Magic sword-04


 バルドルの少しずれた発言に対し、ゼスタは何か思う所があったようだ。


「楽するために頑張る、か。俺の場合、他の人からは何もせずに飯食わせて貰ってるように見えただろうな。まあ、そもそもうちの親が頼んだから、断れなかっただけだろうし」


「どうだろう、ゼスタの伯父さんはそんなに悪い人だとは思わなかったけど」


「ああ。けど、昨日も真っ先にモンスターと対峙したのは俺なのに、別の奴が後ろから魔法で先に倒したり、強引に割り込まれたり。挙句、前に出ないのが悪いって言われてさ」


「それじゃあ何かを学べる訳でもないし経験にもならないし、一緒にいる意味もないね。脱退するって言って、納得はしてもらえたのか?」


「いや、殆ど喧嘩別れみたいなもんだよ、抜けるって宣言して出てきた」


 シークは友人が早速躓いていると知って衝撃を受けていた。ビアンカが以前言ったように、新人が旅立ちから間もなくパーティーを抜けるのはよくある事だ。


 ただゼスタの場合は親戚がいるパーティーだった。向こうも納得していないとなれば今後実家にも帰り難いだろう。もしもきちんと説明をする気があるのなら、シークは今から一緒について行ってあげてもいいと考えていた。


「このままっていう訳にもいかないだろ? もし言いたい事があるなら俺がついて行こうか? 俺の仲間もギリングにいるし」


「えっ、まさかもうパーティーを組んでいるのか」


「うん。と言ってもまだ俺とその子の2人だけ」


「と、僕が1本。シークは時々ビアンカをおとりにしたり、僕の楽しみを横取りさせたりしているよ」


「おい、聞こえが悪いよバルドル」


 シークがバルドルをもう一度小突くかを迷っている間、ゼスタは絶望していた。聖剣を手に入れたとはいえ、魔術書がない魔法使いには需要もない。


ゼスタはシークがてっきり1人で細々とクエストをこなしているものだと思っていた。そんなシークを誘ってコンビを組み、旅をやり直すつもりでここに来たのだ。


「もう、結構クエストもこなしていたりするのか」


「まあ、そうだね。今はとにかく戦いに慣れたいし、何かと要りようだから」


「シークは今日、管理所と隣町の……どこだっけ、アンバーライト?」


「バルドル、それは修理工のおじさん達の会社だよ。町の名前はリベラ」


「そうだったね。シーク達はリベラの町長さん達から表彰されて、ホワイト等級に上がったのさ」


 ゼスタはホワイト等級と聞いてまた驚く。魔術書を買えない魔法使いがたった1週間でホワイト等級になったと聞けば、誰だってそうだろう。


 通常は新人同士で組んだとしても、シーク達のようにクエストを順調にこなす事は稀だ。順調にこなせるようになる前に、慣れるのが早い者と遅い者で次第に差が開きはじめ、それがパーティー内の対立や孤立を招く事もある。


 ベテランと組んだとしても、未熟なバスターが活躍する機会を失い、殆ど荷物持ちのような状態で旅をするという話もある。だからといって抜けて新人1人で出来る事などそう多くはない。


 そんな新人の葛藤や加入脱退が落ち着きだすのは、半年から1年後あたりだと言われている。


「等級が上がったって、まだバスターになって1週間だし、皆と変わらないよ」


「いや、すげえよ。そんなに順調な新人の話なんて、聞いた事なかった」


 シークもバルドルがいなければ、きっとゼスタが思っていたように細々と活動していただろう。ビアンカも、シークと出会わなければパーティーが決まるのをじっと待っていたかもしれない。


「なんか、シークは充実してるな」


 目の前の友人は魔術書がないハンデを克服し、別の仲間と順調な滑り出しを見せている。自分と同じようにくすぶっているはず……そう思っていたゼスタは自分が情けなく、ここに来た当初の目的も今更言い辛くなっていた。


