第5話






「最初に当たるのが私からだなんて、君、運が悪いね。遊撃隊バルカン第六階位シクス、ス─」



揃いも揃って弱そうだな。





...いや、一人だけゴツイやつがいるな。



見た目が強そうだ。先にやっちまおう。

「─ただく!いざ、参るッ!!.‥どこを見「おいおいぃ、おいおいおいぃ〜ッ!!なぁにこっち見てやがるぅぅ、嬉しいぞぉぅ箱入王ゥゥゥ!!!そう焦るなぁあ!!楽しみは最後にとッオ"ォォッッ!!?ッ!!...ハァアアあ゛!!!キ゛ッ...サマァ゛ッ!!ナッんの、つもりっ...だぁあ゛ア゛ァァ!!─」...」



─ゾゴマ────────────────

『コイツとやり合える日を待っていた!魔法なんて使うつもりもなぁいから丁度いい!!魔法無しとはいえ、どれほどやれんのか俺に見せてみろ!俺を楽しませろお!!!ハハッ!雑魚など見向きもせず、こっち見てやがるなぁ??フアッ、このカスみたいな面子じゃあ俺が大本命だろうよッ!!』


「おいおいぃ、おいおいおいぃ〜ッ!!なぁにこっち見てやがるぅぅ、嬉しいぞぉお箱入王ゥゥゥ!!!そう焦るなぁあ!!…


『ん?こっちに向かってきやがった。命令オーダーが効いていない?フアァッ、王族が構築失敗したか。本当に王族かよ。笑えるな』


…楽しみは最後にとッ…


『ヘッ、素人丸出しの上からのただの振り下ろし。しかも片手持ち。舐められたものだな。両手持ちで即座に剣を砕いて肉弾せ─』


…オ"ォォッッ!!?ッ!!...ハァア…


『─バカなッ!?!..重いッ!!ッ俺より力が上か!?ックァ、空いた左手で追い打ちして来ない!?そこは素人でも空いた手は使うだろう!』


…アあ゛!!!キ゛ッ...サマァ゛ッ!!ナッんの、つ…


『舐めやがって!ぶっ殺してやるッ!!』


…もりっ...だぁあ゛ア゛ァァ!!─」


『バカナッ!?押し返してもビクともしねぇ!!両手持ちの俺が押し返せないだと!?』

────────────────────



「(うぅっわぁ〜やらかした〜命令オーダー効いてないじゃん。どうしよ原因の検討もつかない…)......」

 第三王子は既に試合の事などすっかり忘れ、魔法の構築に失敗してしまった原因を王家にどうやって言い訳しようか、頭をフル回転させていた。



「......」

こいつ叫びすぎじゃない?近いからうるさいんだけど。



「「「「「!!オオオォォォオ〜!!!」」」」」

 観客は大いに盛り上がる。




「─ゥ゛ウ゛お゛おおお゛ぉ゛ラ゛ア゛ァ゛アアァアア゛ァァあ゛あ゛あ゛あ゛アァ!!!ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン......ァ゛...ァ゛....ァ........ァ..........ァ」


...煩い汚い吐くな。


見掛け倒しにもほどがある。

叫ぶだけ叫んでおいて何だよ。自殺願望者か?


