第14話



─カボル大都市 西部 某繁華街─



「...」

どうしたものか...



...暗くてわからん。日が昇るまで寝るか。



 大男は暗くて周囲がよく見えていなかったが、それとなく道なりに進み、飲食店がひしめき合う繁華街の道の縁石を抱きまくらにして寝る。




...



......



.........



…しもー、おーい」


「大丈夫ですかぁ〜。酔っぱらーい」

...ん?


「仕事の邪魔ですよ〜おじさんどいてくださーい」


「...」

寝すぎたか。


 大男は起き上がる。


「わー。おっきい人ですねー。あと少しで火炙りにするとこでしたよー。気が付いてよかったですねーはは」

 両眼を黒い布で覆った女性が気が抜けたような声で言う。


「...」

なんだ。商店街で寝てたのか。


 片手をゆっくり上げて少し会釈をし、その場から離れようとする。


「店先で何時間も寝て謝礼も無しに帰ろうとしないでくださいな」

 本気か冗談かわからないような気の抜けた物言いで言う。


「...」

...それは。

どうする。面倒だ。


...殺す...のは無しだな。


 大男は女性をじっと見つめる。

「言いたいことありそうな顔ですねー」

 女性は両拳を胸の前に構え、戦闘態勢に入る。


「...」

...殺したらゆっくり都市観光できなくなるだろうな。


「公衆の面前でか弱い女の子に手を挙げてみますー…」

 女性はその場で適当にぴょんぴょん跳ねながら交互に拳を前に突き出しては引っ込める事を繰り返す。



「...」


...


......


...わたし...掃除...仕事...あっち...


 大男は自分の胸に指を指し、その場でほうきを掃く動作をしたあと、適当な方向を指さした。


「…ーらー、ん、なんでしょー...そんな嘘、子供でも騙せないですよ。店先で寝そべって客が寄り付かなくなった落とし前はどうつけてくれますかー」

「...」

 大男のお腹が盛大に鳴る。


「...お腹が空いてるのですか...その身なりですと寄るとこ無くて、困っていたのではないでしょーか。私の店で雑用やるなら許してあげます。食事付きで、当然無給ですが。ははっ」


「...」

なるほど。


「どうですー。迷う余地なんかこれっぽっちもないと思いますがー。美人店主の元で働けるのですよー。あはは」

 女性はぎこちなく一回転してスカートの裾を掴み横に広げ、お辞儀をする。


「...」

別にお前に興味は無いが。雑用か。


...


......


...雑用か。いい響きだ。暇だからやろう。


 大男は頷いた。


「えへへー。交渉成立です。...ではまず浴場で身体をきれいにしてきてくださーい。臭くて耐えられません」

 女性は片手で鼻をつまみながら、ある方向を指した。


「...」

いいだろう。




...



......



.........




「...」

 積年の汚れを落としてきた大男は女性の店の扉を叩く。


「はいはい。ちゃんと戻ってきてくれましたか。正直戻らないと思ってましたよー」

 相変わらず黒い布で両眼を覆った女性は脱力した口調で言う。



「...」

「無口な方ですね。とりあえず今日は店の掃除してもらいます。どうぞ、入ってください」


「...」

...飲食店。


 女性の店はテーブル席が4席、カウンター席6席の比較的小さめ。明るい色合いの木材と石材を基調とした店内に、暖色系にまとめられたステンドグラスの窓から差し込む光が、飲食店の雰囲気を優しいものにしている。



「...」

...素敵...俺はここで雑用係として新たな生活をはじめるのだ。


...人の下で働くのはかなり久しい。失われた感情が戻る感覚を感じ

「雑巾は厨房にありまーす。濡らしたものを固く絞って、床も椅子も机も見えるところ全部磨いてあげてくださいな」


 大男が珍しく感傷に浸っていたのも束の間、指示が下り、頷いて了解したことを示す。


「ご飯はその後食べさせてあげますよー」

「...」

思えば働くのは初めてか。


 大男は女性に言われた通りの事を黙々と行う。

 拭いては汚れた雑巾を洗い、また拭く。


「...」

「ふふふー」

 女性はなんだかやる気の無さそうな感じで鼻歌を歌いながら何度か大男の様子をちらりと見つつ、台所で仕込みをしている。



...


......


.........



「...」

言われた通りにしました。


 大男はカウンター向かいに女性の前に立ち、一度頷く。


「あー終わったのでしょうか」

 女性は顔を上げて言う。

「...」

 もう一度頷く。


「...はーい。いいでしょう。好きなところに座ってください。ご飯準備します」

 右斜め上の方向に顔を向けながらそう言うと女性は顔を手元に向け、テキパキと準備を始めた。


「...」

 大男はテーブル席の椅子に尻の大半はみ出しながらもなんとか椅子に座る。


都市で生活するということは... 


...文化的な生活を送らなければならない...労働の対価として飯を貰う。


そのためには俺は...


...



......



.........



「…い、聞いてますかーもしもーし雑用係さーん?おー…」


「...」

...俺は


......ぼーっとしちゃいけないんだ。


「やっと動きましたねー。急に動かなくなったので死んじゃったのかと思いましたね。冷める前にどーぞ」

 女性の声には感情はこもっていない。表情を変えないまま、さっと作った料理を出した。


「...」

 出された料理を手でつかみ食べる。


きちんと作られた料理を食べるのは初めてだ。旨い。


「スプーンを使ってほしいですー」

 そう言って女性は厨房に戻った。


「...」

 汚れた手でスプーンを掴み、改めて食べる。



 食べ終わる直前で、女性がテーブル越しに座った。


「さて、やってもらいたい雑用の詳細ですが...聞いてますかー?」


「...」

 頷く大男。


「はーい。雑用はですねー、できた料理をお客さんに運ぶのとその席のお客さん帰ったらお片付け、お皿洗いとお掃除でーす。慣れてきたらお客さんの注文の対応、もやってもらう予定です。それから私がいない間の店番とー...ここまで理解できましたー?」

「...」

それなら簡単だ。


 頷く。


「はーい。雑用係さんは寝泊まりする場所ありますかー」

「...」

ない。


 首を横にゆっくり振る。


「そうだと思っていました。私は自宅から通っているので、ここで好きなところで寝転んでもらっていいですー。二階の食料庫は勝手に食べちゃだめですよー」


「...」

了解した。


 頷く。


「んーそうでしたー。明日の開店までに人前に出れる服用意しますねー。必ず着るようにお願いしますー。では用事があるのでーまた明日」

「...」

 頷く。


 女性は大男が頷いたことを確認し、店を出た。


「...」

...寝る。







──────────────────────

更新速度が極めて遅いですが、ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。


せっかくここまで読んでいただきまして大変恐縮ですが、引き続き更新速度が極めて遅いです。


批判罵倒も受け付けておりますので、何卒よろしくお願い致します。

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