第7話



闘技場の騒動から半年後。


 箱入王が居なくなった闘技場は勝敗が予想し辛くなり、博打が再び成立するようになった。

 開催頻度も客の需要に合わせ、月に一度だったのが徐々に増え、今では週に一度は開催するところまで回復し、箱入王が現れる以前の活気を取り戻していた。





一方その頃、当の本人はというと




────────────────────


─カルボ国 西の迷宮─





...





.......





「......」




......偶然見つけた洞窟、ダンジョン?のそれなりに奥の方で身をひそめて幾星霜いくせいそう





ここの生活は快適だ。






水に、うまい動物、いや魔物?だろう。が沢山いる。





ダンジョンに魔物。思ったよりファンタジーな世界に転生していたみたいだ。

もっと早く脱走してここに引き籠もっていた方が良かったのかもしれない。





あそこにいた時よりも何も考えずに生活できる。






...






...お腹も空いてきたし、ご飯がてら散歩しにそろそろ行くか。




今日は入口側に近い所を散策しようか。





「...」




.....






.........





 無心でダンジョン内を散歩していると





「......」






...




......





............





「ァ......ァ...ハ...ァ…」





.......なんだ?






「...」


...なぜダンジョンの半ばに死にかけの少女が。


...仲間はどうした?食べられてしまったか?






「...ィ、ィ...タイ...、ァ......ゴメ…」

 血だらけで四肢を切断されながらも、不思議とまだ生きている少女。少女のすぐ近くには狼型の大きな魔物が数体死んでいる。



......あの様子じゃ直に死ぬな。手足千切られている。仲間は側の狼の腹の中か?





闘技場を出て以来の久々の人間がこれとは。





.....う〜ん...




......俺のお気に入りの場所で看取めとってやることくらいのことはしてあげるか?


減るもんじゃないし。


たまには、なんかしないとな。





「...」


...痛むかもわからんが、すまんな。


本人のかわからんが、床に転がっている手脚もついでに拾い集め、少女を担ぐ。




「...アゥ...ァ...…」






....







.............







......よし着いた。


 ドーム型の空間。隅の方で一箇所地面と壁没落していて、没落箇所は綺麗な水が床面ギリギリまで溢れずに溜まっている。ドーム型の天井に所狭しと生えた茸と苔が発光し、夜空の星々を彷彿とさせる。

 


 ここは、箱入王の最近のお気に入りの寝床である。




「...」


「ハッ......ア......ァ…」



動脈を大きく切られているのに血が出ていない。

血液を出し切ったか、心臓がもう動いていないか...どちらの状態でも死んでいるはずだが、まだ生きている。どいうことだ。




「...」

「...ハ......ァ.........ァ…」



まぁいい。切断された手足も繋がっているように置いといて...



 そこら変に転がっていた魔物の頭蓋骨を割り、即席のコップを作成。隅の方で湧いている水を青白くなっている少女の口へ注ぐ。



...ほれ、嬢ちゃん。


今生最後の水だ。





「...」

「...ァ、ァ...ハ...」





......





.....ここは、静かな場所だろう?





...




「...」

「......ッ.........ッ...…」






「...」

「...」




......





............逝ったか。





....





「...」






....




神は無能だから祈るだけ無駄だが...死後の世界が安らかであることを祈る。

...フッ。あんな手抜き野郎の無能に死後の世界なんて気の利いた世界作れるわけねぇか。フッ。



 心でそう思いながらそれっぽく目を瞑った。






...







.........






「..」


.......どういうことだ。





目を閉じていた間に何が起きた。






......なぜ手足が繫がっている。





「ぅぅ、ゥン...」

「...」


...なぜ血色が良くなっている。





.........






