Will 12
「この地に火の属性を持つモンスターはいない。シルバー等級のバスターを倒すモンスターなら尚更だ。そして伝承を調べるうちに、ヒュドラとの戦いがシュトレイ山で行われていた事を突き止めた」
ゴウン達は地図を取り出し、そしてこのイサラ村の北にあるシュトレイ山を指す。連なる峰と峰の間を縫うように通る道を火口にある湖までなぞり、その場所を人差し指でトントンと打ってみせた。
「バスターが倒れていたのがここだ。15人が同じ日に一斉に向かったとは考え辛い。具体的な封印場所までは分からないが、ヒュドラはある程度の期間ここをねぐらにしていると俺達は考えている」
「うん、ヒュドラはその火口湖の手前の洞窟に封じ込めていたと思う」
「やはりそうか……」
ゴウンはカイトスター、レイダー、リディカの顔を確認して頷く。4人は明日にでも火口湖に向かうつもりだ。
そんな4人にバルドルが確かめたかったのは、火口湖に向かうつもりかどうか、討伐するつもりかどうか、という話ではない。
バルドルは意気込むベテランバスターに対して、「これは言い難い事なのだけれど」と話を切り出した。
「君達は討伐するつもりと言っているけれど、僕の見立てでは君たちの手によって出来るようには思えない。『苦労してなんとか倒せた!』程度のモンスターなら伝説にはならない」
「……分かっている。でも、俺達だっていつまでも現役じゃない。あと数年も経てばガタもくる。ゴールド等級には上がれなかったとしても、今が一番強いと自信を持って言える」
「そうだね、君達は確かに強いし、それは間違いないと思うよ。ただ、無謀とだけ忠告しておく。死ぬと分かっていて挑むのは、勇気でも使命でもない。シーク達を心配してくれた君達を、僕も心配しているんだ」
バルドルが言う通り、ゴウン達では勝てないだろう。ディーゴ達より1人少ない状態で、しかもそれぞれの実力は互角程度。バルドルのような逸品の武器だって揃っていない。ヒュドラの情報を得る為に近寄るだけで精一杯だ。
「しかし、このまま放っておく訳には……誰かが犠牲になってでも、退治に向かわなければ!」
「犠牲になるだけだよ。見たところ、君達は英雄になりたい、金が欲しいという訳ではない、違うかい?」
昨晩の話の中で、バルドルはゴウン達が純粋に平和な世の中を願っていると確信していた。
「……そうだな。俺はその3人の新人に、魔王アークドラゴンなど伝説の中の存在でしかない、そんな世の中が訪れる事を願ってここまできた」
「それじゃあ、その為なら何でもするかい?」
「ああ、アークドラゴンにすら対峙する覚悟だ」
その言葉を聞き、バルドルはニヤリと笑った……ような気がした。バルドルは力量が足りない彼らに、最大限役に立って欲しいと考えていたのだ。
「その覚悟をどうかシーク達に使って欲しい」
「どういうことだ?」
ゴウンは首をかしげる。
「絶対に倒せない相手に挑むより、シーク達を、ヒュドラを絶対に倒せるバスターにするために鍛えて欲しいのさ」
「この子達を、ヒュドラを倒せるように……だと?」
「そう。バスターになってまだ2週間。グレー等級の貧弱装備でこの周辺のモンスターを倒すんだよ? 他に適任がいるかい」
「そりゃあ、確かに凄い才能だ、他に心当たりはないが……」
「アークドラゴンの為に存在する僕を持っているのはシークだ。僕が選んだのだから間違いない。1人2役の魔法剣士なんて、他にいるかい?」
バルドルの提案に驚きながら、ゴウンはまた仲間と顔を見合わせる。ゴウン達だって、決して死にたいわけではない。可能性が高い手段があるのなら、それに賭けたいという気持ちも当然ある。
だが、それは自分達が出来ない事を誰かに押し付ける形になる。しばらく話し合っていたゴウン達の中から、リディカが1歩前に出た。
「じゃあ、私から1つ確認。バルドルさん、ビアンカちゃん達なら倒せるのかしら。あなたを持っていないビアンカちゃんとゼスタくんは?」