─ゾゴマ────────────────

『バカナッ!?押し返してもビクともしねぇ!!両手持ちの俺が押し返せないだと!?』


「─ゥ゛ウ゛お゛…


『クソッ!!一歩も動けん!耐えるだけで精一杯だッ!なんて腕力ゥ!だがァ剣が折れた時がお前の運の尽きだ。そこで立て直してッブチのめす』


…おおお゛ぉ゛ラ゛ア゛…


『─ッ!!お互いの剣が折れた!い"ま"だッ!!!』


…ァ゛アア…


『ックッしまった!俺より反応が速い!!ッチ、場数踏んでいるだけのことはある』


…ァ…


『此処であえて使わなかった左腕を使ってくるか!ックソ!避けきれない!受けるしかねぇガァァ!!』

 箱入王は右手で握っている剣が折れる直前に右脚を前へ踏み込み、左拳を振り上げる。

 剣が折れたのを皮切りに左拳をゾゴマの頭頂部に向かって振り下ろす。


『─ックッソガッ!!重すぎるォォッ!!』

 体勢を立て直す暇も避ける暇も無く、ただ剣を手放し、両手を頭上で交差させ、箱入王の左拳を受け止めることしか出来なかったゾゴマ。

 余りの重さに耐え切れず、片膝が床に付いてしまう。


 因みに闘技場ではどちらかの剣が折れた場合、お互いに剣を捨て、殴り合いの肉弾戦とするのが習わしである。



…アア゛ァァあ゛…


『チッ!舐めていたッ!コイツを心の底から舐めていたッ!!悔しいが...使わせてもらうぞッ!』


…あ゛あ゛あ゛アァ!!!…


魔導衣テンペストォォッッ!!フハァァア!俺に魔法を使わせるとはぁ、大した男よぉ!楽しませてもらったぁ!』

 肉体強化魔法を発動させたことにより、ぼやけていた観客一人一人の顔も、話している内容も、さっきまで感じなかった匂いも、地面から伝わってくる振動も、五感が常人の数段鋭くなったことによって感じられるようになった。

 これで、虫を払い除ける程度に、


…ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛ン゛…


『ッこれで押し返し─ッ!?アッ、アッ!?アリエナイッ!!!ッ!!』

 簡単に押し返せるほどに、力の感覚も変化するはずだった。

 いくら魔導衣テンペストに魔力を流し込み力を加えても、押し返せない。


…ァ゛ァ…


『アァア!??魔導衣テンペスト使っても抗えないだと!?!アァアア"ア"!!どうなッ!ッ降さッ、ッダッ、破爆ソニッッ間にッ...』

 原因を考える暇も与えられず、降参を試みようとも力を抜いたら一瞬で潰される事を理解し、攻撃魔法で吹き飛ばそうにも間に合わない事を悟る。


…......ァ゛…

 肩、胸、背中、脚などの大きな筋肉はあまりの負荷に耐え切れず、次々と断裂していく。

 平常時でさえ、はち切れんばかりの筋肉を蓄えていた彼は筋肉が断裂した事により、筋肉が収縮方向に偏り、大きなコブが作られ、自らの皮膚を引き裂いた。身体で防具に覆われていない箇所は真っ赤な肉が露わになる。


『ッやァめてくれ!!...死ぬ気で戦いたい訳じゃ...』

 先程までは頭の片隅にすら無かった死の気配。

 調子に乗ってる雑魚を少しからかってやろうと思って遊びに来たことを反省する暇もなく、ただ殺されないよう、耐える。

 力みすぎて胃の内容物が口から噴出する。


…...ァ゛…

 やがて腕も筋断裂を起こし、力が一気に抜けた。

 箱入王の左拳が無慈悲に頭頂部を打撃する。

 だが、ゾゴマとて、歴戦の魔導士。

 無意識に魔導衣テンペストを操り、膨大な魔力を消費しながらもなんとか頭蓋骨が陥没せず、床に向かって、頭が叩きつけられるように力の方向を調整した。

 考えるまでもなく、コイツの拳より地面の方がよっぽど柔らかい。


 視界は、晴れやかな青空、目前の男、期待の眼差しを向け、唾を飛ばしながら叫ぶ観客から瞬時に皮膚が裂け筋肉が露わになったボロボロの自分の脚と床へと切り替わる。


『バッ、カナ...逃げられ..やめ...』


 強制的に下へ向かされた事により、ゾゴマはある事に気づき、絶望する。

 自分の左足を箱入王の右足に踏まれ、固定されてしまっている事を。

 最後の手段として、床に叩きつけられる直前で自身の魔力を全開放して、地面から跳ね返される球のように、衝撃で距離を取り、即座に降参するつもりだった。


 箱入王がそれを見越して足を踏んづけたのか、たまたまなのか、ゾゴマには知る由も無いが、最終手段まで潰され、現実味を帯びてきた自分の死に、心臓を掴まれたような感覚におちいる。


