Magic sword-07


 3人は大勢のバスターに押しつぶされながらも、全速力でクエストが貼り出された掲示板へと向かう。


 もちろんベテランパーティーもいるが、多くは簡単な依頼しか受ける事が出来ない新人バスターだ。


「バルドル、選ぶの任せていいかい」


「おっと優しい。少しでも『刃ごたえ』のあるものを選ばせてもらうとするよ」


 周囲が新人同士なのは分かっているため、クエスト争奪はより熾烈になる。狙うクエストの難易度が同じという事は、急がなければ貼られているクエストが他の者に取られてしまい、なくなってしまうという事だ。


 シークとビアンカはいかに早くクエストを選び、先に手にするかを2人で話し合い、この1週間でだいぶコツを掴んできた。


 例えば、普通は目の前にあるクエストから横に選んでいく、もしくは出来るだけ視界にクエストがたくさん映る位置を確保して広範囲を見渡そうとする。


 しかし、シークとビアンカはあえて一番下や一番上のクエストから注目し、やや文字が見づらい赤や青の紙 (緊急のもの、多少厄介なもの)も優先的に見ていく。もちろんバルドルも手伝いならぬ柄伝いをする。


 そうすれば同じクエストを他の者と同時に見る可能性も低くなり、受けられると分かった時に手に取れる確率が上がる。


 唯一悩む事があるとすれば、バルドルが喜ぶクエストでなければ受けられない事だろうか。


「シーク、右下のボアの群れ、1頭につき1000G」


「オッケー、取った!」


「ゴブリン……は、もう飽きたから……目の前の一番下、取って」


「これ? 取ったよ。ゴブリンに飽きたのはバルドルだけだろ、俺は飽きてないよ」


「もっと重い『刃ごたえ』が欲しいんだ。ゴブリンが100体も200体もいるなら話は別だけれどね」


 シーク自身も選ぶが、基本的にはバルドルが受けたいクエストがあればそれを優先する。バルドルもまた、シークにとって厳しい内容のクエストは選ばない。


「なるほどね……ってバルドル、このクエスト『オーガの巣の調査および退治』なんだけど! いや、確かに町からの依頼で40000Gっていう高額報酬だけど、流石に危ないような」


「オーガなら村を旅立つ前に倒せたし、それにシークはお金が大好きじゃないか」


「嫌いじゃないけど……必要なだけで、金に目がないって訳じゃないよ」


「そう? 壁に耳もあって引き戸に目があるのなら、お金にも目がないとは言い切れないと思うのだけれど」


 人の言葉を中途半端に覚えているバルドルの発言に、シークは一瞬何のことか分からずに考える。数秒考えた後、お金に目の実物があるかもしれないという意味だと気付き、笑いながら否定した。


