第27話 塵街+合流
彼の言葉と同時に、可憐の喉に巻かれた魔力が光りとなって消えた。それを確認した可憐は涙を走らせた。
「弘孝!」
考えるより先に体が勝手に動き、可憐は弘孝に抱き着いた。弘孝もそれに応えるように可憐を抱きしめる。
「本当に可憐なのか?」
「ちょっとどういう事だよ! レンは実は女でリーダーと知り合い!? え!?」
事を把握出来ないジンは説明を弘孝に求めたが、弘孝は可憐の事で頭がいっぱいで説明をする余裕が無かった。
「ええ、私よ。磯崎可憐。会いたかった……」
涙を流しながら弘孝との再会を喜ぶ可憐に、弘孝も歓喜につつまれ、更にきつく抱きしめる。
「その声、口調、温もり。確かに可憐だ。嗚呼……。五年ぶりだが何も変わってないな……」
その時、扉が勢いよく開いた。
「可憐!」
扉を開けたのは光だった。その後ろには猛と二人の少女。この四名には、弘孝と可憐が逢い引きをしているようにしか見えなかった。光は慌ててそのまま部屋に入る。
「可憐には指一本触れさせない。たとえそれが、未来のウリエルでもね」
光の右手に魔力が込められた。あまりにも殺意のこもった魔力に猛は目を見開いた。
「光!」
猛の叫び声。それにより可憐と弘孝はジン以外の人物が部屋に侵入してきた事を知った。
「光? 一色君?」
光の姿を見た可憐は弘孝から離れ、ベッドから立ち上がった。その動作があまりにも自然すぎて、弘孝はそれを受け入れるまで数秒時間がかかった。
「可憐! 大丈夫? 何かされた? どこも怪我してない?」
可憐が振り向いた事により、込めていた魔力を消す光。そのまま過保護な母親のように可憐の元へ駆け付け、可憐の体を撫でるように確認する。
「大丈夫」
微笑する可憐。その表情に光は安堵の息を漏らし、そのまま可憐を抱きしめた。その光景に冷たい視線を送る弘孝。
「可憐。誰だ? そのペテン師面した男は」
可憐が初めて聞いた声よりも低い声色で尋ねる弘孝。その言葉に猛は思わず吹き出した。
「はっ。お前はやはり人間に好まれない
猛の言動に唇を尖らせる光。未だに可憐を離さないその手に弘孝は立ち上がり、振り払った。目を見開く光。
「弘孝君?」
光の呟きに今度は弘孝が目を見開いた。
「なぜ僕の名を知っている」
突如弘孝の周りから魔力が放たれる。可憐以外に魔力を使える人間がいるのに可憐は驚いた。しかし、それは弘孝が意図的に出しているものでは無いので、威嚇程度の威力しか無かった。そんな弘孝に光も魔力を放って返した。
「うん。悪くない魔力だね。でも、君は使い方を間違っている。魔力はこうやって使うんだよ」
光が放った魔力が倍増し、可憐や猛以外の人間にも分かるくらいの威圧感が弘孝を襲った。顔を歪める弘孝。数秒後、光の魔力に耐えられなくなり弘孝は放っていた魔力を閉ざし、膝を床についた。
「リーダー!」
猛の後ろにいた少女が叫んだ。ジンが弘孝に駆け付ける。
「てめぇ! 何しやがった!」
光を睨みつけるジン。光はそれを張り付いた笑顔で受け止める。
「魔力の使い方が間違っていたから、正しただけだよ。大丈夫。殺したりはしないよ。彼はぼくたちが求めてきた人物だからね」
「マリョク? さっきから何を言ってるんだこいつは。」
さらに疑わしい視線を三人に送るジン。二人の少女は光に怯えるように震えていた。
「へぇ。魔力っていうのか。この力は。これは、お前たちのランクの住民は全員使えるのか?」
弘孝が立ち上がった。心配そうに右手を差し出すジン。それを借りて、弘孝は光と視線を合わせた。
「違うよ。これは契約者と契約者になれる人間だけが使える神から与えられた力さ」
光の言葉に猛と可憐以外の人間は全員失笑した。
「はっ。契約者? 神? 上のランクの人間はそんな陳腐な妄想をする余裕まであるんだな。僕たちがそんな言葉に騙されると思っているのか? 馬鹿にしてんじゃねぇ!」
弘孝の右手が光の胸倉をとった。それに対して、光は抵抗しなかった。
「馬鹿になんかしてないよ。むしろ、ぼくは君を尊敬しているんだ。仲間の為に常にここに現れる人間を警戒しているんだね。君の魔力に触れて君の事がわかったんだ。だから、君の質問には全て偽り無く答える。約束するよ」
光は真っすぐ弘孝を見つめた。彼の瞳に映った自分を見た弘孝はそのままゆっくりと手を離した。
「魔力って言ったよな。僕がこの力を手にした理由と契約者について、全て話して欲しい。ただし、条件がある。この事を僕の仲間全員に話す事。それと、可憐の口から話す事」
弘孝の言葉に部屋にいる全員の視線が可憐に移った。
「私?」
首を傾げる可憐に頷く弘孝。
「ああ。あいつらの言葉より、可憐の言葉ならどんな事実でも信じられるような気がするんだ」
可憐を真っすぐ見つめる弘孝。可憐は頷いた。
「分かった。でも、少し時間を頂戴。二分ほど」
可憐の言葉に了解と答える弘孝。それを境に可憐は光の手をとった。
「光、一色君。ちょっといいかしら?」
可憐の声に反応し、彼女の所へ歩み寄る二人。光の頬に可憐はそっと触れた。突然の行動に光は、立ち尽くす。と、次の瞬間、頬を叩く渇いた音が当事者以外の耳を支配した。その数秒後にはもう一度、同じ音が今度は猛の頬からした。
「あなたたち、最低! あんな簡単に人の命を奪って。おまけに死体の上を平気で歩くなんて、神経疑うわ! 特に光。あなたは私の喉を束縛した。理由を教えて」
頬を打たれた光と猛は、ただ目の前で涙を流しながら自分たちを叱る少女を見ていた。
「可憐……。ゴメン。君の意見は確かに正しい。ぼくは君が傷つかないよう最善を尽くしたつもりだった。その為には、ぼくたちの力を、このランクの人間に知らしめる必要がある。暴力が人を支配する。これがこの世界の常識なんだ。分かって欲しい。喉を縛ったのは君が悲しむ声を聞きたくなかったから。そして、その魔力が消える条件は、弘孝君が可憐を可憐だと認識する事。その前に声で性別がばれたら君の努力が無駄になると思ったんだ。自分勝手だったね、ぼくは」
光の目尻には涙があった。彼らの態度に可憐は自分の無知を知った。
「仮に、お前が言った通り、全員を生かしていたとする。すると、敵は更に増え、尾行する奴だっていたかもしれない。そうしたら、こいつらの命も危なかったんだぞ。磯崎」
猛も光の言葉に説明を付け足すように言った。二人の頬の腫れは引いていた。
「……。二人の言い分は正しい。この世界では生きるか死ぬかの二択しかない。話しからしても、殺すのが最善の手段だ。可憐の気持ちも分かるが、これが現実なんだ。このランクには、殺人や窃盗、強姦といった罪はないんだ」
三人の中に弘孝が割って入った。彼の真っすぐな瞳に可憐も三人の言葉を素直に受け止めた。
「……。ごめんなさい」
可憐はそれ以上は何も言えなかった。言葉の代わりに出てきたのは彼女の涙だった。服の裾を握りしめる可憐。握られた裾は既にシワだらけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます