第16話



...



......



.........



............おっと、いけない。またぼーっとしてた。雑用雑用。


 今日も床を綺麗に磨く大男。


「雑用さーん、ちょっと一緒に冒険者ギルドまで付いて来てくれるかしら」

 女性店主は相変わらず両眼に黒い布で覆っている。


「...」

...冒険者ギルドね。


 大男は頷いて立ち上がり、店を出た。


「市場で出回らない食材調達の依頼を出しにいきまーす。こっちです」


「ヤッサセェェイ〜…」「オラオ!果物ォ〜…」「マイドン!」「ゥァタコシオー!」「アッスイヨォォオー!!」「オイ雑用!美人連れてどこい…」「ワッサ~イ!!」

 人々が多く往来し、活気が凄まじい商店街を抜け、数十分間歩いた先、ある建物に入る。


 建物内は大きさの割には人は少なく、閑散としている。



「おはようございまーす。食材調達の依頼を出したいのですがー」

 女性店主はさっとカードのようなものを差し出す。

 

「はい。どのような食材をお求めですか?」

 愛想よく受付嬢が対応する。


「ダウンデイルの油脂ですー」

「ダウンデイルの油脂ですね。少々お待ちくださいませ」

 受付嬢は手元で薄い石板に指先で触れて操作しながら何かを見ているようだ。


「...」

まるで銀行みたいだな。薄暗くてよく見えないが。


「お待たせいたしました。ダウンデイルが出没する西の迷宮の素材、食材ですが、軒並み入手困難素材となっていまして、価格が高騰しております。理由としては、低層に中層又は深層の危険度の高い魔物が出没している関係で、低層の魔物のバランスに狂いが生じている為ですね。因みに二ヶ月ほど前から西の迷宮は死の迷宮に指定されています」

「えーうーん、そうだったんだー」


「はい。依頼は承る事はできますが、西の迷宮の食材調達依頼の受注件数は現在、無いに等しいです。受注者が現れるかどうか。価格も相当額必要になるかと思われます。如何いたしましょう」

「わー、困ったなー。やめまーす。ありがとー」

「...」

全く困っているようには見えないが。


「そーだ雑用さんもギルドカード作ったら。もってないでしょ」

「...」

持って無い。


 首を横に振る。


「じゃあ作ってきてー座って待ってるから」


「...」 

 受付嬢を見つめる。

「...ギルドカードをお作りしますか?」


「...」

うん。

 受付嬢を見つめ、頷く。


「...ではここに必要事項を記載して頂けますでしょうか」

 紙と石炭のような細長いペンを渡される。

「...」

いいだろう。

...文字はそこそこ読めてもまともに書くなかったか。

マスターに書いてもらおう。


 女性店主が座っている場所の横に腰掛ける。


「できたー?」

「...」

 書く素振りをして、首を横に振る。


「書けなかったんだねー貸してー…」

 すらすらと記入する女性店主。


 


「お名前はーなんですかー」

「...」

そういえば名前なかったな。


 首を横に振る。


「じゃーザツヨウね」

「...」

...いいね。


 頷く。


...


......


.........



「はーい終わったよー出してきて」





「またのご利用お待ちしております」

 受付嬢は笑顔で見送る。




「こまったなー代替品を探しますよー」

 言っている事と感情が噛み合ってない女性店主。

「...」


 店がある商店街には向かわず、別の方向へ歩く道中、女性店主は雑談をする。


「カボル大都市は人の数も凄いですがーかなり広いですからねー。私もまだ西部だけでも行ったことない場所たくさんありますー」

「...」

確かにかなりデカい都市のようだ。


「危ない所も沢山ありますー。気をつけましょー」

「...」

そうだな。


「知らない人から何かをタダで渡されても受け取ってはいけません。特に雑用さんはぼーっとしがちですからー」

「...」

...最近は雑用係としてのプライドを持ち、意識を保つように頑張ってるんだ。


...


