第16話 巨獣上陸
マルチホバーは夜の空港から飛び立つと、川に沿ってゆっくり飛行を始めた。
「そういうわけでね、実はルドガーさあ、この惑星トレドの全面積の九十七パーセントは何らかの自然保護地域になっている。開発惑星なのに、人類がまったく自由に開拓できる土地が非常に限られている。まあ、それだけ貴重な自然に恵まれているわけだけどね。それに大統領の政策の一つでもあるんだけど、動物にも縄張りがあるように、人間にも適正な生息数があるはずだと言うんだ。村の人口は適正値がおよそ決められていて、そこを大きく増減しないように調整されている。地球では無計画に人口を増やしすぎた。だから環境も破壊され、さらに資源や食糧も人口増加に追い付かず、戦争の原因にもなるんだとね。そして産業の柱は、この雄大な自然を見てまわる観光業、ここでしか取れない貴重な薬草などを使った製薬、サプリメントなどの産業だ。あと農業も最初は食べるための農業だったのが、ここにしかない品種の作物やここで生まれた新品種、加工品にシフトしてきている。最近では神のワインを筆頭に、トレドの特産物が、かなり高価に取引されるようになってきたのさ」
「へぇー、じゃあいくつか都市のあるこのタイガウォナスのあたりは逆に貴重な人類の生息地域ってわけだ」
「そうだね、この流域はこのトレドに在る十七の開発地域の中でもまあ、大きい方だね。まあでも、巨獣の上陸が観察されているのもこの流域だけなんだよ」
その時、発信機の警報が鳴り、GPSと連動して詳細な分析画面が表示された。
「タイガウォナスの中流を三体の目標物が遡上中、あと5分で遭遇します」
分析コンピュータの声が響く。データによれば、日照りや渇水期で上流からの土砂が減少する時期に水中の栄養分やミネラルの濃度が下がり、特に上流のコロナ黒色層というミネラルたっぷりの土砂を求めて、トレドサンゴを背負った巨獣たちが川をさかのぼりさらに上陸してくる現象だというのが森川博士の説だ。
さらに水温が高い夏の時期に夜間なら満月か新月の日に日中ならどんよりした曇りの日に多いということも紹介されていた。今夜はトレドの月ホルセアが見事に輝く満月の夜だ。どうやら当たっているらしい。マルチホバーが徐々にスピードと高度を落とし、雄大に流れる水面へと近づいて行く。
「ルドガー、目視でも何となく見えるぞ。やはり背中のトレドサンゴが目立つからなあ」
「現在水深2.5メートルぐらいのところを移動中か、思っていたより速度が速いなあ。あの海底でじっとしていたカニタイプのやつだよなあ」
甲羅の長さだけで3メートル近くあり、足やハサミをいれると6メートルほどにもなる怪物だ。それが3体、意外と高速で川を並んで遡っているのだ。今晩はまだ傷つけずに撃退する専用の機材が間に合わず、追跡・観察飲みである。どのような場所をどのようにして街に近づいてくるのかいろいろなセンサーで行動を分析するのだ。
「あれ、速度が落ちたぞ…ホバーの速度をもっと落とすんだ」
なるほど速度が落ちるわけである、そこにはここ何年かで作られた二つのダムのうち、その下流側に在る農業用のダムがそびえていたのだ。巨ガニたちはどこかに上流につながる流れがないかとそれぞれに動き回っていた。彼らの求めている、ミネラルや栄養が豊富なコロナ黒色層はもっと上流に行かなければ見つけられない。やがて、巨ガニたちはダムの下の水底でじーっとうごかなくなった。
ここからあきらめて海に帰ってくれればよいのだが…。
2人はレイモンド長官に連絡を撮り、今晩は引き揚げることとし、月夜の空をゆっくり帰って行ったのだった。
翌朝2人は、川の河口近くにある多島海の基地で目を覚ました。巨獣を追い払うための機材は今日の午後ぐらいには用意が終わると言う。昨晩のカニは未だダムの下の水底で動かないようでしばらくは待機ということになった。2人で基地内のカフェで朝食をとっていると何か音がした。
「あれ、珍しいなあ、セシルからメールだ。どうしたのかな…」
軍部専用の携帯に軍部の通信網でセシルのメールが入っていた。
「そうか、巨獣接近のことがもうネットに出ていたのか…俺たちが担当だから心配になったらしい」
もちろん詳しいことはむやみに教えられない。するとライアンがルドガーにことづけた。
「2人とも生きてるよって伝えてよ。それから今朝のハムサンドはハムが分厚くて最高だってね」
「ああ、あとトレドオレンジのオーガニックジュースは最高だって付け加えておくさ」
その頃セシルは、すでに朝ごはんを終えて、寮の自室で出発の用意をしていた。
「あら、珍しい、すぐにルドガーから返信がくるなんて…」
すると2人とも元気で朝食がおいしいらしくそれを読んでセシルは、ほっとした。
「よかったわ。さあて今日も気合い入れて頑張らなきゃ」
セシルは顔をパンパンとたたき、気合いを入れて立ち上がった。もちろんいつもはこんなことはしない。そう、今日はまた、森の劇場で、苦手なミュージカルの全体練習が始まる日なのだ。
劇場に着くと、ルビー組だけでなく、トパーズ組やエメラルド組ももうみんな、練習用のメガネを用意して集まってきていた。今度のメモリーには、楽譜や歌詞だけでなく、細かい脚本まですべて記憶されていて、やろうと思えば、片目に楽譜、片目に脚本なんてことも可能だ。なにかメモしたいことがあれば脚本のその部分に視線を合わせてセットし、そこでインカムにコメントをしゃべれば、赤線が引かれた上コメントも文字化されて書き込まれる。また今度の劇は激しいアクションのある役者もいるので、その場合にはメガネではなく、そのための特製のインカム付きのアクションゴーグルも用意されている。
セシルは合唱隊と兵士4の端役ではあったが、曲や台詞が覚えられるのか自信がなくドキドキしていた。主役の人たちも緊張しているのかと探すと、驚いた。姫役のアンナ・フィッシャーはメガネもゴーグルもせず、もちろん楽譜も脚本も持っていない。ってことはもう曲も主役の長いセリフももう頭に入っているということ? 新入生でもあの美声のアデルもメガネもゴーグルもつけていない。もう、みんなそんなに練習してるのかしら…セシルはまたちょっと心細くなった。
「そうだ、サチホはどうなのかしら…。あの子はなんていうかマイペースだから、あんまり緊張はしないのかなあ。いや、でも、まさか脚本や楽譜を全部覚えるなんてことはないわよねえ…」
あれ、なぜだろう、きょろきょろ見渡してもサチホがいないのだ。おかしい、さっきまで寮で元気そうにしていたのに…?
合唱の練習が始まって曲を5、6曲練習するがそれでもまだどこにもいない。少しするとあのハンサムな指揮者チャールズ・デイビスが、舞台にやってきた。別の場所で合唱団とは別の練習をしていたらしい。セシルはまたドキドキしてくる自分に驚いた。ルドガーとは昔からの強い絆で結ばれ、付き合ったことはないが、いつも気になる相手ではある。あのダイノダイスで銃撃戦をやった時も阿吽の呼吸と言うか、打ち合わせなしでも連携プレーがスムーズに行える。もたつくことがなくルドガーとならば、突っ走れる。実に爽快だ。でもチャールズ・デイビスを見ると、やっぱりドキドキする。
「ルドガーみたいな一体感とか爽快感は一緒にいてもないんだけど…なぜか胸が苦しいような…」
サチホの姿が見えないまま前半の練習は終わり、いよいよ休憩の後、後半だ。合唱団は休憩時間となるが、主役級の歌劇団員たちは、衣装の用意があるとかでいったん移動していく。実はここで思いがけない展開が待っていたのだ。
その頃、ライアンとルドガーにも、再度出撃命令が出ていた。あの巨が身につけた発信機が動き出したというのだ。
レイモンド長官と打ち合わせをしている最中に警報が鳴り始めた。
「ついに上陸ですか? はい、すぐ出撃します」
「…説明したとおり、新しい撃退装置が積載されている。どの程度の効果があるのか未知数だ。だが、保護動物でもあるので、武力による排除は極力避けたい。もしその必要がある場合は、決断する前に私に報告してくれ」
「了解!」
新しい装備を積み込んだマルチホバーですぐ現場に駆け付ける。高度を下げながら近付く。
「おお、たいした騒ぎだぞ?」
3体の巨ガニが、ダムの脇から上陸し、クリスタルウォールの街へとなだれ込んだのだ。
「やつら、コロナ黒色層とか言う上流の土砂が目当てなんだろう? 何で街の方向に進んで行くんだ?」
