Magic sword-03
* * * * * * * * *
「ただいまー」
「あらシーク! お帰りなさい、出て行ったきり1週間も戻らないなんて」
「うん、ちょっと頑張り過ぎたかも」
「『お母さん』さん、どうもね」
「あっ、あ、そうよね、喋るんだったわね。えっと……バルドルさん? いらっしゃい」
シークがアスタ村の実家に戻ると、いつものように母親が出迎えてくれた。
平日の昼間に家にいるのは母親だけだ。父親は畑に、弟のチッキーは村の少年学校に行っている。台所の土間には土がついた根菜がいくつか置かれていた。
「お昼ご飯食べるんでしょ? 今日は泊まっていけるのよね?」
「あ、うん。そのつもりで帰ってきたんだ」
「まったく、町の施設のどこかなら電話くらいあるでしょ。村の役場に伝言でも入れてくれたら無事だと分かるのに」
「日中はずっと町の外にいるから連絡し損ねちゃって」
「危ない目に遭ってないでしょうね? パーティーは? 仲間の方も今日はお休みなの? 一緒に来てるなら呼んでいいのよ、ご飯くらい準備できるんだから」
母親からの質問攻めに返事するのが精いっぱいで、シークはなかなか自分の話を切り出すことが出来ない。シークの手には賞状の筒が2本、タイミングを見失って握られたままだ。
このような時、人ではないバルドルがいると心強い。
あまり人同士のしがらみを気にせず、空気を読まない発言をしても「剣だから仕方がない」が許されてしまう。
「あの~『お母さん』さん。もし喋り飽きる事があるなら、ちょっとシークの話を聞いて貰えると嬉しいのだけれど」
「バルドル、相変わらず他人に対して発言がストレート過ぎると思うよ」
「そう? 『他剣』に対してはそれ程でもないから心配しないで」
バルドルの澄ました返事にシークはため息をつく。一方、シークの母親は喋り過ぎだと言われたことに気付き、苦笑いしながら家事の手を止めてリビングのテーブルについた。
「何かしら、話って」
「あ、うん。えっと……実は賞状を貰っちゃって」
「あら、凄いわね。何かコンテストでもあったの? 駆けっこ? クイズ?」
「そんなチッキーが狙いそうなものじゃないよ。ギリングのバスター管理所と、リベラの町長さんからの感謝状」
管理所からという言葉にはピンと来なかったようだが、町長からの感謝状と聞いて母親は思わず立ち上がった。
「ええっ!? シーク凄いじゃない! 大変だわ、お父さんを呼んで来なくちゃ」
「いや、あの、どうせ夜に見せるし、俺、泊まるんだし……行っちゃった」
母親が慌てて畑へと父親を呼びに行く。シークはそれを呆然と見送るしか出来なかった。話も聞かず大慌てで畑に向かったとして、母親は一体何と説明するつもりだろうか。
「シーク、君の『お母さん』さんは話を予想以上に重く受け止めてくれるけれど、聞く才能はないみたいだね」
「そうだね、喋るのは好きみたいだよ。その喋りの実力は然程でもないけど」
「まだホワイト等級に昇格した事を伝えていないね」
「うん、そうだね」
「何故賞状を貰ったのかも言えなかったね」
「うん、そうだね。俺が置いていかれ過ぎてちょっと困るな」
シークはとりあえず着替えようと言って立ち上がり、バルドルを持って自室へと向かった。ベッドの上にバルドルを置き、自分は普段着に着替える。
魔法使いだからと今まで鍛えてもいなかったため、シークは毎日筋肉痛だ。時折「いてて……」といいつつ軽鎧を脱ぐと揃えて置き、目の前にある鏡で自身の姿を確認する。
自分でもなんとなくといった程度だが、シークはこの1週間で少し筋肉が付いたような気がした。特に腹筋がほんの少し割れ始めていて、胸や上腕も心なしか体型が違って見える。
全力で剣を振り、体を捻っては跳び上がり、全力で駆け抜けるという動作を毎日何時間も行っていれば、たった1週間でも変わるということだろう。
「ねえ、バルドル」
「なんだい、シーク」
「俺ってさ、バスターになってから体が引き締まったという気がしない?」
「そうだね、少し変わった」
「やっぱりそう思う?」
