第193話 鎮魂歌+蝿の王(3)
見たことのない大きさまで、巨大化した剣を見た皐月は、一度呼吸を整える。そして、猛の大剣が裁きの色である、ゴールドの魔力では無い事を確認すると、ゆっくりと口角を上げた。
「ほーん。随分物騒な武器持ってんじゃーん。だけど、ミカエルより火力があるウリエルが居ないからさー、オレを裁く前に、お前が死ぬ事だってありえるんだよー」
相変わらず浮かべている挑発的な笑み。それを見た猛は、一度小さなため息を着くと、六枚の白い翼を大きく羽ばたかせた。
「俺の最期は世界の最期だ。お前の言う、俺を殺すという事は、俺が契約をして、人間から肉体を借りなければ、生きていけない契約者へとなる事を意味するのか」
大剣を両手で構え、皐月を睨みつける猛。威嚇とも見える彼の表情だったが、皐月には一切効かず、猛を見下すような笑みを浮かべていた。
「まぁ、そんな感じー。オレたち悪魔も、お前たち天使も、完全に殺されるってのはないからねー。今の肉体を消すってのが、オレたちの言う殺すになるのかなー。お互いにさー、何度も生まれ変わって、見た目や性別が変わっても、結局はー、二千年以上前の天界戦争の続きをやってるだけじゃーん?」
皐月もまた、剣を構え、魔力を纏わせる。ジンとの戦い以上の魔力を剣に込めると、悪魔の魔力と同じ色をした剣へと変化した。
「それは……否定しない。神の代わりに人間を愛する存在として、俺たち契約者はうまれた……。しかし、気付いたらその人間を巻き込んで、戦争を続けている……!」
皐月の剣を見た猛が先に動き、距離を縮めた。大剣を
「でしょー? だからさー、可憐ねぇをサタン様と契約させてさー、サタン様が完全に復活してー、天界と地獄ってだけの問題にしよーよー」
頬の傷を軽く親指を使い血を拭うと、その指を舐める皐月。その間も猛は大剣を大きく薙ぎ払うような攻撃をする。自身の剣で受け止められる攻撃ではないと、判断している皐月は、虫の羽を使って器用に攻撃を避けていた。
「だから……俺は今回の戦いで、兄さん……サタンを完全に裁いてみせる……!」
両腕を上にあげ、猛は大剣を大きく振り落とした。その攻撃を皐月は魔力の壁を作り出し、防御する。壁が猛の攻撃に耐えている間に、皐月は猛と距離を置くように後ろへ移動した。
「ちぇー、話が噛み合わない奴だなー」
魔力の壁が完全に破壊され消えた頃、皐月は左手に魔力を込め、猛に放つ。猛はそれを、大剣を盾のように使い、防いだ。
「
一度だけだと思われた皐月の魔力攻撃。それが再度猛を襲った。同じように大剣を盾のように使い防ぐと、攻撃が止まった事を確認し、大剣を薙ぎ払うように大きく動かす。
「それを言われたら、何も言い返せないなー。って事は交渉決裂かー」
魔力を放つ攻撃を止め、皐月は両手で剣を構えた。弘孝と同じ紫色の瞳が猛を映す。皐月の言葉を聞いた猛は、一度深呼吸をすると、大剣を振り上げた。
「端からそんな交渉をされた覚えは……無い!」
大剣が大きく振り下ろされ、皐月を襲う。皐月はそれを反射的に避けたが、僅かに怯み、判断が鈍る。猛はそれを見逃さず、再度大剣を振り上げた。
しかし、皐月は瞬時に冷静さを取り戻すと、ゆっくりと口角を上げながら、猛の攻撃を避けた。
「相変わらず堅物だなー。そりゃそーかー。転生を一度も経験していない、唯一の契約者だもんなー。魔力の底がないような感じでさー、転生と契約を考えなくていいって、凄く楽そうだなー」
挑発するような口調で話す皐月。それを聞いた猛は、目を見開いた。一度深呼吸をし、大剣を強く握りしめる。
「永遠に近い時間を……仲間の死と転生を見届ける俺の気持ちを、そう安直に言うな!」
皐月との戦闘で一番の声量で叫ぶと、大剣にさらに魔力を纏わせた。そのまま大剣を力任せに大きく振り回す。威力は増したが、単調な攻撃は皐月に簡単に読まれ、当たることは無かった。
「あははー、怒ったー? ねぇー、ミカエルを転生まで追い込んだらさー、サタン様はどれだけ褒めてくれると思うー?」
攻撃が当たらない事で、冷静さを取り戻した猛は、一度翼を羽ばたかせ、皐月と距離を置く。闇雲に大剣を振るっていた為、呼吸が浅くなっていた。
「一番のお気に入りになる程度は、好かれるだろうな」
猛の言葉を聞いた皐月は、満足気な笑みを浮かべた。そのまま、剣を両手に握りしめると、意識を集中させ、魔力を剣に纏わせる。
「おっけー、ならー、本気で殺っちゃうよー!」
皐月が笑みを浮かべながら、剣を横に大きく振った。纏わせてある禍々しい魔力が、剣を振った勢いで猛の方へ飛ばされる。それがそのまま猛の六枚の翼を、一枚攻撃した。
「くそ……!」
悪魔の魔力が猛の翼の一枚に張り付く。そのまま翼を焼くようにまとわりつくと、猛は苦痛の表情を浮かべる。
「あの方のお役に立てるのは、このオレ、ベルゼブブ!」
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