第11話
子供を背負ったまま軽やかに少女が走る。
「お医者さんまでもう少しだからね!頑張って!大丈夫だからね!お姉ちゃんが…」
少女は子供に懸命に声を掛け続けながら走る。
「...」
...
......
「─お嬢さん?...こんな時間に、急いで、どうしたの?」
ゆっくりと左右に魅惑的な腰付を振るようにして歩く黒髪の美しい女性が、進行方向を遮るようにして現れる。
「...」
「─っ!...仲間が疲れて気を失ってしまったみたいで...これから帰るところですわ」
少女は警戒し、立ち止まる。
「うふふふ。だから急いでいるのね、可愛いお嬢さん」
たわわに実った胸を自身の腕を挟みつつ、美しい指を顎に当て、魅惑的ながらも母性を感じさせるような優しい微笑みを浮かべる女性。
「...」
「...はい、失礼いたします」
少女は走り去ろうとした。
「─都市まで、それなりに、あるでしょう?近くに、私の小屋があるの。背中の、子供...後ろの男は怪我をしている、ようね?...私、治療も、できるのよ?」
小首を傾げながら、魅惑的な身体を強調する女性。
「...」
「...ご親切にありがとうございます。ですが、ご心配には及びません」
少女は再び走り出し、大男が後を追う。
「......あらあらぁ、フラれちゃったわね...女の子に、手荒な行為、したくないのだけれど、仕方ないわよね。仕方ないよね。仕方ない。うふふふふ…」
女性は笑みを浮かべながら暗闇に溶け込むように消えた。
...
......
「...」
「..大丈夫だからね!…」
少女は不安に思いながらも、懸命に子供に声を掛け続ける。
『─ふふふふ...ふふふふふ…』
女性の不気味な笑い声が響き渡る。
「ッ!なんなの...!」
「...」
少女は警戒をしながら、さらに加速する。
『─後ろよ...う し ろ』
「ッ!!」
少女の目の前に再び現れ、女性の手には
少女は女性が突き刺そうとしている錐を
首に刺さろうとしていたその時、錐の先端を起点に爆発が生じた。
「ッ...!!」
少女は何が起こったかまだ理解できていない。
女性は少女から即座に距離を取ったが、爆発を直に身体に浴び、防御が浅かった部分が火傷を負う。
「高等な、保護魔法...」
「...保護魔法と言っていいのかわからないほど、すごく、
「...」
「...でも、おかしいわね。魔法の技術に、お嬢さんの技量が、釣り合って、いないわ?」
女性は火傷した部分に手を当て、魔法で治療している。
「...っ!」
少女はなぜ加勢してくれないのかとばかりに険しい顔で大男を見た。
「あらぁ...うふふ。後ろの殿方が?」
「...それがどうかしたかしら??」
「ふふ。強がっちゃって、可愛いわ。それで魔力が尽きたのかしらぁ?...あら?
