第6話 天文台の戦い
「ほら、レッドドラゴン大峡谷が見えてきましたよ」
テレサ院長の言葉に、新入生たちは窓の外の大パノラマに胸をときめかせた。
今日はクリスタルウォールを離れてのトパーズ組の研修日だった。先に出発した調査隊に遺跡で合流し、発掘調査を超能力でサポートするのだ。
歌劇団の少女たちをのせた中型のスカイバスは、巨大な赤い竜を越えて、台地の上に在る遺跡の空港へと、ゆっくり下りて行った。
「とにかく、万全を期してくださいね。今日は、トパーズ組だけではありません、エメラルド組やルビー組の新入生もいるのですから…」
「でも、みんなにあの天文台を見せてあげたいのです。こんな機会はめったにないので…」
テレサ院長先生は心配顔でトパーズ組のリーダー、テリー・クルーズとぎりぎりまで相談していた。テリー・クルーズは二十代後半のバリバリの攻撃型エスパーのリーダーだ。スカイバスから降りると、テリー・クルーズは、さっそくレッドドラゴン遺跡の警備隊長と最後の打ち合わせに入った。
今日のトパーズ組の研修はスペシャルだった。新入生の研修日と、レッドドラゴン遺跡の貴重な発掘調査日が、偶然重なったのだ。
普通ではいろいろな規制があってまず入ることのできない、貴重な発見があった第四層の天文台と呼ばれている特別なエリアに入ることができるのだ。警備や実践を専門にするトパーズ組の活動の中心は、最近では、実は遺跡調査隊のサポートが多くなっていた。
警備隊の隊長と打ち合わせを終えたテリー・クルーズは新入生たちを遺跡の入り口にさっそく集めた。入り口にはぞろぞろと人が歩いていた。ガイドに連れられて浅い階層を見学していた観光客が出てきたところだった。そこには先に着いた遺跡の調査隊と警備のサポート要員としてライアンとルドガーも呼ばれていた。セシルはジェミーやリディアなどのトパーズ組の新入生たちと一緒に並んでいた。
「…な、何だろう…? この嫌な感じ…」
強力なテレパシー能力を持つあの高貴なるリディアは、集合場所で、何か邪悪なものを一瞬感じた。遺跡から出てきた観光客の中にあやしいサングラスの男がいてこちらをチラリとみたような気がした。だが、それも人波の中にすぐ消えて行った。
「どうしたの、リディア?」
「ううん…入り口にいる人たちの方からなんか嫌な感じが伝わってきたような…」
「あの辺にいるのは帰ろうとしている観光客と調査隊ね…。わかったわ…私がきちんとマークしているから…」
セシルは早くも戦闘態勢に入っていた。リーダーのテリーが話し始めた。
「ここのレッドドラゴン遺跡と我がカナリヤ歌劇団は強い絆で結ばれています。複雑な地下遺跡の中を迷わずに進み、貴重な発見をするのに私たちの透視能力や千里眼といった超能力が大きな貢献をしているのは皆さんのご存知の通りです。また遺跡の中で事件が起きた時はトパーズ組が遺跡の中で救助活動を行ってきましたし、発掘物の一部の分析にはエメラルド組が深くかかわってきました。またこの遺跡で発見された先住民の英雄伝を脚色、舞台化し、ルビー組が公演する予定もあります。それでは今日これからの予定ですが…」
歌劇団員はトパーズ組が先頭に立ち、全員が一緒に第四層まで直通大型エレベーターで下りて行くのだそうだ。調査隊は奥で発掘、トパーズ組は手分けして全体の警備を行い、その他の新入生は、天文台エリアの見学ができると言うことだった。
「ではみなさん、ちょっと面倒ですが入り口のゲートのセキュリティシステムを通って中に入ります、中に入るとすぐにエレベーターの入り口があります」
この遺跡はいろいろなところから狙われている関係で、警備本部の前を通り、各種センサーのついたセキュリティゲートで、持ち物検査と身体検査をしなければならない。ほとんど特別な持ち物を持ってこなかった歌劇団員の面々は、特に問題なく入場できたが、最初から武器を携帯しているライアンとルドガーの二人は、警備隊員によって全身をチェックされた。
「おや、このハンドガンは見たことないねえ、ちょっと調べさせてもらうよ」