「わからん、まあルドガー、とにかくやつらの進撃を止めなきゃ!」
なぜか巨ガニたちはもうすでに農地や果樹園に入り込み、それを止めようとするかかしロイドやガードドローンと戦っていた。あの親しみやすいかかしロイドが5台、ドローンが3機ほどなんとか農地を荒らされまいと戦っていた。
だが、かかしロイドやドローンの武器は催涙ガスと電気ショック、必殺技が麻酔弾なので、全身が分厚いとげとげの甲羅に覆われた巨ガニには歯がたちそうにない。それに上陸したところを近付いて見れば、やはり大きい、甲羅の長さだけで3メートル以上あり、びっしりと頑丈なトレドサンゴがついている。その電信柱のような太い脚や腕を広げれば6メートルほどにもなり、ものすごいパワーを感じさせる。
「ライアン、あの背中のトレドサンゴは水中にいなくて平気なのかい?」
「トレドサンゴの種類にもよるが、今日みたいな曇りの日は、1時間ほどの上陸の記録があるそうだ…。トレドサンゴはあの堅い外骨格の内側にたっぷり水分を蓄えてあるんだとさ」
巨ガニの右手は巨大なハサミになっており、左手は突き刺す二本のフォークのようになっている。1台のかかしロイドがハサミで持ち上げられ、投げ飛ばされ、さらにもう1台のかかしロイドがフォークで突き刺されて火花を散らす。
「よし、新開発の撃退装置第一弾、発射!」
マルチホバーから、小さなカプセルのようなものが打ち出された。果樹園に入り込んだ巨ガニの前だ。するとカプセルは地上に落ちた途端カパッとふたが開き、中からキーンとなるような超音波が鳴り響いた。深海のカニの嫌う波長だと言う。だがここは地上、空気中では効果が出ないのか、一瞬びくっと反応はあったものの巨ガニたちの進撃は止まらなかった。その間にも3体の巨ガニはどんどん進んでいく。歩くだけでビニールハウスがドンドン引きちぎられ、押しつぶされて壊されていく。果樹園の木々がめりめりと倒れて行く。
「よし、次だ、第二弾発射」
今度は空中にとまったマルチホバーから、新しいドローンが発射された。ドローンは、畑を突き進む1匹の巨ガニの正面に回り込んだ。
「よし、今だ!」
その瞬間、ドローンから水しぶきをあげて液体状のものが発射された。
「ギュルルルプシュー!」
巨ガニは明らかに嫌がって後退した。それは非常に苦い、嫌な匂いのする液体だった。人体には無害で、嫌な匂いも乾けばすぐに消えてしまうのだが、かなり強烈らしく、巨ガニにも確かな反応があった。
「いけそうだね。でもドローンに積載してある液体は約二十回分だ、効率よく使わないと、球切れになる」
ライアンはマルチホバーの操縦と液体の発射をルドガーとうまく分担しながら、3匹の巨ガニを少しずつ少しずつダムの下へと追い詰めていった。
だがその時、空中に停止したマルチホバーをこっそり見上げるあやしい影があった。あのムンディーズの戦闘アンドロイドm6号だった。
「ふふ、こりゃ絶好のチャンスなり」
そしてバックルの中から何かを取り出したのだった。
ライアンたちは、ついにダムのすぐ下まで巨ガニたちを追い詰めた。
「ああ、もう少しなのに、そろそろ球切れが近いぞ…」
ルドガーがつぶやいた。ついに3匹のうち2匹の巨ガニがゆっくりとダムの下の水の中に入り始めた。だが一番大きな1匹が、まだまだ抵抗を示し、隙あらば農園や果樹園の方に戻ろうとしているようだった。
「なんで、南の海の底にいるカニが農園に行きたがるんだ?」
ライアンはその黒々とした豊かな土に様々な作物が栽培されている美しい風景をもう一度眺めた。
「あれ? もしかして…?」
ライアンが閃いたその時、ルドガーが最後の一発を上陸しているカニに発射した。だがカニは一度は後退したものの、液体のない地面を選んでまた進み始めたのだ。もう液体は終わりだ…。
「なんてこった、あと一歩なのに…!」
愕然とするルドガー、だがその時最後の巨大ガニが自分から戻り始めたではないか。
「よかった…でも、なぜだ?」
するとライアンが笑いながら答えた。
「ははは、日が照ってきたのさ。夏の強い直射日光はやつら苦手なのさ…」