「バルドル、『壁に耳あり、引き戸に目あり』って諺は、実際に目や耳があるって意味じゃないよ。それに金に目がないっていう言葉は、お金大好きって事」 


「ふうん。まったく、人の言葉は分かり難い言葉が多すぎるよ」


「ロングソード語では何て言うのさ」


「教えてもいいけれど」


 シークは騒がしい周りの声の中、バルドルの発する声に耳を澄ませる。が、「もう一度」とお願いして聞きなおしても上手く聞き取れない。


「ちゃんと言ってくれてる?」


「……。あれ、人間には聞こえないのかい? これは残念だ」


「それじゃあ俺は話せるようにならないね」


 どうやら「ロングソード語」というのは人間の耳には聞こえないものらしい。


「シーク! お待たせ。この時期って新人がクエストを受けまくるから、段々と退治系のものが無くなっていくのよね。私が取れたのはまたオークなんだけど……」


「俺も持ってきた、こんなのはどうかな、ボア退治」


「被ってるけど、まあいいよね?」


 シークとバルドルがクエストとは全く関係ない話をしていると、ビアンカとゼスタもクエストを1つずつ獲得して戻って来た。


 ビアンカはゼスタをまだ紹介されておらず、シークの隣に立っている見知らぬ少年に首をかしげている。その顔には「結局誰だろう、この人」という心の声が滲み出ていた。


「シーク、ところでこの人は?」


「あ、ごめん、紹介するね。友達のゼスタだよ。色々と話せば長い事情があるんだけど、パーティーに誘いたいんだ」


「初めまして、ゼスタ・ユノーだ。これからお世話になってもいいかな」


 ゼスタの自己紹介を聞きながら、ビアンカは少し考えるような素振りを見せる。シークの友人とはいえ、どんな人物かも分からずに一緒に行動するのは不安があっても当然だ。


 そんなビアンカを見て、バルドルは何故考えているのかを当てるように「分かった!」と言ってビアンカにその理由を言ってみせた。


「ビアンカもシークに劣らぬ『金に目がない』人間だから、3人だと分け前が減るって考えているんだね」


「へっ!?」


 ビアンカは全く考えていなかった事を言われ、驚いた後に慌てて否定した。勿論、ビアンカはシークよりもお金を儲けたいという意欲が強いものの、金に目がないと言われる程の事はしていないつもりだった。


「違うわよ! クエストがやり易くなってむしろ有難いくらいよ。ほら、男の子が増えると女子としては不安になるの!」


「えっ、ビアンカをどうにかしようなんて勇気ある奴はそういないと思うよ……少なくとも俺は」


「ビアンカは殴り込みの名人だからね」


「なんですって? シーク、バルドル、私を見て意外と可愛いなとか、ちょっとは思わないの?」


「自分で意外って言ってどうするのさ」


 ビアンカはシークとバルドルのツッコミに動揺しながらも、なんとか前言撤回させようと必死になる。


「いや、確かにビアンカは可愛いと思うよ。見た目はね」


「僕は人の『可愛い』『可愛くない』には疎いからパスする」


「あ、ずるいぞバルドル」


 2人と1本のいつもの言い合いに、とうとうゼスタは笑いを堪えきれなくなった。そして笑い涙を指で拭きながら、ビアンカに対して改めてパーティー加入の許可をお願いした。


「君が可愛いのはよく分かるし、シークやバルドルと信頼し合っているのもよく分かる。そんな君たちのパーティーだからこそ俺を入れて欲しい。まだ戦いには不慣れだけど、どうかな」


 ビアンカはまだシークやバルドルに何か言いたそうにしていたが、ゼスタの言葉を聞いて我慢した。そしてシークの友人らしい誠実そうな雰囲気を感じ取って「いいわ」と答えた。


「この流れでダメなんて言えないでしょ。それになんだか、シークってこうして見ると『意外と』カッコイイのよね。あなたもカッコイイし、一緒にいると周囲の視線が気持ちいいわ。私は賛成」


「あの、僕の事にも言及してくれると嬉しいのだけれど。 僕ほどの『カッコイイロングソード』なんて、そうはいないと思うよ」


「そうね、確かにカッコイイ剣だなって会った時から思ってた。バルドルのおかげで私たちなんとかやって来れたってのもあるし、3人と1本の良いパーティーになれそうね」


「じゃあ、決まりかな? パーティー登録をしたらクエストを受けてこよう」


 シークとビアンカ、そしてゼスタの3人は一階へと下りてパーティー登録窓口へと並んだ。5分程待ったところで順番が回って来る。


「加入ですね? それではこちらに加入する方のお名前と、登録職と、登録番号を。加入するパーティーの登録番号はこちらに」


「はいっ!」


 ゼスタが記入を済ませて再び職員に渡すと、職員の女性は番号でゼスタの照会をはじめる。


「ゼスタ・ユノーさん。ですね。あなた、別のパーティーを脱退されていますね? 慰留申請が出ていますけど、どうしますか」


「え、慰留?」


「戻って来て欲しいという意味です。どうされますか」

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