それはルドガーが携帯していた鷹のエンブレムのついたハンドガンだった。帝国時代からの使い慣れたもので、連邦軍の許可も取ってあるという。調べた結果特に問題もなくルドガーの元に帰ってきた。ちょっとひやっとしたルドガーだった。
セシルも同じ銃を持っているが、さすがに今日は持ってこなくて正解であった。セシルは、リディアの言葉を信じ、調査隊のメンバーから目を離さなかった。
「おや、ミラー教授の持ち物がセンサーに反応したわ…?」
教授のリュックに入っていた、地底羅針盤が反応…? 問題はなさそうだった。だが、調査隊のメンバーには、リュックを背負った大学の若い研究員や見慣れないロボットも含まれていて、どうも気が抜けない。
「ライアン、あのロボットは何なの? 戦闘用アンドロイドなの?」
「軍で採用している多目的ロボットエックスパックだよ」
「エックスパック? 変な名前ね」
「ほら背中に小さなリュックみたいな箱を背負っているだろう。用途によってあのパックを取り替え、あとは武器や道具を持ち帰るだけで、さまざまな用途に使えるのさ。たとえば目の前にいるエツクスパックは名前がアレックスといって、遺跡探査用のセンサーパックを背負っているんだ。ほら、パックから肩の方にいくつもの小型カメラやセンサーが突き出てるだろう。遺跡の中では、あれを使って、分析や記録を自動で行ってくれる頼りになるやつさ。ほかにもいろいろなパックがあって、宇宙ステーションや海底基地など人間が活動しにくい場所の警備や、いろいろな専門的分野での警備やサポートなんかに使われてるね」
帝国で接してきたロボットは戦闘アンドロイドや歩兵ドロイドなどで、セシルはどうも信頼できなかった。だが危険物や武器などの反応は結局一つも出ず、調査隊も歌劇団も全員が直通エレベータへと乗り込んで行った。
大きなエレベータの中は人でいっぱいで、みんな一言も口をきかずにじっとしていた。
「もし、こんな状態の中で事件が起きたら…?」
セシルは緊張をほどくことなくまんじりともせずにエレベータに乗っていた。ちらっとルドガーとライアンの方を見る。ライアンはにこやかに笑っているようだった、なんであんなに落ち着いていられるのだろう? なにかうらやましい気持がした。
やがて大きな音がして大型エレベーターは、地下第四層に到達し、ゆっくりとエレベーターのドアが開く。その向こうには重厚なもう一つのドアがあり、その向こうは、先住人類が作った遺跡だという。
万が一を考え、警備隊やライアンたちが最前列に進み、その後ろに調査隊、歌劇団は後ろに並んだ。
「…歌劇団のみなさん…あやしい気配はありませんね…」
「…ありません」
テレパシーや透視能力のある何人かがつぶやいた。そしてついに内側のゲートが開いた。
「ええ、す、すごい」
地下遺跡のこの第四層で四百年の月日が経過していると言うが、大理石のような石材でできている天井の高い通路は、まるで昨日作られたかのようにピカピカだった。考えてみれば、明るくついている照明も、まさか昔のままなのか…? すると、遺跡発掘用のロボットエックスパックのアレックスが進み出て、内部の様子を確認した。
「照明の出力低下もありません。前回来た時と温度、湿度、明るさなど、すべてのデータに大きな変化はありません」
すると調査隊長のミラー教授が言った。
「…では進みましょう。通路の突きあたりのゲートの向こうが、天文台エリアです」
警備隊員やライアンたちが、まず先に歩き出し、そのあとをみんなでついて行く。
「わあ、ステキ、こんな壁画があるなんて知らなかった…」
どういう目的で描かれているのか分からないが、通路の壁には、この惑星の美しい森やお花畑、珍しい動物などの、素朴で美しい壁画があった。これだけを見ていると、先住民の人々は自然を愛する良い人たちのように思えてくる…。
そして突き当たりの大きな扉に差し掛かる。ミラー教授が、壁に付いた古代文字のレリーフをある順番で触る。すると文字が静かに壁の中に沈み、正面の扉が動き始めた。
「…よし…封印が解けた。みんな静かに…」
