Magic sword-06
「え、もっと歳取ってんのか!」
「300年前に魔王を倒したってだけで、僕はその前からディーゴと旅をしていたよ。もっと言うとディーゴの為に作られた訳でもない」
「バルドルは勇者ディーゴが19歳の時に出逢っているんだってさ。そう言えばその前にバルドルがどうしていたのか、誰が作ったのか、聞いた事はなかったね」
「作られた当時の事なんて覚えていないよ。気が付いたら喋っていたんだ。人の子と一緒だよ、生まれた瞬間も覚えていないし、物心つく前のことも覚えていない」
バルドルのもっともらしく聞こえる強引な説明に、ゼスタは何かが違うと思いながらも言いくるめられる。そんなゼスタとは違って、バルドルの話し方に慣れてきたシークはきちんと相槌を打つ。
「まあ、そうだね。とすると、バルドルも成長しているってことかな」
「そうかもね、でも心配しないで。大きさは据え置きだから重くなったりしない」
「それは有難い。ところでバルドルは剣としては大人ってことになるのかな」
「人間は考え方や知識の成長だけでは大人と認めてもらえないらしいね。そういう意味で言えば僕は総合的には子供で、歳だけで言えば大人かもね」
「ん~、君と同じ武器の仲間がいれば色々と話を聞けるのかも。バルドルが相対的にどっちなのか分かるだろうし」
「子ども扱いは嫌だね、でも大人扱いされて失望されるのも嫌だ。僕はどちらでもなく『バルドル』であり続けるとするよ」
そうやってシークがバルドルと話すのを聞きながら、ゼスタは「そうだ」と言って立ち上がった。何かを閃いたようだ。
「シークはバスターとして何を目指してるんだ?」
「目指す? ん~そうだね、さっきは話が脱線したけど、魔法を使いながら剣も使う『魔法剣士』を極めようかなって。魔王を倒すとか、国を作るとか、そういう機会はなさそうだし」
「へえ、魔法と剣を同時に使うのか! その、ビアンカって子は魔法を使うのか」
「いや、ビアンカは生粋のランスだよ」
「その子の目標が何かは分からないけど、俺もシークのパーティーに入ってバルドルと共に戦った伝説の武器を……探してみたい」
ゼスタは紙とペンを借りてこれからの目標や、そこまでに必要な事、そしてゼスタ自身がしたいことを記していく。シークがそこに標準的なバスターの成長速度や、武器・防具の制限解除のタイミングを追記していくと、それらしい行動計画が出来上がる。
ガチガチに計画を詰めてしまわずに、ある程度漠然とした部分も残す。明日ギリングに戻ったらビアンカに見せ、修正していけばいい。
実際にその通りに事が進むかは分からない。むしろ諦めたり、くすぶる場面が出てくることも予想していた。
それでもどこへだって向かう事が出来る今の時期だからこそ、計画や目標についてあれこれ語り合う時間は楽しく重要だ。
「とりあえず、バルドルが覚えていることを聞いていこうよ。勇者ディーゴの仲間の故郷とか、他にどんな武器があったかとか」
「僕の他には盾、大剣、双剣、槍、弓、5つの喋る仲間がいたね」
「みんな名前はあったの?」
「む、僕の名前は真っ先に聞いてくれなかったのに……。氷盾テュール、炎剣アレス、炎弓アルジュナ、魔槍グングニル、冥剣ケルベロス、僕が知っているのはそれだけ。聖剣バルドルと愉快な仲間達さ」
シークは、指を降りながら確認し、5つという数に首をかしげた。
「ねえバルドル、1つ多くない?」
「多い?」
「パーティーは5人までだよね。昔はどうだったか知らないけれど、そうすると6つの武器が一緒に冒険ってのはおかしいなと思って」
シークの疑問に、バルドルは「ああ」と言って理由を話した。
「テュールとアレスの持ち主は一緒なんだ」
「あ、剣と、盾……剣盾士の人が一緒に使っていたのか。じゃあ双剣はケルベロスになるのかな」
「そういうこと」
