第9話 甘+苦
放課後の帰り道、光と猛は喫茶店で飲食を楽しんでいた。人間と同じ肉体を持っていない二人にとって魔力で仮の肉体を維持しているので、食事は不必要なものだったが、娯楽としてや人間に溶け込みやすくする為に食べ物や飲み物を口にすることは何度かあった。
種類の違う美形の二人が優雅に飲食をしているので、通り過ぎる女子はみな、二人を見ていた。
「可憐、大丈夫かな」
ため息をする光。猛は飲んでいたコーヒーを皿に置いた。
「今下手に俺たちが磯崎に近付いたら、南風が動くだろう。今は沖田や七部海に任せるしかない」
豆からこだわったコーヒーは猛の好みの味だった。
一方光は、苺の乗った可愛らしいパフェを口にしていた。
「猛君は七部海さんを信用しているの?」
生クリームがついた細長いスプーンを一度パフェに刺して光は猛を見た。
「あの磯崎が心を許しかけている人間だぞ。信用するも何も俺たちが近付けない以上、あいつに頼るしか—」
「猛君の魔法が効かなかったっていう事実があっても?」
光が猛の話を中断し、パフェに刺していたスプーンにピンク色の生クリームを乗せ、口にした。ほのかに香る苺の匂いは光を満足させた。
「七部海だったのか……」
猛はそこまで言うと、コーヒーを一口飲んだ。
「クラス全員にあの魔法をかけるとなると、やはり手応えを感じる。しかし、今回は磯崎や沖田を除いたとしても、クラス全員とまではいかなかった。という事は、七部海は悪魔か?」
猛の問いに光は首を動かさなかった。
生クリームを食べ終えた光はコーンフレークとバニラアイスを混ぜた。
「ぼくでも分からないんだ。ぼくが事実上、南風君と初めて会った時、猛君の魔法は彼女に効いていなかった。でも、それは可憐の近くいたから可憐の魔力が七部海さんへの魔法を邪魔した可能性もある。
天使になる才能があるなら、猛君が既に気付いているはずだろ?逆に悪魔だったら、悪魔独特の禍々しい魔力が身体から溢れるはずだよ。彼女にはそれが無かった。単なる偶然かもしれないし、悪魔でも下級悪魔なら可憐といたら、可憐の魔力で消えてしまう。だからぼくは何とも言えないんだ」
コーンフレークが混ざったアイスを溶けないように気をつけながら食べる光。真冬にアイスを食べる彼を見たら、猛自身は寒気を覚え、慌ててコーヒーを飲んだ。
「使役獣を使うか?」
猛の視界の先には猫が昼寝をしていた。その猫に向かって猛は魔力を生み出す。しかし、光が首を横に振ったので、猛の魔力は消えた。
「もしも彼女が人間だったらどうするの?ぼくたちの事情を知ったら逆に悪魔が立ち入りやすくなる。沖田さんは状況が状況だったから例外として、天使になる確率が無い人間には教えない規則じゃないかな」
アイスを食べ終わり、底に溜まっている苺ジャムを口にする光。猛はコーヒーのおかわりをウエイターに頼み、二杯目のコーヒーを飲んだ。
「ウリエルがいない今は天使を裁くのは君じゃないかミカエル。自分を裁くのかい?」
スプーンの先を猛に向ける光。猛は無表情でコーヒーを飲んでいた。
「俺はもう、仲間を裁きたくない。もちろん自分もだ。ウリエルには無理をさせていたな。今ヤツの立場になって理解した。コキュートスの番人も。あそこは堕ちた仲間が閉じ込められた地獄。堕落した天使ほど醜いものは無い」
猛の言葉に光は何も言えず、猛に向けていたスプーンを食べ終えたパフェの器に入れた。
「ウリエルが俺に裁かれたのはもう二千年以上前の話しだ。あの日を境に契約違反の天使が次々に現れた。あの時に悪魔と戦争をしたら俺たちは確実に負けていた」
無意識にため息をする猛。数秒間思い出に浸ったら、自分を思い出し、再びコーヒーを口にした。
「お前も、ラファエルを失って辛かったよな。すまない、過去の話しをしてしまった」
ラファエルという名前を光が耳にしたとき、ふと可憐の笑顔が光の脳裏を横切ったが、光はそれを振り払った。
「謝るなんてミカエルらしくないよ。いつもの強気で短気で単細胞な君はどこにいったの?」
猛は光を思いっきり睨みつけた。残っていたコーヒーを一気に飲み干し、立ち上がった。
「短気な単細胞で悪かったな。いつか絶対に、しばく」
口元に笑みを浮かべる猛に光は、それでこそぼくの知っている君だよと言い、立ち上がった。
「でもな、光」
振り返る猛に光は疑問符を浮かべ、立ち止まった。その隙に猛は光の頬を指先で触れた。触れられたら指先には生クリームがついていった。それを口にする猛。
「少しは面に気をつけて話せよな」
甘過ぎと付け足し、歩き出す猛。光は触れられた頬をゴシゴシと擦ってから猛の後を追った。
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