第13話





「…なるほど...4つ程いいか?そこの少女が、助けようとしていた子供について何も説明なかったが、補足してくれ」

「..ッ...そこの少女と一緒で突然現れた」


「...ふむ...そこの男は知ってるか?」

 バレッタが大男を指さした。


「...?あぁ、見てないし知らねぇな」


「そうか。悪魔の気配は今も感じるか?」

「...?...微塵も...感じない。心の奥底から掻き立てられるような異常な不快感は遠く離れていなければ感じるはずだ。何があった...?」


「最後の質問に繋がるが、そこの少女が言うには、大尉が倒れたと同時にそこのが処理したと言っている。それは可能か?」

「...?は??どう見ても壊れた人ブロークンじゃねーか…」

 ブレイドは目を見開き、大男を見つめる。


「俺の切り札ですら傷一つ付けられなかった。あり得ねぇ...いや、わからん...ッチ…」

「そうか。先程の上空の魔法陣は大尉...か」


「...もし仮にその男が本当に悪魔を殺ったんなら、俺たち全部隊でその男を囲んでも瞬殺されるレベルのバケモンだな」

「頭空っぽそうなこれがか?」

 バレッタは大男を値踏みするかのように見る。


「失礼致します!5分後に魔物の大群と交戦します!」


「指揮権は戻ってる。指示してくれ」


「あぁ、そうだったな。おいクソガキ。共に悪魔から生き延びた仲だ。お前の話、信じていいんだよな?」

「え?!はい!間違いありません!それと、魔法を掛けて頂きありがとうございました!ここまでの道中で女の人に襲われた時、とても助かりました。お陰様で無傷で済みましたわ!」


「女...?後で詳しく聞かせろ。バレッタ、魔導軍は作戦通り魔物の対処、それから既に出している応援要請は、取り消せ。今すぐ」

 ブレイドは顔をしかめながら言う。


「悪いが、取り消すって、正気か?その少女の虚言に軍を動かすのか?」

「あぁ...俺は悪魔が受肉するところから、そのガキが悪魔の何らかの攻撃で包まれた所まで見た。受肉したて悪魔は存在が安定するまで餌を食べ続けることはもちろん知ってるな?ガキに妙な小細工をする余裕は無いはずだ。俺も信じられねぇが、つまり、俺とガキが今生きているのはその男が悪魔を...それに気配すら感じないこの状況で少佐以上をお呼びするのはッ!んだ?!ッ全たッ…」


 ブレイド達がいる場所から少し離れた所が突然爆発し、木々を薙ぎ倒し突風が吹き荒れる。

 爆心地には赤色の刺繍が施された純白の軍服を着た女性が立っていた。


「「「「「ッ!!」」」」」

 現れた女性は美しく、細めで背丈が高い。短く後方に逆立つ様に整えられた暗めの赤髪が印象的だが、目を引かれるのは、琥珀色の虹彩に、その中に散りばめられた縦に無数に伸びる小さな瞳孔。

 この場の誰もが女性の濃密な力に圧倒され、言葉を失った。


「...ァガッ、バカヌッ!!アウル・ジェストヴァーン少将ッ...!!全隊ッ!!敬礼!!」

 ブレイドは焦った様子で現れた女性へ敬礼する。続けて周囲にいた軍人も即座に集まり、爆発を聞きつけた冒険者達も駆け付ける。


「少将って…」「あぁ…」「ねぇあの人って…」「ッチ!ペッ!」「ッんだよ…」「不吉な…」「まさか...俺達も皆殺しにするつもり...?…」「もう帰るわ…」「気味が悪い。帰るぞ…」

 冒険者達はひと目見て気味悪がる者や帰りの支度を始める者まで居る始末。冒険者達の雰囲気がかなり悪くなる。



「...うん...悪魔が居た、だろう?」

 突然現れた軍服女性、アウルは落ち着いた涼やかな声で言う。


「左様で「この場の最高位は」..わたくし、ブレイド大尉が」

「...ほう」

 アウルは特にブレイドに視線を向けることもなく、すぐそこまで迫っている魔物の大群を眺めている。



 沈黙が続く。



 ブレイドはバレッタとちらりと目線を合わせた。

「...受肉した悪魔の消息はわかっておりません。ひとまず魔物優先で「こちらで対処しよう」ッでは、援護に「不要だ。此処までご苦労。君たちの任務は完了した。帰還せよ」ッ...!」

 アウルはブレイドの話をお構い無しに命令した。


「っ...はっ!全隊!交戦は必要最低限に留め、至急準備を整えろ!整い次第帰還する!!」

 ブレイドはバレッタに目配せしながら指示を出す。悪魔の捜索に移る提案もしようと思っていたが、位が数段上の命令である以上、異議を唱える事はしない。


「「「「「はッ!!」」」」」

 軍人達は納得していない様子だが、反射的に返事をした。


「帰還の合図を出せ!」


「「「「「はッ!!」」」」」

 軍人達は手際よく作業を進める。


「冒険者共!これより我々カボル軍は帰還する!よって共同任務はこれをもって終了とする!後は好きにしろ!」


「雑だな...」「せめて魔物共を片付けてだろ…」「また自分勝手な…」「目と鼻の先だぞ…」「軍の将とやらの実力を見届けてやる」「犬共がッ、ま、帰るけど…」「金きっちり払ってもらうぞ…」「うん、悪魔がね、怖いからね…」「はいはーい」

 冒険者は思い思いに行動を開始する。





「きれいな人だねー!それにすごく強そう!そう思うよね!って、あれれ?...あれぇ?!」

 少女は目をキラキラさせ興奮気味にだったが、異変に気づく。


「おい、君たちの取り調べは終わっていない。都市に戻ってから詳しく行う...でかい方はどうした...?」

 バレッタは少女へ険しい表情で問いかける。


「...気がついたら居なくなっていまし「どこへ行った!?」...たわ」


「ッチ、帰還途中に少女が言っていた場所に女が転がってないか調査しろ。逃げた男も特徴含め軍に周知するように…」

 ブレイドは指示を次々と出していく。




 アウルは身の丈程の巨大な弓矢を召喚する。

 弦に指が触れた瞬間、薄っすらと白い輪郭だけの半透明な太い腕が彼女の両腕を覆うように現る。

「悪魔...か…」

 アウルは魔物の大群を見つめ、呟いた。






─爆発が起こった同刻─



...



......



.........



「...」

嬢ちゃんの安否確認も出来たし、都市へ向かおう。


 大男は都市へ静かに走り出した。





...



......




.........



─カボル大都市 西部 農村 某所─



「...」

...遠くか、近くか、暗くてよく見えないが、ポツポツと明かりが灯っているから、たぶんついた。


 大男が立っている切り立った崖からは本来、空気が澄んでいる晴れた日なら、遠く先の地平線まで、建物が立ち並び、都市が栄えっぷりを見ることが出来る。

 都市の中心部に向って標高が高くなっており、巨大な、なだらかな山が地上から山頂まで丸ごと都市になったかの様な光景。



「...」

さて、入って適当に散策するか。

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