武器の数が人数と合わないのではという疑問は解決され、シークはどれから探すかを考え始める。一方、ゼスタはまだ何かひっかかっているようだ。ゼスタはバルドルに双剣の名前の由来を尋ねる。
「ケルベロスって伝説上の3つの頭をもつ狼じゃなかったか? 双剣は2つで1つ、だよな」
「そうだね。持ち主と双剣でつまりは3つの頭ってこと」
「ああ、そういうことか」
「ケルベロスはとても便利だよ。2本で『ひとつ』だから、片方を遠くに置いて、もう片方を傍に置いていると、両方の景色を見ることが出来る」
「へえ! それはいい事を聞いた」
バルドルの説明でゼスタも納得したようだ。ゼスタは双剣のケルベロスから探したいと思っていたが、ビアンカも槍のグングニルを探したいと言い出すに違いない。
優先順位を提案する事も出来ないシークの代わりに、バルドルが「名案がある」を伝える。
「僕とシークはどちらでもいいから、2人で決闘でもして順番を決めちゃうといい」
「え? 何でそこで『じゃんけん』って発想が真っ先に来ないのかな」
「武器は戦う為にあるのに、平和的な案を真っ先に出せと言うのかい? それは横暴だよシーク」
「残念ながら、君はその決闘に絡むことが出来ないんだよ」
「勝てる自信がないのなら手伝うけれど」
「そういう事じゃないってば」
2人と1本、そして時々弟のチッキーを交えて行われた旅の計画会議は、シークの父親が帰ってくるまで繰り広げられた。
それからシークは父親に対し、もう何度目になるか分からない表彰の話をして聞かせた。
* * * * * * * * *
翌日の朝6時。シークとゼスタは装備を整えて玄関の扉を開けていた。
シークはすでに起きていた父親と母親に見送られながら、まだ寝ているチッキーを起こさないように外へと出る。
「じゃあ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい。気を付けてね」
「シーク、遠くに行ってしまえば難しいかもしれないが、近くに寄ったら帰って来い」
「分かった。チッキーにもまた帰ってくるって言っておいてよ」
「おじさん、おばさん、お邪魔しました」
「『お父さん』さん、『お母さん』さん、どうもね」
シークとゼスタは手を振りながら一緒に歩き出す。8時前に町にたどり着くには、1時間待って7時の馬車に乗るか、歩くしかない。
アスタ村まで徒歩で来たことがないというゼスタに、シークはすぐに着くよなどと言って、軽い足取りでスキップをして見せた。
「兄ちゃ~~ん!」
「あ、あれ?」
「いってらっしゃ~い!」
「行ってくる―! お前も頑張れよチッキー!」
シークは自分の名前を呼ぶ弟の声に気付き、家の方角を振り向く。すると部屋の窓を全開にし、大きく手を振っているチッキーが見えた。寝かせておくつもりが、物音と話し声で目覚めさせてしまったようだ。
「兄ちゃ~~ん! 鍬忘れないでねー!」
シークは弟の念押しに苦笑いしながら、いっそ作れる人を探した方が早いのではないかとため息をついていた。
* * * * * * * * *
2時間歩いて町の管理所に着いた時には、既にビアンカが待っていた。ストレッチをしている辺り、扉が開けば今日も駆け込んでクエストを手にするつもりなのだろう。
「おはよ、えっとそっちは……誰?」
ビアンカはシークと共に現れた少年に首を傾げる。だが間もなく8時。悠長に自己紹介をする余裕がない。
「おはよ! とりあえずビアンカへの紹介は後! 今日のクエストを確保するから、ゼスタはオーク退治かゴブリン退治か、キラーウルフ退治みたいな内容のクエストがあれば1つ確保して!」
「わ、分かった!」
シークの指示が終わると同時に8時の鐘が町に鳴り響く。そして、管理所の扉がゆっくりと内側に開いた。
「行くぞ!」
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