扉が静かに開くにつれて、中に明かりがともっていく。そこにあったのは、予想もしなかった、大広間の床一面に描かれたこのパリス太陽系の宇宙図であった。
「…なんて神秘的な美しさなの…」
歌劇団の少女たちは思わず目を見張った。黒い床にちりばめられたキラキラ光る宝石は宇宙の星のきらめき、そこに幾重にも重なる金色の線は惑星の軌道、そして惑星の軌道上に置かれたパワーストーンは、パリス太陽系の十二の惑星を表す…。そして、大広間の中心にはパリスの太陽を表す大きな金属球が置かれ、銀色に光っていた。ミラー教授がその前に進み出た。
「この宇宙図があるところから、この大広間は天文台と呼ばれていたが、その本当の使われ方は長い間謎であった。だが、ある時、偶然この大きな金属球が、非常によくできた保管庫であることが分かり、我々はこの部屋の本当の意味を知ることになった。さあ、歌劇団の諸君、近づいて見てみるがいい。この部屋の機能を使って厳重に保管されていた物を教えよう。テリー・クルーズ君、劇団員にぜひこの保管庫の話をしてあげてくれ。そして調査隊の諸君、いよいよその時が来た。我々はついにさらに奥へと進むこととしよう」
そこで、歌劇団員と調査隊は別れることとなった。警備隊も二手に分かれ慎重に皆を見守る。
教授と研究員、そして発掘用ロボットが奥の壁に向かって歩いて行く。
「アレックス、解読したコードを頼む」
発掘用ロボットの背中のパックに着いたモニター画面に複雑な古代文字が並び、それに従って教授が壁の古代文字を触っていく…そのうちなんでもない壁の古代文字が浮かび上がるように白く輝く。
「…長かった…やっとたどり着いた…ではアレックス、お前がまず先に入り、部屋のすべてを記録しろ、続いて我々も入ろう…未発掘の部屋に…!」
壁がおごそかに開き、また明かりがついていく、そこは天井がとても高いホールのような場所のようであった。
歌劇団員は部屋の中央の銀色の球体へと進み出た。トパーズ組のリーダーのテリー・クルーズが部屋全体の説明をしながら、トパーズ組の上級生や新入生に、目で合図した。トパーズ組のメンバーは、周りを囲むように体制をとり、調査隊側にも注意を払っていた。テリー・クルーズが歌劇団のみんなに宇宙図を説明する。みんな目を輝かせてそれを聞いていた。
「…というわけですが、惑星をあらわすパワーストーンに触らないように気をつけてくださいね。実はすべてのパワーストーンは実際の惑星の動きに合わせて、目に見えないほどの速度で軌道上を、ちゃんとゆっくりですが動いているんです。実は、この部屋は宇宙の動きを再現し、それぞれの惑星がこのトレドに与える引力などの力を計算し、この保管庫の中の状態をもっとも理想的に保つように調整されていたのです」
そしてテリー・クルーズは銀色の球体の表面に何か古代文字をなぞった。すると、継ぎ目のないはずの球体が二つに割れて、ゆっくりと中の保管庫が姿を現した。
「このシリンダー型の保管庫の中は我々の科学では解明できないいろいろな条件で理想的に物を保管できるように調整されていました。私も調査隊に何回か同行する仕事があり、そのために地下遺跡のことを猛勉強し、発掘物取扱の正式な資格もとりました。トパーズ組も勉強が必要ですよ。さて、この保管庫の中から、ある意外なものが発見されて、一時ニュースにもなりました。なにが発見されたのか分かる人はいますか?」
歌 劇団員はみな顔を見合わせた。上級生はみな知っているらしく、笑って口をつぐんでいるようだった。
「あら、エメラルド組の新入生は、わからないと困るんじゃない?」
するとあのちょっと変わったサチホが手を上げた。
「はい、ちょっと不確かですけれど。ええっとお…上等の赤ワイン、それと葡萄の種や、何種類もの薬草の種です…」
「その通り。我々の科学では説明できないけれど、数百年の月日を経ても、ワインも作りたてのような味で種はすべてきちんと芽が出たんですよ。そして先住民が何のためにこんなすごい設備を使って、ワインや種を保管していたか…それが大きな謎でした」