「...貴女、見る目が無いようね」
少女はわざとらしくため息を吐く。
「うっふふふ」
女性は暗闇に溶け込むように消えた。
「ッ!!」
少女の背後に女性が現れ、少女の後頭部目掛けて錐が刺し込まれようとした寸前で再び爆発し、女性が吹き飛ぶ。
女性は吹き飛んでは攻撃を繰り返すこと数回。
女性は後方へ飛び退き、小さく屈んで着地する。ゆっくりと女性らしい曲線と膨らみを見せつけながら、くねくねといやらしく立ち上がる。
衣服が所々破け、雲の合間から差し込む月明かりで妖艶さがさらに際立つ。
「術者が居ない、その魔法は、後何回で、無くなって、しまうのかしらぁ?」
「残念だけど、何回やっても同じよ!お師匠様に修行付けてもらっている時を襲うなんて、下調べが雑なんじゃない?」ポィッ
少女はしたり顔で大男に向って小石を投げた。
「...?挑発している割には、焦って、いるようね?」
「そう?何を根拠に?」
「うふふ。可愛いこと」
「...」
ん...?エロそうなお姉さんと嬢ちゃんが戦ってる?理由はわからんが、殺す気のようだな。
「今貴女が生きていられるのも、たまたまお師匠様が考え事をしていて周囲を見てないから。これ以上刺激しないほうがいいわよ?」
「ふふふ。面白い、嘘ね。流石に見る目の無いお姉さんでも
「そう。ならご自分でお確かめになってみてはいかが?」
「...」
女性はちらりと横目で大男を見る。
「...」
「どうしたの?...もしかして、防御魔法を防ぐだけで精一杯だったかしら?」
「うふふ。間違っているわよ、お嬢さん」
女性は少女を小馬鹿にする
。
「お師匠様、小物は放っておいて、街へ急ぎましょう」
「...そんなこと、させると、思う?」
少女は走り去ろうとするが、女性が立ち塞がる。
「はんっ!怖気づいてお師匠様に一撃も加えずによく上から目線な事言えたわね!貴方なんてお師匠様の足元にも及ばないんだからね!お師匠様の足元から離れたどこかは分からない地面の中のミミズよ!格好つけないでちょうだいね!」
少女はゆっくり後ずさりながら言う。
「...」
よく見ていなかったが、大の大人が弱い者いじめだなんて、みっともない。嬢ちゃん困っているじゃないか。
大男は担いていだブレイドを放り投げ、ゆっくりと女性に向かって歩き出す。
「...」
...あ、投げちゃった。
「え?っちょッ!?放り投げないで...!」
「...最近、多いわよ?
女性はそう言い終わる前に、既に大男の眼球に錐を突き刺す寸前まで接近していた。
女性は突き刺した、と思っていたが、一瞬で両腕を大男の片手にまとめて握られ、片足も踏まれ、身動きが取れなくなっていた。
「─ッ...?!ッ!!...?!」
力を入れても魔力を全身に流して振りほどこうとしてもビクともしない状況に焦りが垣間見える。
「...」
ハエみたいに早かったな。
「
女性は自由に動く右脚に最大限、肉体強化魔法
凄まじい速さの蹴りに空気は圧縮され破裂音が轟く。女性の脚が脇腹に命中した際の衝撃波は、周囲の空気を揺らし、円形に草花が吹き飛び地面が剥き出しとなる。思わず耳を塞ぎたくなるような轟音に、骨肉が潰れる鈍い音は掻き消された。
「うそ...」
「え...?」
女性の右脚は膝から先が潰れたミミズのように成り果て、大男の脇腹から背中へ沿うように張り付いていた。そして、足首から先が吹き飛んで無くなっている。
「...」
...ぉうふ。ただの蹴りにしては過剰な音だったな。今のは効いた...耳に。
...そういえば、この世界の成熟した女体にまだ触ったことが無かったな。
全力の蹴りを入れたのにも関わらず損傷を与えられず、
「っ...!!んむっ!!ッふぅっ...!!っくッ!!…」
女性は必死に身体をよじり、なんとか拘束を振りほどこうとする。
大男は女性の胸に手を伸ばし、形に沿うように敏感な突起物含め、指で撫でたり、揉んだりしていた。
「...」
...飽きるほど馴染みのある感触。この世界も同じか。
「びーちゃん何してッ...?!」
「っ...!!...わ、たしと、したい...?...いいわよ?...大きな男に、興味が、あったの」
女性は胸を触られ、徐々に平静を取り戻し、
──────────────────────
私の全力の一撃に
所詮は下劣な男。一旦その気になれば、肉欲が満たされるまでは殺されない、はずよ。
片脚は見るに耐えない無惨な姿になってしまったけれど、容姿も肉体的も男を喜ばせる絶対的な自信がある。この状況で発情する異常な男には脚が無かろうがさして影響は無い。
表情と声色に気を付けつつ、行為を楽しんでいる素振りをして、隙を付いて逃げられるはずよ。
──────────────────────
逃亡することに思考を切り替えていた。
「...」
ん...?なんだこいつ?
