第222話 鎮魂歌+最終戦(1)
「遅かったなぁ」
闇と毒を混ぜたような魔力の方へ視線を二人が向けると、そこには禍々しい色をした氷の玉座に足を組み、ふてぶてしく座る契約者の姿があった。
「南風君……いや、裏切りの大天使ルシフェル!」
光が玉座に座る吹雪に向かって大声を出す。彼の黒い瞳は僅かに赤みがかかっていたが、それに気づいていたのは吹雪だけだった。
「ガブリエル、お前に用は無ぇ。……可憐、今すぐオレと契約しろ。地獄長が全員
光に一瞬だけ視線を向けたが、言葉の後半と共に、吹雪は視線を光の隣にいる可憐へと移動させる。視線が重なった可憐はエメラルドグリーンの魔力を手に灯した。
「私は悪魔にはならないわ。私は……これ以上の悲劇を生まない為にあなたを……倒す!」
「……なら仕方ねぇ」
可憐の返事を聞いた吹雪は玉座から立ち上がる。そして、十二枚の黒い翼を大きく羽ばたかせた。
「オレとの契約以外の選択肢が無ぇ絶望を味わえ!」
吹雪が翼を大きく羽ばたかせ、羽根を可憐達に飛ばす。悪魔の魔力が込められたそれは、鋭利な刃物に近いものとなっていた。
「可憐、危ない!」
吹雪の攻撃にいの一番に反応した光がオレンジ色の魔力を使い、可憐を守るように壁を作る。吹雪の羽根が光の作った壁に当たり、そのまま消えるように床に落ちる。
「まだそんな余力があるんだなぁ」
自分の攻撃を防いだ光に向かって吹雪は見下すような視線と声色で話しかける。光はやや粗めの息遣いで吹雪を見ていた。
「好きな人を
赤みが混ざった黒い瞳で吹雪を睨みつける光。僅かに身体が震えているが、それは光の精神力で無理やり抑え込んでいた。
それを見ていた光に守られるような状態の可憐が光の腕にそっと、エメラルドグリーンに灯された右手を乗せた。
「光、無理はしないで。私だって、少しは役に立てるわ」
光の魔力を可憐が回復させる。それを見た光は、一瞬だけ儚い笑みを浮かべると、可憐の肩をそっと突き飛ばした。
「光!」
「ぼくは……大切な人を
オレンジ色の魔力を灯し、自身を治癒しながら可憐に微笑む光。その笑みは、今まで以上に儚く、美しいものだった。
「可憐に魔力を使わせねぇのは、オレも同意見だぁ」
二人のやり取りを見ていた吹雪が余裕の笑みを浮かべながら口を開く。未だに十二枚の黒い翼はバサバサと音を立てていた。
「器はなるべく綺麗な状態の方がいいからな」
吹雪はそう言うと、再度翼から羽根を使い攻撃する。吹雪の攻撃を見た光は魔力を右手に灯すと、それを可憐に優しく放つ。すると、それはシャボン玉のような形になり、可憐を優しく包み込んだ。
「光? 光!」
突然の出来事に可憐は閉じ込められた魔力に拳を当てる。しかし、それはビクともせずにいた。
「ごめんね、可憐。こんな頼りないぼくかもしれないけど、
光はそれだけ言うと、可憐に儚い笑みを見せ、彼女に背を向ける。そして、剣先を吹雪に向けた。
「大切な人を器とした見ていない南風君……ルシフェルの事ぼくは……大嫌いだ!」
言葉の後半、光の声量が最大になる。そして、オレンジ色の魔力を剣に灯す。赤みのかかった光の瞳は目の前にいる契約者を映していた。それを見た吹雪はまるで喜劇を見るような笑みを浮かべる。
「その目……。面白ぇ!」
吹雪が翼を動かし、光達の目の前に降り立つ。そして、魔力を使い、剣を生み出すと、光に向かって振り下ろした。光はそれを自身の剣で受け止めた。
「ぼくは……大切な人を失うのは二度とごめんだよ!」
吹雪の剣を受け止めながら睨みつける光。自分の記憶では無い他者の記憶に存在している目の前の悪魔に殺意を向けるが、自身の言葉に違和感を覚える。
「二度と……」
言葉の一部を繰り返し、確かめようとする光だが、その隙を与えないように吹雪が魔力の量を増やし、光の剣を包み込む。闇と毒を混ぜたようなその魔力は、光の動いていない心臓を苦しめた。
「くっ!」
「ガブリエル、今はオレを倒すのが最優先だろぉ?」
光の表情を見た吹雪が再度魔力を光の剣に込める。オレンジ色の魔力は徐々に吹雪の魔力へと染められていた。
「ぼくは……これくらいの事で負けないよ……。ぼくは……契約者でもあるけど、
光が持っている剣を強く握りしめる。それと同時に彼の体内にある魔力が手を伝い、剣に流れ込み、吹雪の魔力を相殺した。想像以上の魔力に、吹雪は一度光と距離をとる為に、翼を羽ばたかせる。
「まだそんな魔力が残ってるのかぁ。戦いも、治癒もそんなに出来ねぇガブリエルにしては上出来だぁ」
吹雪は魔力を再度剣に込める。今まで以上に闇と毒を混ぜたような魔力が剣に纏わされ、殺意が込められていた。
「だがなぁ、所詮、その身体は使い捨てだぁ。
吹雪はそう言うと一度だけ視線を可憐に移動させる。魔力を使い、彼女を見ると、人間であるどころか、契約者の素質がある以上の魔力が二色の輝きを放っていた。
「ラファエルが消えりゃぁ、オレは神を越えられる」
吹雪はそう二人に聞こえない声量で呟くと、十二枚の翼を大きく羽ばたかせる。そして、剣先を光に向けた。
「使い捨ての身体と一度も契約をしてねぇ身体。どっちが良いか、分かるだろぉ?」
必要以上に威嚇をするように魔力を放つ吹雪。それは、天使である光を苦しめるには充分なものだった。剣を地面に刺し、杖のように使う光。
「くっ……。ぼくは……負ける訳にはいかないんだ!」
杖代わりに使っていた剣を再度引き抜き、光は剣先を吹雪に向けた。しかし、荒い呼吸が立つことで精一杯だと訴えていた。
それを見ていた可憐は何度も魔力の壁を殴っていた。
「光! 魔力を回復するから! ここから出しなさいよ!」
光の魔力によって身動きがとれない可憐が魔力で出来た壁を精一杯殴りながら大声を出す。しかし、光は一瞬だけ視線を可憐に向けると、小さく首を横に振るしかしなかった。
「こんな時に意地を張るのはやめなさいよ……馬鹿……」
壁を殴るのを止め、可憐は弱々しく呟く。そのまま自身のスカートの裾を強く握りしめた。
「そんなオレが
二人のやり取りを見ていた吹雪が可憐に向かって右手を差し出す。契約しろ。そうジェスチャーで訴えているのは誰が見ても分かるものだった。可憐は再度スカートの裾を強く握りしめ、首を横に振る。
「なら派手に絶望させてやんよ!」
可憐の反応に吹雪は再度翼を大きく羽ばたかせ、両手に魔力を灯し、放つ。光が壁を作ろうとしたが、魔力の限界なのか、壁をつくる速さが間に合わず、二人に触れようとしていた。
その時だった。光と可憐のものでは無い天使の魔力が吹雪の魔力との間に入り込み、吹雪の魔力を相殺した。
「それなら、契約を知らない俺も居るなら、状況は変わるな」
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