第5話 契約+条件
優美の不意な言葉に可憐の目が少し見開いた。しかし残りの二人は動じず、光は首を横に振った。
「残念だけど沖田さんはぼくたちと契約は出来ない。君から出る魔力では天使になった時、魔力の制御が出来ない可能性があるからね」
本当に申し訳無さそうに光は優美に対して頭を下げた。
「そうなんだ。あたしじゃ役不足って事ねっ。残念だな」
言葉とは逆に笑う優美。
「優美、あなたまでも頭おかしくなったの? ペテン師の言葉を素直に受け入れちゃ駄目」
可憐は優美の手を握りしめた。手袋越しにだが、お互いの温もりを微かに感じた。
「そんなに心配しなくて大丈夫だよ、可憐。あたしは、ただ二人の話しが本当なら、あたしが契約して可憐を少しはユーモアある人間にしようと好奇心で思っただけなんだからねっ」
可憐に笑顔を向ける優美。握られた手を強く優美は握り返した。
「あたしは可憐の傍にずっといるよ。何があってもね」
優美の言葉に可憐は安堵し微笑んだ。
「ありがとう」
先ほどよりも二人の温もりが伝わったような気がした。
光が指先にオレンジ色の光りを放った。その光りを光は自分と猛の目元にさっと塗った。
「見えるかい? 猛君。六枚の翼」
頷く猛。二人の視線は可憐にあった。
「エメラルドグリーンの光線。間違いないな」
冬の冷たい風が四人の頬を撫でた。そっと可憐の傍に小さな竜巻が現れる。
「彼女の周辺で風が彼女の意思に応えようとしている。癒やしの大天使、ラファエルである事の証拠だよ」
光が目元に塗った光りが消えた。これにより猛に見えていた可憐に生える六枚の翼は見えなくなった。
「でもおかしいんだ。微かだけど可憐の周りにルビーレッドの光線と炎が見えた。ぼくの魔力を少し分けた猛君には見えなかったと思うけど、もしかしたら彼女は大天使ウリエルの面影も持っているかもしれないんだ」
光は再び指先に光りを放ち、少量を可憐の首筋に浴びさせた。猛も同じく指先に光りを作り出し可憐の首筋に浴びさせた。可憐はその事に気付かず優美との友情を育んでいた。
「愛のガブリエルにしては少々野蛮な方法だな」
笑う猛に光も同じ笑顔を猛に見せた。
「普段から野蛮なミカエルには言われたくないよ」
わざとらしくため息をする猛。
「というかお前、敬語使えよ。俺が一応大天使の長なんだからな」
「光明光と一色猛は同級生だよ。それにぼくら、四大天使なんだから立場は同じだよ。ぼくは智天使でもあるしね」
猛のため息はさらにわざとらしくなった。
「ルシフェルを倒したのは俺というのを忘れるなよ。神の使者」
猛たちの会話は可憐たちの耳には入らなかった。光は優美に笑顔を見せる可憐を見ていた。可憐の視界にはもう光と猛の姿は無かった。
「でも不思議だな。この時間枠は今までで一番しっくりするんだ。契約違反で天使の数が減ればぼくたちが動くけど、今まで色んな時間枠に移動したよね。もしかしたらこの時間がぼくが転生する前に生きていた時代に一番近いのかもね」
遠い目をする光。猛は無表情だった。
「最近は契約出来るほどの魂を持った人間が少なくなっている。違反者が出るのは仕方ないが数を元に戻すのが大変なんだからな。お前も、記憶が戻ったら例外じゃない。流石に俺でも同士を裁くのは心が痛む」
猛と光は可憐たちに背を向けた。数秒後、翼が生えた二人が大空に羽ばたいた。
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