脚が千切れてるじゃねーか。よく平気で居られるな。
人の事言えないが、この状態で
「はぁ...はぁ、どう、したの...?早くぅ、来てぇ…」
女性は頬を赤く染め、口を開けて舌を見せびらかす様に出す。涎がつーんと地面へ伸びて垂れる。
「...」
やる気まんまんだな。
...それよりどうやったらその脚でもげるほどの威力を出せた?...気になる。
大男は踏んでいた足を離し、片手で女性を持ち上げつつ、女性の肉感たっぷりの太腿を掴み、持ち上げた。
「ぁあん...!立ったまま、したい?はぁ、はぁ...すごく、興奮するわね…」
女性は息を荒くして
「ね、ねぇ...!びーちゃん、何しようとしてるの...?!い、い、急いでみんなを治してあげ、い、い、いくら敵でもそそそいうのは良くない...?と思うの...」
少女は顔を赤く染め上げ、羞恥心、焦り、困惑が入り混じった声色で大男に声を掛ける。
「焦らされると...ぁあん、腰が、勝手に…」
女性は月明かりが薄っすら映る潤んだ瞳で大男をねっとりと見つめ、ゆっくりと全身をくねらせ、より一層
「...!」
少女は恥ずかしそうに
「...」
何が腰がだよ、やかましいわ。
「ねぇ...早く、入れッ...!!!いやああああぁぁ!…」
女性の金切り声が響く。
大男の片手には強引に引き千切られたばかりの女性の左脚が握られている。
「っ...!!」
少女は予想外の事態にただ目を見開き、開いた口が塞がらない。
「…!!離しなさい!離して!離せ!!ぶっ殺してやる!!クソ野郎!…」
太腿の根本から引き千切られ、女性は取り乱す。太腿の根本から血液が数回脈動しながら噴出したが、すぐに出血は止まった。
「...」
...明らかに闘技場の野郎共よりこの女の方が桁違いに早く、強い。
その強力な脚が、野郎共を引き千切るより弱い力で簡単に引き千切れた。
出血がすぐに止まった。どういうことだ?少しこの世界の人間は俺の知ってる人間じゃないのか?
大男は片手で女性の両手を拘束したまま叩きつけるように仰向けに寝かす。
「どうするつもりよ!ッがはッ!」
「...やめて!離せッ!!いやあああああ゛あ゛…」
女性のみぞおち付近の皮を掴み、下半身に向かって強引に引っ張り、腹回りの皮を雑に剥が始めた。
女性がもがき苦しむ度に、
大男は女性の腹の中を漁るように掻き分け、臓器を一つ一つ手に取り、少し観察しては地面に投げ捨てる。
「…あ゛あ゛めて!!ごめ......さい゛!!...おぉ゛ゔ!!ゔゥ゛!!ヴェ!!ァヴァ゛!…」
女性は獣のようなうめき声を発し、人間らしい反応では無くなりつつあった。
「なに、してる...の...怖い...よ」
少女は自分を殺そうとした女性とはいえ、全く想像もしなかった
女性は声を発することも無くなり、ネチャネチャと粘り気がある音だけが聞こえる。
「...」
...うーん。特に変わったことは無いか。不思議だ。
大男は満足したのか、腹の中を漁ることをやめ、放り投げたブレイドをまた担ぎ、少女の元へ戻った。
「ひっ、っ...!...い、いきましょう…」
少女は平静を装う。
子供を背負い直し、再び都市を目指して走り出す。
「...」
何かがおかしい。嬢ちゃんもさっきの女には断然劣るがそれでも常人と比べて早い。
...走り方も独特だな。
大男も少女の後を追う。
...
......
平原が終わり、二人は木々が生茂る森に突入しようとしていた。
「...」
「...」
『こちらカボル魔導軍だ!そこの二人!止まれ!!従わない場合、敵とみなし、迎撃(げいげき)する!』
「ぅえあ!?なに?!まって...!」
「...」
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