......


........



「バスガダモスの油脂?売れきれちまったよ」

「えー」



「バスガダモスの油脂か。一週間前に売れきったよ」

「わー」



「お姉さん、俺たちの世代じゃもうお目に掛かれないだろうよ?」

「なー」



「売り切れだ」

「まー」



「油はもう無い」

「もーす」

 何件も店を巡ったが目当ての品はなかった。



「はーー。雑用さん疲れちゃったねぇー」

 喫茶店のソファー席で一息つく女性店主と大男。

「...」

 俺は全然大丈夫。


「困りましたー。良い油がないと美味しい料理だせませーん」

「...」


「お客さんにテキトーな料理をだすわけにもいきません。いい頃合なので店はしばらく閉業ですかねー」

「...」

...よくわからんが、俺の飯はどうすんだよ


 食べる素振りをしてから、自分を指し、首を傾げる。



「さー知りません。生活のためお金が必要です。命の危険はありますが、確実にお金が貰えるのは冒険者ですね。思い付きですが、二人でやりましょーか」

 女性店主は頬杖をつき、ストローで飲み物をくるくると回しながら話す。


「...」

金はいらないが...都市で暮らすには最低限飯代は稼がないといけない、な。


 頷く。


「えーほんとーにやるんですかー。命落とすかもしれませんよー」


「...」

命か...今更惜しくない。


 うんうんとゆっくり頷く。


「じゃあー雑用さんは荷物持ちねー」


「...」

荷物持ち?...雑用的でいいな。


「そーと決まったら冒険者ギルドに戻って依頼探しまーす」



...



......



.........




「うぬぬー。手頃な依頼は転がってないですねー」

 女性店主は冒険者ギルド内の掲示板に貼られた紙切れを遠く離れた席から眺める。


「ギルド姉さんに聞いてみよー」

 女性店主と大男は受付へ向かう。





「お姉さーん簡単に稼げる依頼ありませんかー」


「えぇ?...どういった依頼をご希望でしょうか?」

「うーんそうねー…」



...


......


.........



 

「…細々としたのはやりたくない…はい、はい、危険度が低くて単価が高い依頼ですか...御二方のギルドカードを読み取らせて頂いても?…はい。お返し致します。…御二方とも一件も依頼を受注したことはないということで間違いないですね?」

 ギルドお姉さんは丁寧に話を聞き、内容を再確認する。


「はいはーい」

 やる気のない返事をする女性店主。

「...」

 頷く大男。


「...失礼ですが、魔物、魔獣を狩ったりなどの戦闘のご経験は?」

「半年前くらいに東の迷宮で低層の魔物を何度かー」

「...」

洞窟で身に余るくらいでかいやつを殴り殺して食ってた。


 大男は両手を広げ後、手を前に出しては何かを掴むように握り、食べる動作をした。


「うん?なんですの?」

 ギルドお姉さんは首を傾げ、女性店主を見つめた。


「なんでしょー、私にもわかりませーん」

「...」

ふっ。


「そう...ですね...危険度が低くて単価が高い依頼となると...要人の護衛などですが...知名度や実績、圧倒的な実力などによる抑止力が必要ですので、現時点の実績ではご紹介はいたしかねます」


「はむー」

「...」


「…あまりご経験がないようであれば、安全を見てまずは南部内の迷宮から始めてみてはいかがてしょうか?都市一番の食料自給率を誇る南の迷宮なら、食料調達依頼が尽きることはありません。補給も荷運びも格段に楽ですし、低層であれば低難易度の魔獣が沢山いますので、どんどん依頼をこなして徐々に実力を付けて、単価の高い依頼に移行して、行く行くは先程申し上げた護衛...も、一つの選択肢として目指してみても良いかもしれません」


「そうするーありがとー」

「...」

マスターがいいならいいんじゃないの。


「はい。御二方のご活躍を期待しております。」








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