第191話 鎮魂歌+蝿の王(1)
傷が完全に回復した手を使い、剣を振り上げる皐月。何度も振り上げて攻撃していたが、それを猛は全て自身の剣で受け止めていた。
「蝿の王! お前たちが求めているものでもある、磯崎の身体だぞ!」
二人の剣がぶつかり合う金属音の間に猛の声が響く。剣がぶつかり合い、互いに動きが取れない時に、ジンは皐月に向かって剣を振り下ろす。しかし、皐月はそれを魔力を纏った六枚の虫の羽で防いでいた。事前に魔力に纏われた皐月の羽は、ジンの攻撃で傷がつくことは無かった。
「別にー。仮に、可憐ねぇがこれで重症になったらさー、ガブリエルのせいじゃーん? 可憐ねぇが恨むかもしれないしー?」
皐月の桁違いの魔力が、重なり合う剣を通じて猛の体内に侵入した。悪魔の魔力であるそれは、猛の転生を知らない身体を貪る。動いていない偽りの心臓が、潰されるような息苦しさに襲われた。
「くそ……」
皐月の剣を押す力が弱まり、均衡していた状態から皐月が猛を力任せに押し返すような状態になる。
「それにさー、これで兄貴が助ける代わりにサタン様と契約しろって持ちかけたらさー、可憐ねぇはオレたちのものになるしー」
弱々しく呼吸をする猛を横目に、皐月は剣を構えた。そのまま大きく振り上げ、猛に向かって振り下ろした。しかし、二人の間にジンが割り込み、皐月の剣を受け止める。
「汚ぇやり方だな」
制帽の下から見下すように睨みつけるジン。そんな彼の視線に、皐月は挑戦的な笑みで返した。
ジンが皐月の気を逸らしている間に、猛はゆっくりと目を閉じ、意識を集中させた。体内に流れる皐月の魔力を自分の魔力で相殺しながら、負傷した内臓を最低限に回復させる。
「そうー?
悪魔らしい笑みを浮かべている皐月は、猛と同様に、ジンに向かって剣を通じて魔力を流し込んだ。しかし、それを瞬時に察したジンは、重なり合う剣を離し、皐月と距離をとる。
「ンなの
ルビーレッドの魔力を炎のように剣に纏わせ、片手で雑に
羽から伝わる冷たさに、皐月は視線を自身の羽へと向けた。現状を確認するかのように凍った部分を見ると、視線をジンに移し、舌打ちをした。
「あー……やっぱ、オレ、お前の事、殺してー」
静かに語る皐月だったが、その言葉には、今まで以上の殺意が込められていた。六枚の虫の羽を激しく動かし、威嚇する。そのまま一度離れていたジンに一気に近付き、剣を振り上げた。
「オレも悪魔だからって以上に、オマエの事、すっげー殺してぇ。その目、モロクにソックリなんだよな」
皐月の攻撃を両手で構えていた剣で受け止めるジン。あまりにも勢いのある皐月の攻撃に、ジンの制帽が頭から離れ、氷の世界へと落下していった。右頬の傷痕が皐月の視界に入った。
「兄貴と同じにするなよなー!」
弘孝と比較され、制御出来ないほどの怒りに襲われた皐月は、最大限の魔力を剣に纏わせた。ジンを切れ長の目で睨みつけ、ジンの剣に魔力を流し込む。しかし、ジンはそれを事前に察知し、皐月と同じように剣に魔力を纏わせ、相殺させる。
「お前もオレと同じで、一回やられたら、自力で回復出来ないだろー? だったらさー、先に
皐月の魔力に合わせるように、ルビーレッドの魔力の量を調整するジン。しかし、皐月はそれを無視するように、更に魔力の量を増やした。弘孝から溢れ出る魔力よりも多くなった皐月の魔力は、サタンである吹雪の魔力と同程度かそれ以上まで増えていた。
「それでも、ンなバカみてぇに魔力使うわけねぇだろ!」
皐月の魔力の量に合わせて、自身の魔力を増やすジン。若干無理をして放っているルビーレッドの魔力は、ジンの額に汗を滲ませた。
そんな彼を睨みつけながら、皐月はジンの体内に魔力を流し込めるように剣に意識を集中させる。すると、全身から溢れ出ていた大量の魔力が、皐月の剣に集まった。闇と毒を混ぜたような色をした魔力により、剣の色もそれと同じ色になる。そのまま、ジンのルビーレッドの魔力を食い尽くすように侵食した。
「くそっ……! やっぱタンジュンな魔力の強さだけで言うなら、サタン以上だぜ……!」
ジンもまた、自分の体内にある魔力を最大限剣に集中させ、皐月の魔力を相殺させる。短時間で大量の魔力を消費した為、額の汗とは別に、呼吸も急激に浅くなる。
そのままジンは、一度呼吸を止めて、両手に力を集中させた。魔力とは別に、腕力で皐月の攻撃を押し返す。流石に腕力での勝負は、Eランクで生きていたジンの方が上手であり、皐月は簡単に弾き返された。
魔力を剣に集中させていた為、受け身を取ることを忘れ、皐月はそのまま数メートル飛ばされた。ジンにより、一部凍っている六枚の虫の羽では上手くコントロールが効かず、空中で止まることは至難の業だった。
無傷の残りの羽を最大限に使い、やっと停止した時、皐月はふとジンの顔を見た。頬にあるバツ印のような傷痕。黒い切れ長な目。手入れをされていない無造作な髪。自分も似ているところは何一つ無かったが、皐月の脳内では、ある結論に至った。ゆっくり口角を上げながら皐月は口を開いた。
「あー……わかったー。これ、同族嫌悪ってやつだー」
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