先ほどまでの曇天の空はいつの間にか晴れ渡り、強い日差しが降り注ぎ始めていた。最後の1匹もゆっくり川に入り、下流へと移動を始めたようだった。
「ふふふ、うまく行ったなり。すぐムンディー様に報告だ」
仕事を終えたマルチホバーを見上げ、m6号はほくそ笑んだのであった。
森の劇場では、休憩時間が終わり、後半が始まろうとしていた。前半舞台で曲の練習をしていた合唱団のメンバーは客席に移り、さらに舞台の裏方のスタッフも観客席に陣取って舞台を見ていた。一体何が始まるのだろう。すると総合美術責任者のハロルド・サワマツが出てきて言った。
「ではこれより来年の講演『トレド英雄サーガ第一部、大瀑布の戦い』の美術検討会を始めます。主役の衣装から、大道具屋アクションシーンの仕掛けなど、主に美術関係の中間発表会を行い、そのうえで検討し、本番までにさらに良い物に高めていきます」
最後にあの陽気なおじさん、この森の劇場の最高責任者のパエゾ・パバロッティが姿を現し、最前列の真ん中にドカッと腰かけた。いよいよ始まりだ。
「ではまず、今回の大道具からご覧ください」
この森の劇場の大道具は他の連邦の惑星に先駆けて立体映像が使われていたが、その性能は、最近、さらに向上していた。
「パエゾさんからは動きのある大道具を目指してくれと言うことでした。これがその答えです」
ハロルド・サワマツの合図で舞台の幕が開くと、その中はどこまでも広がるジャングルだった。奥行き感が半端ない。手前の者から幾重にも重なるジャングルがあり、さらに遠くの山まで、まるで本物のようだ。これが最近の立体映像の特殊効果だ。そしてまずそこに雷が鳴り、熱帯のスコールが降ってきた。
「お気づきでしょうか、雨粒の一粒一粒の音までとは言いませんが、動いて囲るものと響いてゆく音とがリアルに合致する新システムを採用してあります」
次に風が吹けば、葉がざわめき枝が風に鳴り、、さらに大木がしなり、きしむ音まで聞こえてくる…。鳥が一斉に飛び立てば観客席の天井まで羽ばたく音がまわり、夜ともなれば虫の声や獣の鳴き声などが響き渡る。
圧巻だったのは大瀑布のシーンだ。
舞台にいろいろなパターンの滝が現れ、どれがいいのかみんなの意見が飛び交う。特に評判がよかったのは、背面が一面の滝となり流れ落ちるパターンだった。しぶきの一つ一つまでもが目に飛び込むように落ちてくる幕府は、圧倒的な迫力だった。この前で最後の戦いが行われるのだと言う。
次にいくつかのパターンの古代の王宮が出現し、みんなの意見で、巨大感のある王宮のセットがとりあえず選ばれると、そこにあでやかな衣装に身を包んだ姫や巫女、貴族たちの衣装をまとった女優達がずらっと姿を現した。レッドドラゴン側とダークスネークの側で、女性の衣装も趣をちゃんと変えてある。アンナ・フィッシャーを始め、ルビー組を中心としたあでやかな面々で目の覚めるような美しさだった。しかも王宮のシーンを再現し、本番さながらに歌いだしたのだ。もう、このまま本番を迎えてもおかしくないような完璧な歌声…。いくつか細かい意見も出たがほとんどこの衣装デザインで行けそうだった。
問題だったのは、次に現れた戦士たちの衣装だった。数々の英雄、神官、王族の武官、暗黒騎士などの男性役だ。クラウディア・ローレンスをはじめ、もちろん男役もすべて女性だが、遺跡の記録に基づいた鎧のデザインが地味すぎるとか、両軍の見分けがつきにくいとか、女性がやるのだから鎧のデザインにももっと女性的なデザインを取り入れた方がいいとか、いろいろだった。本番に向かってきちんと片づけていかなければならない。そして、主役クラスの役者が一旦引き揚げた所で大道具は密林の神殿に代わり、再びハロルド・サワマツが出てきた。
「舞台美術をいろいろ見ていただきまして皆様のすばらしい意見をたくさんいただき感激しております。そしてこれからが、まったく新しい試み、まだ連邦でも帝国でも誰も試みたことのない新たな舞台美術、にして驚きの演出の発表でございます。それは、異星人館の異星人の皆様の舞台初出演です」
「ええー!」
さすがのみんなも驚いた。クラリネアが一緒に歌を歌うことはあっても、役者として舞台に上がるというのか? いったいどういうことなのか?