「......はっ!!ゴホッ!ゴホッ!!ッこッ!、こは!?」

 大量の血液を吐き出し、瀕死だった少女は半身を起こした。


「...」





.............なんだと。






「っ!?!?あなたは!?ここはどこ!?私はた..し.か」


「...」



「私をどうするつもり!?ッ!!ッ近付かないで!?焼くわよッ!!...魔力...が!?濃い...辱めるつもりなら自害するわッ!」

 少女は自身のクビに手刀を当てる。



「...」

....別に近づいて無いし...元気そうだな。





「...」

「...」ジー




...復活するなんて知ってたら助けなかったし、勘違いしてそうだし、もう置いて行こうか。




「......?...っ!!!まッ!!っ待ってッ!!ッど、ッどこ行くの!?」

「...」



「私をこんな所に一人にするつもりなのっ!?なんで私の手足は繫がっているの!?...あの怪我じゃ間違いなく死んでた...あ、あなたが...助けてくれたの?」


「...」


......知らん。俺が聞きたい。あと何機でゲームオーバーになるんだ。




「......あ、あなたは?ここはどこ?確か中層辺りで...仲間をかばっ...ん?ここ、蒼くてキラキラ綺麗なところね」


「...」


「ねぇねぇ!あなたはなんで一人でここにいるの?そうだ!あなたが助けたのだから最後まで、地上に出るまで責任持って案内してくれる!?こんな魔力が濃い場所に一人でいるんだもの、相当強い冒険者なのかしら!?それとも御忍びの物凄い高名な方だったり!?」


「...」

...はい?


「ねぇねぇ!!ねぇ…」




...喋れないからしつこく話しかけられても困る。




「...」

「ちょっとッ!!どぉこ行くのよッ!?なんで無視するの!?待っててば!!あ、ッ待ってッ!!...ん?ウゥ"ぇッ、っなぁに、この変なニオイ...ヴゥェ"...くっさいわね。...ぁ......ね、ねぇ、あなた、お風呂はい──」


...とりあえず、悪そうな感じじゃない。

付いてくる気みたいだし、ここまで来たら洞窟の入り口まで近いしそれとなく送り届けてやるか。



 箱入王は少女をダンジョンの入口まで案内することにした。


 



....






.........





「...」

「…でね、ガオーってきたの!でもね…」





...







......






「...」

「…れないのね、どばばばあ!っとね、はし…」






...






........



「...」

「…がすために、おとり?に、なったんだけどね、死ぬ気はなくっ…」






...






........






「...」

「…てたの?どうして喋らないの?喋れないの?わた…」





......よく喋る嬢ちゃんだ。




....





.........





「...」

「…魔法なの!!見てみるぅッ!?ねぇ見たいよねてか見て!…」






...






.......






「...」

「…わね?どうして魔物が現れないのかしら?私を襲ったやつが出…」





...






.......





「...」

「…だったの。あ、そーそう、その背負ってる真っ黒げな大きな骨な…」





....






.......






「...」

「…に逃げ切れたのかなぁ...大丈夫…」





...





.......






「...」

「…ぅうっ...ううっ...くすっ...ぅわああん!どうじでぇ゛わ゛だじ…」






....


  




........



 



「…う?う?どしたの?なになに?休憩?かな?こなとこで大丈夫なの?すごい深いところいるんじゃ...あ、じゃあそういえばさっきの話しの…」

「...」


...よくもまぁ一人でぺらぺらと。






...






........






「...」

「ぅ〜んッ!よく寝た。おはよう!いい匂いだね!!それなぁにかな?美味しそうね!勝手にいただくわ…」






 ダンジョンの入口を目指し2日が経過した。




....




........





..............





...遅くなってしまったが、そろそろ入り口だ。




「...」

「…のが使えるの?ん?どうしたの?ねぇねぇなんで立ち止まってるの?」

「...」



...外だよ。話に夢中で気が付かないのか。




「うん?あれ〜!?見たことある景色だね!本当に入り口に連れてきてくれたのね!?もしかしたら巣に持ち帰られて食べられてしまうんじゃないかと思っていたのよ!!」

「...」



「わぁ!外だぁ!いえ〜い!助かったぁ〜!」




......外は夜か。後は帰れるんだろ?しらんけど。



お喋りな嬢ちゃん、さらばだ。



「あれれぇ?あなたは一緒にこないの??ここまで一緒に来たのだから都市まで一緒に来てよ!」

「...」



...都市か。あれからどのくらい経ったのか知らんけど...




