ビアンカはまず槍を、ゼスタは短剣を、そしてシークは防具を見ていく。
「武器を一切見る気がない君のそんな所がとても心地いよ」
「まあ、そもそも魔法使いだからな……元々武器にはそんなに興味がないし」
「僕の心地よさを今すぐ返してくれるかい」
シークの何気ない発言に、バルドルはすかさず誉め言葉を取り消す。その棚の一列隣では、ビアンカが槍を見比べていた。
「そっちの槍は柄まで刃と同じ素材で出来ている。アルテナという合金でな、裏技で更に上の品質のアーク合金も使われている。技術はいるが混ぜると色、そして質感がガーラル鋼と似るんだ」
「えっと、アイアンより上ってことですよね? ガーラルと比べるとどうなのかしら」
「ガーラル鋼はホワイト等級で一般的な素材だが、あいつはアイアン同様重い。身軽に動くのならアルテナ合金製が賢い選択だ。裏技のお陰で国の検査員がミスしたのだろう、ガーラル鋼と判定された」
店主はまるで悪戯をする子供のような笑顔を浮かべ、ビアンカにその槍を勧めてくる。本来なら許されない性能でも、国のお墨付きがあるのなら、それは「間違えて」購入したバスターや誤判定を受けた店の非ではない。
審査時、わざと重りを仕込ませたとしてもだ。
「そんな凄い槍、正直滅多に手に入らない気がするんだけど……」
「ああ、ブルー等級でも運が良くなけりゃ並ばない。そっちのガーラルの槍と比べてごらん」
ビアンカがガーラル製の槍を手に取る。アイアンより若干重く、反対にアルテナの槍はとても軽い。重さに頼らずとも切れ味も打撃性能もいいのだという。
その横にはゼスタがいた。短剣を見比べながら、悩んでいるようだ。
「その槍と同じ、アルテナ合金製の双剣はありますか?」
「ん~、アルテナ製は残念ながら槍だけだ。でも人工ミスリルの双剣がある」
「人工……ミスリル?」
店主はまたもやいたずらっ子のような笑みを浮かべる。
「天然素材には劣るがアルテナと互角の性能はある。30年前にバスターの総本部が原料のランク付けをしたんだが、その時、最後の最後でブルーではなくホワイトに決定した」
「現状で買える最上級、ってことですよね」
「そうなるな。いずれにしてもそう量産出来るものじゃない」
「あの、これ、槍と双剣を買ったら幾らになりますか?」
「台帳に書いたはずだ。アルテナ合金のランスは……30万ゴールド、人工ミスリルのツインソードは24万ゴールドだ。お前さん達にはちょいと高すぎるな」
「合わせて54万ゴールド!? ちょっと待って、パーティーの資金幾らあるんだっけ? 私一応貯金も下ろしてきたんだけど」
初めて買ったグレー等級の武器の3倍程の値段だ。高いだろうとは思っていたが、3人共そこまでだとは思っていなかった。
「えっと、俺が加入する前の金は除くとして、2週間で60万ゴールド、ビアンカの貯金は? 俺は出遅れてるからな、個人の全財産7万だ」
「私は全財産15万。ごめんシーク! 武器の新調、してもいいかな? 貯金で足りない分」
「俺も、全然足りてないんだけど、どうしてもこれに換えたい」
シークは金銭感覚の激変にめまいがしていた。もっとも、同年代でここまでのものを持っているバスターはまずいないのだが。
「俺は魔術書もバルドルもタダで揃ったし、この先も武器は買わないから、その分2人に回すのは賛成だよ」
「おっと、僕をタダ扱いしてくれるとはいい度胸だね」
「君の未来を保証するんだ、買い変えもしないし悪くない取引だろう?」
「シークってば、僕を喜ばせたり落としたり……! でも今の発言は嬉しいね。おっと、もう何も言わないでおくれよ。僕以外いらないという言葉だけで十分だ」
シークは散財する気がなく、かといって目的もなく貯金をする気もない。必要ならば使う、なんとも田舎少年らしく緩いスタンスだ。今以上に欲しい武器などないのだから、ずるいとも思っていない。
店主はハハハと笑い、槍と双剣、それぞれを2万ゴールドずつ割り引いてくれた。
アルテナ合金の槍は光に当てても反射が鈍く、見た目はアイアン製に似ている。人工ミスリルの方は多少青白く光り、天然と並べなければ人工とは分からない。
素人であればホワイト等級で一般的な不銹鋼 (いわゆるステンレス鋼)と見分けが付かないだろう。
「全財産を使う訳には行かないけど、ビアンカかゼスタ、どっちかの防具は更新できるんじゃないかな」
「シークは? 私達ばっかりじゃダメよ、お金が貯まるまで無理しなくてもいいんだし」
「たとえ誰か1人分だとしても、更新できるのならした方がいいに決まってるじゃん。強くなれたらモンスターを倒しやすくなって楽なんだから」
シークは自分だけ超一級のバルドルを扱っている事に、申し訳なさすら感じていた。その分、ビアンカやゼスタを優先するのは当然だとも思っている。
「店主さん、防具も見せて貰えますか。全身鎧と軽鎧を」
「ああ、いいとも。お前さんたち資金的な不安があるのなら、今使っている武器や防具を下取りという手もあるが、どうかね」
「下取り!?」
「状態が良ければ補修して再利用、悪ければ素材として使える。未練がないならどうだい」
ゼスタとビアンカは頷く。やや名残惜しそうに見つめながらも査定を任せ、ホワイト等級で品質が良い装備を探し始めた。
「ああ、あったあった。これはどうだ、人工ミスリルプレートの軽鎧。軽くて防御力は格段に上がる。異種の金属と合わせて使っても、これなら錆や腐食を気にする必要はない」
「腐食?」
「金属というのは、簡単に言えば弱いものが負けるんだ。合金ならまだしも、違う金属を重ねて置くと、化学反応が起こってしまう。ミスリルは表面に常にコーティングが掛かっていて、酸を浴びた直後でもなければ何も気にする必要がない」
「へえ、全然気にした事がなかったです」
「これは数年前の型だが、どうだい。革の部分はナイトカモシカ革で質も良い。そっちのお喋りな聖剣がよく知っておる」
店主に目配せをされると、バルドルは意見を求められていると分かり、小さく咳払いをした。いかにナイトカモシカ革が素晴らしいかを伝えるためだ。
「なめらかな肌触り、何週間拭いて洗ってを繰り返してもくたびれない強度! 耐酸性が少しあるから、たっぷり浸さない限りは溶けない。伝説の聖剣がここまで絶賛する代物に間違いないよ」
「肌触りはまあ、関係ないっちゃあ関係な……」
「肌触りは大事よ! 擦れて赤くなったり、着心地悪くてイライラしたり、そういった肌へのストレスを与えないって凄く大事!」
「おっ、ビアンカが食いついたぜ」
「僕がシークに買ってもらった時、どんなに嬉しかったか。ビアンカならきっと分かって貰える」
シークとゼスタは、ビアンカの装備を優先すると決めていた。装備購入戦争に負け、装備に不安があると言っていたからだ。
胸部のプレート、腹部の鎖帷子、腰周り、足具、小手などは全て人工ミスリルで作られている。守るべき場所は確実に守られる設計で、その防御性能は段違いだ。
店主は24万の値札を書き換え、18万ゴールドを提示する。更に下取り値引きで17万だ。シークとゼスタが頷き、ビアンカの防具更新が決まった。
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