周囲のバスターは全員ライバルだ。その中に身を置いた自分が周囲からどう見られているのか。ひ弱に見られて舐められないか、ビアンカに釣り合うバスターになっているのか。
ホワイト等級らしい姿なのか。
今まで無頓着過ぎたシークは、ようやく他人の目を気にするようになった。
「体を鍛えたいのなら魔法の割合を減らして、僕を沢山使って攻撃してくれたらいいんだ。一石二鳥ってやつさ」
「ん? 二鳥って、俺の一鳥が何故か君の分になってる気がするけど」
シークがバルドルと話しながら着替え終えた頃、ようやく母親が家に戻ってきた。
母親に続いてもう1つ足音がする。大変だとだけ聞かされた父親も戻ってきたのだろうか。
いずれにしても、これでようやくこの1週間の出来事を1から話すことができる。シークはバルドルと笑いながら部屋の扉を開けた。
「おかえりなさい、まだ何も話してないうちから家を飛び出て行っちゃうんだから……って」
「シーク、お友達が来てくれたわよ」
母親の後ろから現れたのは父親ではなく、ゼスタだった。
ゼスタとは卒業式の日に別れたっきり会っていない。ゼスタがどうしているのか気になってはいたが、シークはまだ慌ただしい毎日を消化するのがやっとで、連絡を取る心の余裕がなかった。
「ゼスタ! よく俺が家に帰って来てるって分かったね」
「よう。あれ? 毎日は帰ってないのか」
「うん、普段はギリングの宿屋に泊まって、毎朝管理所でクエストを受けているよ」
「そっか。俺はてっきりに夜は家に帰っていると思ってたから、待ってたら帰ってくるものだと」
ゼスタもまたシークの近況を知らない。シークが金銭的に厳しい事は知っていたため、まさかギリングで寝泊まりしているとは思っていなかったようだ。
今日はゼスタのパーティーの休息日なのか、それとも旅の途中に寄ったのか。
シークはゼスタとの再会に喜びながらも、夜まで待つと言いながら軽鎧を着たままのゼスタをやや不思議に思っていた。
「わざわざ会いに来てくれたのか? 今日はパーティーは休み?」
「いや、それが……」
言い難そうにしているゼスタを見て、シークは何かあったのだと察した。シークの母親が「まあ、お座りなさい、2人とも」と着席を促すと、お互いが向かい合って座る。頭数に入れて貰えなかった1本はやや不満そうだ。
「僕もこの場に同席しても?」
「もちろんいいよ、バルドル」
「有難う。『お母さん』さんはどうかな」
「私は外で少しお話してもらったから、大丈夫よ」
「息子の話は聞かないのに、息子の友達の話は聞いてあげるのか」とバルドルがボソリと呟き、シークが軽く小突く。本当に痛いと思っているのか分からないバルドルの「痛い」が聞こえた後、ゼスタがぽつりと話しはじめた。
「お、……俺さ。伯父さんのパーティーを抜けたんだ」
「えっ? 伯父さんって確かパープル等級のベテランだよね? 心強いって言ってたのに」
「ああ、でも実際は戦ってる皆を見てるだけで攻撃させてもらえなくて」
ゼスタが攻撃に出ようとすると先に倒され、戦わせて貰えないのに心構えなどを毎度説教される。彼の1週間はシークとは正反対だった。
「もうバスターになって1週間だぞ? その間に俺が倒したモンスターはゴブリン1体だけだ。それも周りに誰もいない隙を突いてやっとだ」
「教えて貰ったりしなかったのか?」
「口ではしっかり鍛えてやると言いながら、倒す様子をただ見せられてるだけだった。お前は楽でいいななんて嫌味まで言われてさ」
「育てて貰うためだったはずなのに、それじゃあパーティーを組む意味がないじゃないか。説明なんて家でもできる」
シークは自分よりもゼスタの方が経験を積んでいると思っていた。ベテランに教えて貰える事を内心羨ましいと思っていたくらいだ。
「斬ることが出来ないなんてまるで拷問だね。僕はシークと話していたんだ、楽をするために頑張らなくちゃって」
「えっと……どうしてそんな発言に? そんな話だったっけ、バルドル」
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