歌劇団の少女たちは、そうよねえ、なんでこんな大がかりな設備で…と口々につぶやいていた。するとテリーはにこっと笑って続けた。
「…それが大きな謎だったのですが、その謎がワインや種を持ち帰ったエメラルド組によって解明されようとしています」
「えーっ?! 解明されたの? うそでしょう?」
そうだったのか、みんなエメラルド組のメンバーの方を見た。でもテレサ院長先生が、笑って答えた。
「…それについては、またエメラルド組の研修の時にお話があるでしょう。ではこれからしばらくは、小さな班に分かれて、この貴重な遺跡の中を見学しましょう」
そうして歌劇団は、通路の壁画を見る者、天文台の太陽系の宇宙図を見て歩く者、保管庫を見るものなどに分かれて歩き出したのだった。
リディアとセシルとジェニーの3人は、新発見の奥の部屋の入り口付近を見張りながら歩いていた。
中をのぞくと、調査隊が部屋の中央にぶら下げられた、不思議な照明のような大きな光る球を見上げていた。大きな白い球の中に、いくつもの光の球が重なり、存在している、不思議な光る球であった。これはやはり宇宙図なのか、それとも変わった照明なのか、何らかの芸術作品なのか、それすらもわからなかった。調査隊の一人が何か言っていた。
「…これが内側に行くほど広くなる…内なる宇宙なのか…?」
でもすべては、自然な感じで、長く見ていても嫌な感じがしない。先住民の科学は、地球人類の科学とは違い、自然の力をうまく生かし、さらに精神的な高みにも達していたようだった。そしてある日、彼らは宇宙へ飛び立った。いったいなぜ、なんのために…リディアとジェニーはあたりを警戒しながら、言葉を交わした。
「ねえ、リディアさん、先住民はいまごろ宇宙で何をしているのかしら…」
「…どうなのかしら? 別に滅びたわけじゃないのだから、連絡が取れるんじゃないの?」
まさかこれから先住民の言葉を聞くことになるなんて知るはずもないリディアだった…。
その時、調査隊のはいった奥の部屋でどよめきがあった。なにかすばらしい発見があったようだった。歌劇団員も何だろうとわくわくして様子をうかがっていた。
「…すごいぞ…直訳すると…意識を物質化する白魔法…これはもしかすると大発見かもしれない…」
その時だった。まずリディアが叫んだ。
「奥の部屋の方から、邪悪な気配がします。みんな気をつけて!」
セシルとジェニーは生体バリアを身にまとって奥の部屋に駆け出した。
「キャー!」
今度は奥の部屋から悲鳴が聞こえてきた。ミラー教授が叫んでいる。
「銃撃戦は最小限で頼む。周りすべてが貴重な先住民の遺産だ!」
「了解!」
ルドガーの声が聞こえ、そして彼のハンドガンが火を噴いた音がした。すると奥の部屋から、一人の女性の研究員が1枚の石板を持って飛び出してきた。そして、女性の口からではなく、体のどこかから恐ろしい低い声が聞こえる。
「…黙って道を開けろ。歯向かうと、この女は死ぬぞ!」
よく見ると、女性の研究員の背中のリュックから二本の触角が出て、首を締め上げている。そしてリュックの中がもぞもぞと波打つように動いている。脅されているのか、操られているのか、女性の研究員は、苦しそうな顔で周りの人間を見回した。警備隊長がみんなに命令した。
「いつ、どこから入ったのか分からんが、小型のバイオロイドと思われる敵が、女性研究員に取りついている。みんな、武器をしまい、手を上げて、道をあけるんだ!」
「…く、くそ、卑怯な!」
ライアンとルドガーはハンドガンを置いて、後ろに下がった。他の警備員も歌劇団員も道を開けた。だが、手を上げて降参のポーズをとりながらも、反撃しようとしている者がいた。セシルだった。超能力者に武器はいらない。このままの体勢から反撃ができる。セシルは反撃のチャンスをうかがいながら、ジェニーに目配せをした。もちろんまだこの2人も実戦で協力したことはない。でもセシルは小さくつぶやいた。
「…3、2、1…!」
セシルの正確無比な念動弾がピンポイントで、研究員の首に巻きついている触角にダメージを与え、すかさずジェニーの念動球が研究員のリュックの中の何かを直撃した。だが、得体のしれない怪物は研究員に取りついたままだ。