「......うぅ〜ん、だめなの??...さすがに夜は危ないから移動できないよッ!せめて日がのぼるまで待ってよ!」


「...」





......仕方ないか。


 ダンジョンから出た辺りに生えている大木の下で横たわる。



「...」

「ん?急に歩き出してなになに?待ってくれるのね!!やったぁあ!じゃあちょっとお喋りし…」







...





......







「...」

「(スゥー...スゥー)…」


...明るくなってきた。






「...」


....人がたくさん来ている。冒険者というやつかな。




「──おはようございます。早いですね?あなた方も我々の募集を見て来られたのですか?」

「...」

 

「んッ!ん〜ぁ〜あ。おはよ〜う。どしたの〜?」

「ごめんなさい。起こしてしまいましたか。...どうやら別部隊の様ですね。失礼いたしました」


「いいよいいよ〜」

「...」


「では、私達はこれから仕事ですのでこれで」

「じゃあねぇ〜」

「...」





「じゃ、わたし、帰るんだけど、あなたはこれからどうするの?何もやる予定が無いなら一緒に来てよ!来てほしいなぁ...」

「...」



...都市で暮らすのは面倒だな。

洞窟の中みたいに好きな時にそこら辺で糞出来ないしな。不便極まりない。




......飯は好きな時に店で食えるのは良いな。




...あぁ、寝るのも不便だ。ダンジョンは好きな時にそこら辺で寝れる。



「......ぅう〜〜。とにかく!カボル大都市に住んでるから、困ったら…」


「...」

...あぁ、飯も何もかもまた金が掛かるじゃん。また働く。また金稼ぎ。碌な世界じゃねぇな。


やはり神は無能だな。

同じ仕組みの世界しか作れない手抜き無能クソ野郎だ。


結局、飯食って糞して寝るしかないんだ。





...





.........





「...」

「…よ!わかった?ねぇねぇ聞いてる?!覚えておいてね!絶対よ!じゃ、私いくから!もしいつか遊びに来るなら方角はあっちよ!あっちだからね!忘れないでね!あ〜っち!!っもう!私が指してる方向みぃ〜てッ!みいてってば!!そう!あ〜っち!あっちだからねッ!!じゃあね!」

 少女は風のように走り去った。


「...」




.......速い。





「──!!忘れてたぁッ!!」


...戻ってきた。



「助けてくれて本当にありがとうッ!!!ごきげぇんよぉう!!」

「...」




......速いな。




「──!!また忘れてたぁッ!!」

「...」



.........




「っねぇねえ!あなたお名前何というの?喋れないのか喋らないのか私、知らないけど文字は書けるぅ??うぅ〜ん?うぅ〜ん〜...どうし…」

「...」




....騒がしいな。




....


 


.........




「...」

「…だし〜、しっくりこないのよね〜?ねえどう思う?わた…」




.....





............




「...」

「…スト!にどことなく似てるよね!ジャワイスト、うぅ〜んしっくりこないな〜。ジャイアントワイルドビースト、ジャイ…」


 



....





........





「…ゃんね!おぉ!!かわいいねッ!あなたはびーちゃん!これからはそう名乗るのよ!わかったねッ?!いいわね?びーちゃんよ!はあスッキリした!じゃ、びーちゃん私行くね!絶対来てね!ごきげぇんよぉう!」


「...」




...




......あの速度がこの世界のスタンダードか?





 

......いつの間にかダンジョンの入り口に人がたくさん集まっているな。




ダンジョンにまた引き続き篭もるか、しばらく彷徨うろつくか。





「...」
















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