「愚問だね。シークと僕が選んだ仲間だよ? 装備次第で君達にだってすぐ追いつける」
「確かに私達が倒すのは無理でしょうね。怒ったりしないで欲しいんだけど、本当はね、私達……この村を発つ日が人生最後の日って、前から決めてたの」
「えっ!?」
バルドルを除くシーク達は驚いた。人生最後の日、つまり死を覚悟してヒュドラを相手にするつもりだったということだ。
「そんな時、あなた達を見かけたの。何故かしらね、放っておけなかったのよ。目の前の新人を放って目的達成なんてどうしても出来なかった」
「それで、俺達に色々と教えてくれたんですか」
シーク達は、ゴウン達がそのような事を考えていたとは思ってもいなかった。優しく親切な先輩バスターの姿や振る舞いを見て、いつか自分達もそうありたいと、慕い始めてもいたところだ。
動揺を隠せないシーク達に、今度はカイトスターが笑いながら話しかける。
「俺の場合、ビアンカちゃんに余計な事を言っちゃったからな。何も知らない若い子が、こんな所で危ないと思ったらつい」
「それはもういいんです。私も、心配してくれてのことだと分かっていたら、怒ったりしませんでした」
「そうか。……そうだな、もっと身近な所から始めても良かったんだよな」
「ああ、俺達はちょっと焦っていたんだ。新人バスター達を鍛えて強くして、モンスターに負けない『勇者』に育てるって手もあった訳だ」
レイダーがうんうんと頷きながら語り、そして「よし!」と意気込む。そしてシーク達3人の顔を順番に見ながら、リーダーのゴウンに相談もしないまま決定を下した。
「よし、俺達で臨時のチームを結成しようじゃないか! 俺達が全面的に支えるから、とにかく手当たり次第にクエストを受けて、金を稼いで、装備を更新するんだ」
「おいおいレイダー、勝手に決めるなよ。まあ、悪くない案だけどな。金を渡して装備を買って来いって言っても、それじゃあ鍛えることにならないし、君達は納得しないだろう」
ゴウンが顎鬚をさすりながらニッと笑い、鍛えてやるからなと言ってシークの頭を撫でた。シークは戸惑いながらも、ここまでの話を必死で整理しようと頭をフル回転させる。
そして「あれ?」と呟き、バルドルとゴウンを交互に見て疑問を1つ投げかけた。
「あの、ま、魔王アークドラゴンを倒してないって、ヒュドラの封印って、一体何ですか?」
* * * * * * * * *
「え~!? それじゃあ魔王アークドラゴンも、その手下の『4魔』も、倒してないってこと!?」
「そういうこと」
「そんな事、全然言ってくれなかったよね!? え~? 俺は今すっごく衝撃を受けてるんだけど!」
「封印が解けずに何事もなければ、知る必要もないからね」
「じゃあ、じゃあ……他の喋る武器って、そのヒュドラとか、そいつらを倒さなきゃ手に入らないんじゃん!」
「そういうこと」
「何で倒さなかったんだよ……勇者って、あー俺の中の勇者像が崩れていく……」
「ご愁傷様」
ようやく話の根本的な部分を理解したシーク、ゼスタ、ビアンカは、モンスターと戦う時よりも狼狽えていた。アークドラゴンを倒しに行くという流れになってしまった上に、喋る武器を手に入れるため、4魔も倒すことになるのだ。
「魔王アークドラゴンって、もう復活したの? 私達の他に、こういう事知ってる人は?」
「可能性を考えている人がいるかどうか、って段階だね。さあ、今度こそ魔王やその手下を倒して真の勇者になろう」
「え、やだ何この剣、ちょっと口調が嬉しそうなんですけど!」
「おいシーク、バルドルって本当に聖剣か? 呪いの剣とかじゃないよな」
「え、バルドルって、呪いの剣なの?」
「失礼な! 僕は正真正銘、聖剣バルドルさ! ここまでの旅で何度僕に救われたか数えてみたらどうだい」
「これ、『聖剣だよ』詐欺じゃないわよね」
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