「ただこの試みは危険だと思われていて、私たちも迂闊に手を出すことはできませんでした。ところがこの歌劇団の中に異星人たちと親密な関係を持っている歌劇団員がいたのです。私たち劇団はその団員にコーディネーターをお願いし、ついに実現までこぎつけました」
観客席は唖然として静まり返った。
舞台は後ろにジャングルのピラミッドがそびえ、巨岩で作られた重厚な神殿がたたずんでいる。神殿の奥には巨大な石像があり、舞台の右と左には密林が続いていた。するとそこにベールで顔を隠した森の精霊魔法師ミリオマリスが、つたや葉がからんだ奇抜な衣装で登場。
「森の賢者よ、われに知恵を授けたまえ」
そう言って木の枝を振ると、不思議な音楽がして、なんと右側の密林の中から、体が緑の葉に覆われた不思議な生き物が浮き出てやがてそこから抜け出て舞台へと歩き出したのだ。
「エ? あれは立体映像じゃないの?」
みんな驚いた。もちろん本物だ。あの体色や質感を自由に変えられるオウム貝人のミオラムスが隠れていたのだった。
「レッドドラゴンの戦士が攻めてきます。お知恵をお貸しください」
するとあのオウム貝人は流暢な言葉ですらすらと台詞を言った。
「ついにその時が来たか。石造の封印を時守護巨人を呼ぶがよかろう。だが忘れるな、我々の力は弱きものを守るためのもの、こちらから攻めれば負けるぞ」
「はい。心得ております」
すると石造の前に進み出た精霊魔法師ミリオマリスは顔のベールを取り、祈りをささげた。
「おおお!」
観客が信じられないという顔でどよめいた。なんと巨大な石像が少しずつ動き始め、最後には足音を立てて動き出したのだ。その大きいこと、人間離れしたその体型、なんと言っても自然な動き、すごい迫力だ!するとそこに楽器を持った不思議な生き物たちが現れ、精霊の曲を演奏し始めた…。
動き出した石像はガッツゴーン、鎧を漬けたり、靴を履いたりしているので、身長が270センチ近くになっている。そして演奏はクラリネア、パットビューン、ウミタマだった。驚いて声も出なかったのはセシルだったがよく見ると、二度びっくり、精霊魔法師ミリオマリスはサチホではないか、この娘はあっけらかんとして大役をなんでもなくこなしている。しかもどこか不思議な、妖しい感じがこの役にぴったりだ。サチホはもともとかわいらしい顔なのだが、普段は静かで地味であまり目立たない。だがこの妖しい衣装を着ると、どうも魅力も倍増するようだ。そう、そして精霊たちを呼びだす、このサチホこそがコーディネーターに間違いなかった。
その場面が終わると、異星人たちは舞台の正面に一列に並んできちんとお辞儀をした。大きな拍手が起こった。大成功間違いなし、ひざを叩いてパエゾは喜んだ。
最初はガッツゴーンに出演依頼が来たのだが、ほかの異星人も本舞台に出たいと言いだし、サチホも大賛成でみんなを励ましてここまでたどり着いたのだった。
サチホは普段はおとなしく声も小さいが、人前でも関係のないマイペースで乗り切ってしまう不思議な娘であった。
そしてついに森の劇場の次回公演は本格的に動き始めたのだった。
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