Will 11
食事から部屋に戻ると、シーク達はそれぞれの過ごし方で一休みしていた。
と言っても、その間考えている事は、皆同じだった。
それは「装備が追いついていない」という事だ。
ゴウン達に指導を仰ぎながら戦った結果、朝と夕方では全く動き方が変わり、同時に攻撃するような場面が増えた。
カイトスターとゴウンに習ったゼスタは、盾役として踏ん張る際の立ち方、攻撃の受け方が見違えるほど良くなった。特に最後に戦ったイエティの攻撃では圧される事なく2人を守り切った。
ビアンカは槍での突きや薙ぎ払い以外にも鋭い矛先で斬る、投擲を行うといった攻撃が随分と上手くなった。
そしてシークは初めて『他人』から本格的に習う剣術によって剣の刃の使い方、力の込め方の基礎、攻撃の種類を学んだ。
「僕が教える時にやってみせてあげられないのが申し訳ないね」
「あっ、心の中を読んだな?」
シークが剣を構え、どんな攻撃がしたいかを頭に描いた瞬間には、もうバルドルに魔法が掛かっている。そうなるまでリディカには何度も魔法剣の出来を見て貰った。
だが、防具が貧弱である事がどうしても足を引っ張る。攻撃を絶対に喰らわないことが前提の戦いになるからだ。
避けるだけでも大したものだが、回避前提の安全圏からの攻撃は、威力も出ない上に限られてしまう。
「……あのさ」
「ん?」
「やっぱり、装備を揃えたいよね」
「そうだな、ブルーランクに劣らないとまでゴウンさんに言って貰ったけど、上に行くには装備を更新しろって」
「正直な事言うと、私、もうオーク退治くらいから武器と防具には不安があったのよね」
「えっ? そんなに前から?」
「そう。今回の事で確信に変わったってだけ。お金貯めなきゃ」
普通なら半年ほど経ってから考える事だ。3人は所持金を持ち寄って数える。その合計は20万ゴールドほど。誰か1人の防具代すらままならない。
イサラ村に管理所はない。宿や店先で見かける求人も展望台への護衛ばかりだ。3人がこの村にいても資金は貯まらない。
「ここに居たらゴウンさん達にもお世話になりっぱなしだし、一度意地を張らずにギリングに戻って、管理所に寄ってみようよ」
「そうね、私達ちょっと浮かれすぎてたかも。地道にやらなきゃいけなかったね」
「なあ、それじゃあゴウンさん達に挨拶しておこうぜ。明日村を出て町に戻るって」
3人は頷き立ち上がる。とそこで、その場で立ち上がらなかったバルドルが3人を呼び止めた。
「ちょっと待った」
「どうしたの」
「僕も連れて行っておくれ。そして、あの4人と僕だけにさせて貰えないかい。少し話をしたいことがある」
「……まさか、俺とじゃなくて向こうのパーティーで旅をしたいとか」
「冗談じゃない。僕は『聖剣の柄も借りたい』君達を見捨てるような『剣でなし』じゃないよ」
「時々新しい言葉を混ぜるのやめてよ、バルドル。でもそういうことなら良かった。その話は俺達が聞いちゃ駄目なのか?」
バルドルが何故シーク達に話を聞かせないようにするのかが分からない。それを言うのはつまり理由を言ってしまうようなものなので、バルドルは少し考えた。
「じゃあ、あの4人がいいと言えば同席していいよ。きっと気分の良い話ではないけれど、いいかい?」
「え、まさか俺達への指導に抗議するとかじゃないよね」
「それはない。君達の動きはとても良くなった。手取り足取りが出来ない僕では限界があるからね」
バルドルの言葉に少し安心した3人は、ゴウン達の部屋の扉をノックした。
「はい……ああ、君達か」
「こんばんは。あの、改めて今日までのお礼を言いたくて。それと……俺達、明日この村を出て一度町に戻る事にしました」
「そうか、それがいい。さ、入ってくれ」
扉を開けて出てきたのはレイダーだった。半袖のシャツからのぞく腕はとても太い。お手本と言って矢を放った瞬間にイエティの首が吹き飛ぶ程の威力も納得だ。