「2人とも、下がって!」
いつの間にか、トパーズ組のリーダー、テリー・クルーズが飛び込んできた。
「グオオオォー!」
凄い能力だった。研究員の体に伸ばした指先から電撃が走った。
「あ、あれは何?!」
突然リュックの中からソフトボールくらいの球体が飛び出し、それが床に転がった途端丸まっていた体が伸びて、球体からムカデのような形に変化した。いや正確には一本一本の脚が長いから、巨大なゲジゲジか。研究員はすぐにリュックを脱いで倒れ込んだ。するとその背中にはいくつもの血のにじんだ跡があった。あのゲジゲジロボットはリュックの中から、研究員の背中にツメを立てて脅していたのだ。ルドガーが叫んだ。
「なんで、入口のセンサーにかからなかったんだ!」
「センサーに反応しない特殊なバイオプラスチックで作られているようだ」
だが、その瞬間リディアが叫んだ。
「気をつけて、自爆して回りを巻き込むつもりよ!」
直後、ルビー組の歌劇団員の間から、小さな歌声が流れ出した。「花をさがしに」という歌だった。1人の乙女が花を探しに、水車小屋や木の橋を渡って、森に花を摘みに行くという単純な歌だが、歌を歌いだしてすぐに、ゲジゲジ型のバイオロイドは自爆した!
でも、歌劇団の生体バリアは歌によって瞬時に一つにまとまり、なんと爆発の被害をまったく受けなかったのだ。
警備隊長の指示で倒れていた女性研究員は救助され、爆発した怪物の破片はすぐに回収作業に入ったのだが、ミラー教授が真っ青な顔をして騒ぎ出した。
「ま、まずい、地底羅針盤にひずみが生じている。今の爆発で、遺跡の方の警備システムが作動したのだ!」
「なんですって!」
リーダーのテリー・クルーズが教授に場所の確認を始めた。
「この部屋の空間がどんどんひずんでいる。たぶん、この天文台の部屋に出現する。すべての人員はすぐ、この部屋を脱出して、直通エレベーターに乗り込むのだ! 急がないとあの…異次元獣が現れるぞ!」
異次元獣? いったい何が起こるというのだ。歌劇団員たちは何も分からず、ただエレベーターを目指して走り出した。
「キャー! あれ、あれは何?」
列の後ろの方にいたエメラルド組の少女たちが悲鳴を上げ、散り散りになり、何人かが倒れ込んだ。突然目の前の空間がゆがみ、渦巻き、その中に人影のようなものが揺らめいたのだ! いったいなにがなんだかもわからず、でもセシルやジェニー、リディアはテリーに従って、倒れたエメラルド組の少女たちの元に駆けつけた。
「古代の警備システムが動き出したわ。異次元獣が現れる。やつらは精神エネルギーが物質化したもので、通常の武器は通用しない。でも私たち超能力者の攻撃はいくらか効果がある…。なるべく小さいうちに心で打ち抜くのよ」
倒れたエメラルド組の少女たちのすぐ目の前で、空間が渦巻くようになって、だんだん大きくなり、やがてその中に人間ほどの大きさの蠢く影が出現した。それは人間そっくりの黒い影だったが、その闇のような体には、不思議な点滅する模様が浮かび上がっていた…。それは感情も何もない無機質な影で、まるで深海のクラゲのように発光し、不思議な文字や模様を点滅させていた。
セシルはまだ渦のうちにいくつかを念動弾で打ち抜いた。ジェニーも手を合わせるとその中に光る玉が現れ、それを空中に飛ばして渦を次々に消していく。だが、いっぺんにあちこちに渦ができ始め、もたもたしていると数匹が物質化し、もう、手に負えなくなっていく…。ライアンとルドガーもかけつけてハンドガンを撃つが、実弾はなんと素通りしてしまう…。
「わあ、た、助けて!」
ゾフィーとサチホが逃げ出す。いつの間に物質化したのか、部屋の隅から3匹の異次元獣がゆっくり近づいてくる。危ない! だがその時、セシルの念動弾が、ジェニーの念動球が2匹の異次元獣を貫いた。最後の1匹も誰かが放った超能力弾で粉々に砕け、やがて3匹は光の渦に戻り、消えていった。
…待てよ、3匹目を倒したのは誰だったのだろう?
