第225話 鎮魂歌+禁忌(2)
「光!」
突き飛ばされた可憐が慌てて光の所へとかけ戻る。しかし、光がそれを阻止するように自力で起き上がった。
「大丈夫だよ、可憐。これくらい、今のぼくなら痛くも痒くもないからね」
光は右手を自身の傷口にそっと触れる。すると、指先から今まで以上にオレンジ色の魔力が溢れ、傷を癒した。
「光……そんなに魔力を使ったら……あなた!」
今までに無い魔力を見た可憐は、光の行動を阻止するように手を伸ばす。しかし、光はそれ以上の速さで治癒することにより、可憐の動きを止めた。
「ぼくにはもう時間が無い。だけど……今のぼくなら……大切な人を
傷が完全に癒えた光は可憐に向かって儚い笑みを見せる。何度も可憐に見せていた笑みだったが、今まで以上に儚く、そして、美しかった。
「時間が無いって……それに、その魔力……まさか……!」
光の儚い笑みを見た可憐は先程の言葉と契約違反を犯したジンの状態を思い出し、照らし合わせる。今まで以上に美しかったその笑みを見た可憐の心臓は経験の無い苦しみを覚えていた。
「ぼくは……この為に契約者になったからね」
光はそう言うと、再度美しすぎる儚い笑みを可憐に見せる。彼から大量に零れているオレンジ色の魔力が、その美しさを際立たせていた。
「その魔力……お前、契約違反をしたな」
光が今の状態になるきっかけとしての魔力を放った吹雪が口を開く。未だに無傷の彼は口角を上げながら二人を見ていた。
「だから何? 契約違反をしても、裁かれる前に君を倒せばいい事でしょ?」
大量の魔力を零しながら光は吹雪に挑戦的な笑みを浮かべる。その魔力の量は、吹雪の魔力を上回る量だった。
「それ以前に、契約違反の契約者と
吹雪はそう叫ぶと、光に向かって魔力を放つ。光はそれを挑戦的な笑みを浮かべながら魔力で壁を作ることにより受け止める。契約違反をした故の魔力で作られた壁は、吹雪の攻撃を簡単に相殺した。
「それは、四大天使であるぼくには通用しない言葉じゃないかな?」
光が吹雪に剣を向ける。それは今までに無い程の輝きを持った魔力を放っていた。純度の高い魔力を見た吹雪は、一度翼を大きく動かし、光と距離を置く。
「いくら契約違反って言っても、その魔力の量はおかしい。
吹雪はそう呟くと、視線を光の顔に向ける。吹雪の記憶に残る転生を知る前の四大天使。自分を倒そうと殺意を向ける彼らの一人と光の顔が重なった。
「似ているのは顔だけじゃ無いのかよ」
光に聞こえない程の声量で吹雪は言うと、そのまま契約違反の光に向かって魔力を放つ。しかし、それは光に当たる前に彼が放っていた魔力によって打ち消されていた。
「ぼくは……大切な人を
額から僅かに滴る汗。死人に対して違和感のあるそれは、光の体内にある魔力が限界である事を示していた。光は一瞬だけ振り向き、視線を吹雪から可憐に向ける。想い人と視線が交差した時、光は儚い笑みを浮かべた。
「さっきからどういう意味よ……」
光の言葉と儚い笑みが不一致で違和感を覚えている可憐。しかし、それ以上の質問は出来なかった。光の美しすぎる儚い笑みを見た可憐は誰のか分からない血が付着したスカートの裾を強く握りしめていた。
「可憐。ぼくは生前、君に会っていたんだ」
可憐の表情を見た光が口を開く。彼の言葉を聞いた可憐の目が見開いた。
「どういうこと……?!」
可憐が光に訊ねるが、吹雪が魔力を再度放つ事により遮られる。光はそれを再度魔力の壁を作り、防いでいた。
「世界線が違うのかな? 生前のぼくは日本で科学者として生きていたんだ。そして、かなりのリアリストだった……初めて会った可憐の時のようにね」
魔力の壁で吹雪の攻撃を防ぎながら光は淡々と話す。最大限以上の魔力で作られた壁は、吹雪の攻撃に対して傷一つ付く事は無かった。
「科学者……」
「うん。人の命に関わる薬とかを開発していたのかな? すっごい人格が歪んでいたと思うよ。でも、そんな時に可憐に出会ったんだ」
二人の会話が続く中、止まらない吹雪の攻撃。光はその一瞬をついて、魔力を吹雪に放った。美しすぎる輝きを放つオレンジ色の魔力。それが吹雪に直撃する。
「ぐはっ!」
今まで放っていた攻撃を止め、吹雪は魔力を使い、吐血を防ごうとする。しかし、光が再度魔力を放つ事により、その隙を与えなかった。
「冷たくするぼくに対して、可憐は凄く優しかった。実験でぼくが人から外れるような事をしようとしたら、止めてくれた」
儚い笑みを浮かべながら話す光。しかし、それは吹雪の叫び声と魔力によって、一度口を閉ざされた。
「喋る暇があるなら早く消えろよなぁ!」
吹雪が最大限の魔力を使い、光に攻撃をする。しかし、光は魔力の壁を作ったり、吹雪と似たような攻撃をする事により魔力を相殺し、自分と想い人に攻撃が当たらないようにしていた。
「そんな可憐にぼくは……ありがとうと言いたかったんだ。だけど、その頃には可憐はぼくの目の前から……消えていた」
儚い笑みと同時に見えるのが苦痛の表情。それが魔力を最大限以上に使っている痛みである事は光も見ている可憐にも充分に伝わっていた。しかし、光はその事を口にすること無く、先程の話を続ける。
「だから、ぼくは……こう契約したんだ。『可憐にもう一度会いたい』ってね」
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