「それで、ゼスタはこれからどうするんだ」


「えっと……」


「まさか、バスターを辞めるって言いに来た訳じゃないよな。どこか遠くの町に行くつもりとか」


「いや、その……ほ、本当は」


「本当は?」


 ゼスタはシークに促されて少し躊躇った。笑われるのではないか、呆れられるのではないか。シークがそんな人物でない事は分かっている。それでも、今のゼスタは完全に自信をなくしていた。


「その、シークがホワイト等級だからなんて思わないで欲しいんだけどさ」


「うん」


「お、俺とパーティーを、組んでくれないかって、言うつもりで」


「一緒に!?」


「あ~いや、シークは順調そうだし、今の時点でも差があり過ぎるからそれはもういいんだ」


 ゼスタは困ったように笑い、そろそろ町へ戻ると言って席を立つ。


 シークはそんなゼスタを不満に思っていた。一緒に組もうぜと言われたなら断る理由などない。以前とは変わってしまった友人の態度が悔しく、眉間に皺を寄せながら引き止めた。


「おいゼスタ。俺と旅するのは嫌?」


「え? そんなことねえよ、お前とだったら楽しいだろうし。けど俺……またパーティーで邪魔になるの嫌なんだ」


 ゼスタは自分が仲間より弱いという事に、トラウマを抱えてしまったようだ。シークは話だけでは分からない事が色々あったのだろうと理解を示しながらも、ゼスタを立ち直らせるために言葉を続けた。


「たった1週間だよ? たった1週間で追いつけないような差が出ると思う? 魔術書を買えない魔法使いが剣を使い始めて、1週間でゼスタを追い抜けると思う?」


「でも、実際に大きな差になっているんだよ」


「ってことは、俺が逆の立場だった時、ゼスタは俺を連れては行かないって事か」


「いや、そんなつもりじゃ」


「だってさ、そうじゃん。ゼスタは、俺がゼスタの事を弱くて戦力にならないと思ってるって、勝手に決めつけちゃってるじゃないか」


「そうじゃない! 俺だってこんなに卑屈になりたくはねえよ! でもよ、お前は実際表彰までされてホワイト等級に上がってるじゃないか! 俺は……1週間でゴブリンたった1匹だぞ」


 シークは、そういう事ではなくて、と言って深呼吸をし、もっと簡単に考えるように促す。


「どっちかが強かったらダメ、みんな均一じゃなきゃダメ、それじゃあ誰ともパーティーなんて組めないよ。ゼスタはどうしたいんだよ。どんなパーティーなら入れるんだよ」


「どういう……って、そりゃあ理想はみんなで活躍できるパーティーが、いい」


「ゼスタ」


「……何」


「あのね、俺のパーティーってさ、2人だけなんだよ。分かる? どっちとも必死にならないと死んじゃうんだよ。ゼスタが入ってもたった3人だよ? 5人のフルパーティーとは全然違う。活躍出来ずに見てるだけの時間なんてあると思うか?」


 2人では出来ない事も、3人なら出来る可能性が高くなる。シークとしても、どうせなら仲が良く、実力差もないゼスタが加入してくれるなら有難い。


 そもそも、職業校を留年せずに卒業出来る時点で優秀なのだ。ゼスタが気にするような、例えば足を引っ張るようなことはまずない。


「俺……俺が入って、歓迎してくれるのか」


「勿論歓迎するよ」


「シークのお人好しにあやかれば、君もホワイト等級なんてあっという間さ。僕が倒したいモンスターを横取りしないでくれるなら、僕も歓迎だね」


「力強い後押しをどうも、バルドル」


「どういたしまして。君を何とかして加入させたいと思っているシークの思いに免じて、そろそろ自信を失くそうと頑張るのは諦めてくれると嬉しいのだけれど」


「まあ、そういうこと。で、もう一度聞くけど、ゼスタはどうしたい?」

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