第12話
『こちらはカボル魔導軍だ!そこの二名!止まれ!!従わない場合、迎撃(げいげき)する!』
「ぅえあ!?なに?!まって!」
「...」
森の方向から女性の力強い声が聞こえ、少女は立ち止まる。
『何者だ』
「カボル!!よかった!西の迷宮の帰り途中で変なのと戦って怪我をした兵隊さんと巻き込まれた子供を連れてきたの!早く治療してほしいの!」
『...??軍の者かわかるように顔を見せろ』
少女は大男に振り向く。
「...」
「ちょっと...びーちゃん、聞いてた...?」
少女は恐る恐る大男に聞く。
『...どうした?早くしろ!』
「...びーちゃん!!」
「んもうッ!!ちょとびーちゃん?!聞いてるの?!」ペシペシ
埒が明かないと思った少女は、意を決して大男の腹を叩く。
「...」
むぁ?...ん?まだ街に着かなかったか。
どうしたんだ嬢ちゃん。
「肩の!兵隊さん!見せてって!言ってるよ!」ペシペシ
「...」
...肩の...兵隊さん......
...何これきったねぇな。
大男は突然、肩についたゴミを払うかのような動作で担いでいたブレイドを払い落とした。
「ちょとー?!だめだよお?!」
払い落とされたブレイドは、何回転か地面を転げ回り、うつ伏せで森の方へ顔が向いた状態で落ち着いた。
「...」
...あ、はたいてしまった。
「すみませ『─ッバッ!ッブッ!!!ッ貴ッ様ぁぁ!!その者が誰か知ッ囲めぇッ!!』」
女性の焦りを含んだ力強い声が聞こえた途端、森から蜘蛛の子を散らすように人が現れ、瞬く間に少女と大男を四方八方囲んだ。
「ええぇ...」
消え入るような声の少女。
「...」
なんだ?
「動くな。少しでも妙な動きしたら殺すぞ」
大勢の軍人と共に現れ、見るからに偉そうな軍服女性。
べージュを基調とした色の軍服。上着の袖に腕を通さず、羽織っておしゃれに着崩しており、白シャツのボタンは胸元まで開けている。太腿の半分程度の長さのぴちぴちスカート。座り込んだ際にお尻の縫い目の部分が破けてしまうのではないかと瞬時に期待せざる負えない程にぴちっとしている。
「おい!すぐに治療して差し上げろ!!急げ!!」
軍服女性は少女と大男を睨めつけながら指示を出す。
すぐさま軍人は三人がかりで地面に倒れているブレイドに治療魔法を施す
「大尉がここまで…」
「ご無事で何より…」
「酷いお怪我だ…」
「...あ「今しがたの所作はなんだ?投げた者の事を知っての行動か?」...」
「...」
知りません。
「...びーちゃん」
呆れ顔の少女。
「なんだと聞いている!!」
声も態度も偉そうな軍服女性は眉間にしわを寄せ、深刻な表情で言う。
「あ、あの彼は「貴様に聞いていない!答えろ!!」...」
「...」カチカチ
そう熱くなるな。殺すぞ?
大男はゆっくりと口角を上げ、汚い歯を見せつけるように口を開き、素早く閉じて音を2回鳴らした。
「貴様ァ!舐めるのも大概にするんだな...『武装・展開』」
軍服女性の背後に派手な金色の魔法陣が現れ、大量の刃物や銃などの武器が召喚され、扇状に広がり、武器の先端が大男へと向く。
「...」
すごい...いきなり剣がたくさん出てきた。しかも浮いてる。どんなトリックだ?マジックか?...マジシャンなのか?!
大男は口角を上げたまま表情が固まっていたが、内心は半世紀以上ぶりに気持ちが高鳴っていたのであった。
「...死「喋れないの!その人!!話を聞いて!!ここまで運んでくれた命の恩人よ!!」...」
「...ッ」
軍服女性は両者とブレイドを交互に見て、舌打ちをする。
「......付いて来い。少しでも怪しい動きをしたら殺す」
召喚した背後の武器を消し、森を指差した。
「...」
少しはやるマジシャンのようだが、テメェがな。
「わかってくれてよかったわ。この子も早く見てあげて」
背負っていた子供を軍人に預け、森へ入った。
─カボル国 西区 森林 第ニ防衛線─
カボル魔導軍と冒険者の共同任務とはいえ、自然と軍と冒険者の二つのグループが出来ており、悪魔が出現したという事で明らかに冒険者の数が少なくなっていた。
少女は今までの経緯を細かく説明していた。
「…大尉が膝をついて子供が振り回されていたところを見ていた...?...子供を助けようとして怪物の何らかの攻撃で覆われた。そして、次の瞬間にはそこの男が立っていた...大尉と子供を運んでいる最中に女に殺されそうになった...」
「そうです!」
「にわかに信じがたいが、そこのお前がその怪物と女性とやらを始末したという事で間違いないな?」
「...」
「おい!男!聞いているのか?」
「...」
私か?なんだ?
「少女と子供を助けるために怪物を殺したんだな?はい、いいえで首を縦か横に振るくらいできるだろ?」
「...」
なんです?知りません。
大男はぼーっと軍服女性を見る。
「...」
軍服女性は少女を冷めた視線で見つめる。
「えぇぇ...なぁんでぇ...?」
消え入りそうな声で少女はぼやく。
「バレッタ大尉、お話し中のところ失礼致します!ブレイド大尉は概ね治療を終え、目覚めるのも時間の問題かと。子供は診察しましたが、目立った外傷は見当たりませんでした!以上です!」
「...ほう」
軍服女性改め、バレッタは目を細めて少女を横目で見る。
「そんな!怪物にお腹刺されて振り回されていましたわ!?そんなはずはありませんっ!」
「もういい。埒が明かないから尋問はブレイド大尉が目覚めてから再度行う。それまで大人しくしていろ。妙な動きしたらわかってるな?」
バレッタが少女と大男を厳しい眼差しで睨みつける。
「...はい」
「...」
テメェがな。
─数十分後─
「──ッフハァアッ!!!...悪魔はッ─!」
ブレイドは意識が戻ったと同時に思い切り空気を吸い込み、飛び起きた。
「...ブレイド大尉、お目覚めがおうちのベッドじゃなくて悪いが、何があった?悪魔は?」
バレッタが、片手を腰に添えながらもう片方の手で器用に小銃のような物をくるくると回しながら問う。
「あぁ...あ?ガギも無事...か?何がどうなって?...そうだな...部隊と分かれてから…」
ブレイドは周囲を見渡した後、自身の記憶が途切れるまでの事を話す。
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