「よかった、完全に物質化すると、なかなか倒せないしぶといやつらなのよ。すぐに逃げて!」
テリーの指示で、逃げ遅れていたエメラルド組のほとんどのメンバーも、天文台の部屋を出て、通路を走り、エレベーターに飛び込んだ。
「…ルビー組もエメラルド組もこれでもう全員乗ったわね。セシルみんなを守って上に行くのよ」
「テリー先生は?」
「私は残っている人たちを全員乗せて次に昇るわ。さ、速く!」
セシルとルドガーがみんなを導き、エレベータは、上に動き出した。そこに最後の研究員と教授、そしてリディアとライアンがやってきた。エレベータは折り返しやってくるまでにしばらく時間がかかる。何事もなければいいが…。
だが、天文台の部屋から、ゆらりともう1匹の異次元獣が出てきた。
「くそ、まだ1匹残っていたか…!」
ハンドガンで異次元獣を追い払おうとするライアン。でも実弾はなかなか命中しない。このままでは危ない! だが、心の中でリディアが助けを求めた時だった。
「…ああ、誰か、誰か助けて…!」
「わかった。そこでうごかないでじっとしているがいい…」
…誰かが答えた。一体だれが…。
その時リディアのすぐ目の前で空間がゆがみ、渦を巻く。だが今度そこに現れたのは異次元獣ではなく、金色の輝きだった!
「…だ、だれなの?」
その輝きは金色の人の形になり、物質化した。
銃を構えるライアン、だがテリー先生がそれを止めた。
「…待って、我々の味方よ。超人よ」
超人?! ライアンももちろん初めて見る…いったいこれは何なんだ。
そこに現れた金色の人影は、バイオロイドのような邪悪さも、異次元獣のような無機質な感じでもなく、古代の鎧のようなスーツを着た感情も知性も感じさせる…光る人であった。超人は、さっと異次元獣に向かって進むと、ファイティングポーズをとった。すると異次元獣は、口のようなところから、光の球を放った。超人は光る腕でそれを弾き飛ばす。今度は長い腕を振り上げる異次元獣、攻撃は意外にすばやい?! でも超人は異次元獣の一撃を交わすと、今度は、鋭いパンチを放った。パンチが命中するたびに異次元獣はのけぞり、光の粒子を撒き散らす、やがて異次元獣は光を発しながら、分裂して体が3体に増え始めた。だが超人は分裂し終わる前に、異次元獣に向かって、鋭いパンチを放った。その時、超人の体は金属のように輝き、空中を滑るように進んで異次元獣の体を3体とも貫いたのだった。異次元獣は光の粒子になってすべて消えていった。リディアがすかさず言った。
「…ありがとうございました。いったいあなたはどなたなのですか…?」
すると超人はだんだん輝きを弱めながら答えた…。
「…私はこの遺跡を作ったものだ…。」
「え…じゃあ、先住民なのですか? 宇宙に出かけたんじゃあないんですか…」
声はだんだんと遠ざかっていく。
「その通り、君もさっき見ただろう。私たちは内なる宇宙への旅の途中だ…」
旅の途中なのになぜここに超人は現れるのだろう…。もっと話をしたかったが、超人の姿はどんどん薄くなり、やがて、光も声も消えていった…。
結局大騒ぎにはなったが、研究員の一人が軽いけがを負っただけで事件は終わった。どうも今度は謎の犯罪シンジケートの仕業のようだった。バイオロイドが持ち出そうとした石板も無事だった。だが、異次元獣、超人まで現れる、すごい研修になってしまった。しかしそのおかげで、セシルはトパーズ組のメンバーと心を通わせることができ、だんだんと周囲に心を許せるようになっていったのだった。
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