レイダーに案内されて部屋の中に入ると、リディカが一番奥、その手前にゴウン、そしてカイトスターと、それぞれがベッドに腰掛けて雑談をしていた。
「やあ、どうしたんだい」
「フフッ、改めてそうやって防具を脱いで並ぶと、まだまだ若いわね」
「そうだなあ、俺達にもこんな頃があったよな」
3人の姿を微笑ましく見つめる4人に、シーク達は改めて礼を言い、そして頭を下げた。誠実で真っ直ぐな若者達だという印象は間違っていなかったと、4人は笑顔で目を細める。
「俺達、一度装備の新調を視野に入れて、ギリングに戻ろうと思います。色々順調過ぎて、何でも出来る気になっていたんです」
「装備の事もなんとかなると思ってました。でも、私の槍じゃこの山を越えられないって、気づいたんです」
「強いモンスターを倒して稼いで……って、甘く考えていたなと分かったので、一度管理所に相談してみようかって」
ゴウン達に教えを乞い、シーク達は自分達の弱点をいくらか補って自信をつけるのではなく、かえって自分達に足りない物を自覚した。
強さを得てなお謙虚な姿勢は、4人からの印象を更に良いものにしたようだ。
「俺達も、この山で暫く目的のものを探そうと思っていてね。そろそろかなと思っていたんだ。君達のように有望な新人と出会えて、少しでも役に立てて、本当に嬉しかったよ」
「そうね、立派なバスターになってちょうだい。応援しているから」
「有難うございます!」
シーク達はその期待に応えるという意志を表すように力強く返事をした。ただ、その中でバルドルだけは違った。
「ところで、僕から『昨日の話』をさせて貰えたらと思うんだけど、このまま続けていいかな」
バルドルが言う「昨日の話」というものが何か、シーク達はさっぱり分からない。ゴウン達は少し悩んだ後、「いいよ」とバルドルに話を促した。
「どうもね。えっと、昨日の話で察したのだけれど、この後、ヒュドラを討伐するつもりだね」
「え、ヒュドラ?」
「それって伝説のモンスターの1体だろ? どういうことだ?」
シークとゼスタが思わずバルドルに聞き返す。ビアンカはその話をリディカから簡単に聞いているため、あまり驚いていないようだ。バルドルはシークとゼスタの問いには答えず、じっとゴウンの言葉を待った。
「……その通りだ。この辺りの岩には昨年辺りから異変が出ている。何もない場所なのに黒く焦げた岩、何かで溶かされたような地面。そして、先日……シュトレイ山の火口湖の手前で、バスターの遺体を発見した」
「バスターの、遺体?」
「ああ、それも1人や2人じゃない。数えただけで15人、3パーティー分だ。肉が食われている遺体が殆どで、残りは真っ黒に焦げていた。何個か判別できたバスター証で、オレンジが1組、パープルが1組、シルバーが1組……と分かった」
ゴウンの話に、3人は驚いて顔を見合わせる。今日の昼間、この山には火属性のモンスターがいないという話を聞いたばかりだったからだ。
それに、火山はすでに活動を終了していて、噴火などの活動はない。黒焦げになるような現象は説明がつかなかった。シルバー等級で勝てないモンスターなど、想像すらできない。
「この北のシュトレイ山。恐らくそこが、かつて勇者ディーゴが魔王アークドラゴンの手下とも呼べるヒュドラを倒した……いや、封印した場所だ。そうだろう、バルドル」
「……その通り。それだけの手がかりでヒュドラに辿り着いた理由を伺っても?」
「え? 封印って何ですか? この山に封印されているんですか?」
「私達、伝説の勇者達が倒したと聞いていますけど」
シーク達は新事実が多過ぎて話についていけない。ヒュドラとはどんなモンスターだったか、封印とは一体どういうことか。
北の山にその伝説のモンスターが復活したとはどういうことか。そんな疑問がぐるぐると頭の中を回っていた。
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