10話.[じゃあ今日だけ]

「すみませんでした、あのとき余計なことを言ってしまって」


 一輝に付いて来てもらうのは違うからとひとりで大城先輩と向き合っていた。

 ただまあ、先輩が暴力を振るうような人ではないから気にする必要もないんだけど。


「別に好きだったと言われたから意識をし始めたわけじゃないよ」

「そうだったんですか」

「うん」


 待て、じゃあ私のどこに良さを感じたのだろうか。

 あれからは問題しかなかった、喧嘩こそあんまりしたわけじゃないけど。

 はっきり言うところが? でも、相当嫌な人間になっていたからなー……。


「俺、まだ諦めてないから」

「え、私たちはもう……」

「じゃ、3人で付き合お――」

「ふざけないでくださいよ」


 あれ、帰るねーって言って出てきたのに来ちゃったのか。

 尾行の技術がどんどんと高くなっている気がする。


「おぇ、また須田君がやって来たよ……、ワンちゃんみたいな子だね」

「飼い主の心配をするのは当然じゃないですか」


 どちらかと言えば一輝が私の飼い主みたいなものだけど。

 一輝がいたからこそ乗り越えられたことも多いから。


「じゃあ、たまにでいいから榊間さんと一緒に過ごしたい」

「駄目ですよ、絶対に積極的にアピールしますよね?」

「お願いっ」

「駄目ですよ」


 あ、ちょろいからなのかな。

 話したこともないのに好きになったからいけるだろうと?

 だってそれぐらいしか思い浮かばないよ、出るところも出ているわけではないし。


「じゃあ今日だけっ、その際は一輝君もいてくれればいいからっ」

「なにちゃっかり名前呼びにしているんですか」

「ほら、優……ちゃんも一輝君がいるなら安心できるでしょ?」

「はぁ、じゃあ今日だけですからね?」

「うん、ありがとうっ」


 で、当たり前のように手を握ってきたんだけど、いいのかな?

 でも、こっちから握っているわけではないし、一輝がなにかを言ってくることはなかったから問題ないということにしておいたのだった。

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37作品目 Rinora @rianora_

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