…....ァ…

 時が遅くなったかのように、ゆっくりと着実に床が迫ってくる。


『クソッ....』



…........ァ…


『...俺はまだ...死にたくない!!』

 朦朧とする意識の中でまたしても、魔導衣テンペストを無意識に使い、持ちゆるすべての魔力を注ぎ頭部を保護した。


 頭から床に衝突する直前、石床が魔導衣テンペストによって小さな隕石が落ちたかのようなクレーターを作りながらも頭部を保護し、衝突の勢いは地面が粉砕されることにより弱まり、そして止まった。


『たすか...った...…』

 満身創痍ながら、何とか助かった。と、安堵したゾゴマはそこで意識が途絶えた。


..........ァ」


 だが、ゾゴマは箱入王が振り下ろした左拳がずっと、彼の頭部を追いかけ、地面に落ちた腐った果物を足で踏んづけたかの如く、自分の頭部が潰されたことを知る由もない。

────────────────────


 観客は大いに盛り上がり、箱入王は拍子抜けした。



「「「「「──ッッ!ッウォオオォォォオ〜!!!」」」」」






ス「ばっ馬鹿な!ゾゴマが一瞬で…」

ネ「戦争屋ゾゴマ...魔導衣テンペスト最後まとったよな?...アリエナイ…」

サ「体格は互角だった...でも力が圧倒的に…」

ロ「えぇ...頭を潰すのってぇ…」

ダ「ちょと...えぇぇ??…」



「「「「「「うぉおおぉおおおぉお〜!!!!」」」」」」



「見たかッ!!!イキガリどもが身の程を知れッ!!…」

「てめぇらが我らがキングに魔法無しで勝てるわけねぇだろうがッ!!ナメんじゃねぇぞ!バーカ!!…」

「調子に乗ったなッ!!ざまぁみろ!!テメェら全員死ねぇ!!…」

「ざまぁ!しんどけ!…」

「いいぞっ!!もっとやれぇぇ!!…」

「あれ...命令オーダー効いてね…」

 観客の中には少なからず、箱入王擁護派も存在する。

 現役の魔導士が敗北した事を目の当たりにしたことによって、本来の調子を取り戻し、熱狂する。





さて、残りは...


...どれ?


 しゃがんでいた箱入王は立ち上がり、返り血、へばりついた臓物で真っ赤に染まった身体を残りの対戦相手がいる方向に向き直す。



「「「「「ッ!!!」」」」」


ロ「ヒィッ!!き、聞いてなかったのかよッ!!殺しはだめだろ!!お、俺は降参するッ!!」

ダ「えぇぇ...あれはむりぃッ!!」



ん?バトルロイヤルなのにお互いに戦いもしないで全員棒立ちとか、さては初めてだな?



「(えぇ!!...えぇええええ〜〜!!圧倒的なんですけどぉおおおお〜!!名前忘れたけどうるさい筋肉ダルマ片手で殴り潰したんですけどぉおお!!??あれ、それなりに強いよおぉお?!?!)...ッ!試合中止!!ちゅッ!!ッまてッ!!!ヤツを止めろッ!!衛へ…」

 第三王子は両手を大きく振り、試合を仕切り直そうとする。




「.........」





......あ?待たねぇよ。


おめぇら何しに来たんだ?





 

....





.........






...............










「「「「「「.........」」」」」」





「─早くしろぉ!!重傷者12名!死亡者28名!医療班!!こっちだ早くしろ!!…」「で、ですが…」「アレ急に動いてこっち来たりしないですよね…」

 箱入王は舞台に次々と上がった者たちに片っ端から叩きのめしたことにより、闘技場は前代未聞の事態に対応できずにいた。


「おい!箱入王!!しめぇだっつってんだろうが!!!衛兵どもぉッ!!いまだよ!!いま!!奴を拘束しろおお!!」「「「「.........」」」」

 司会者の声が虚しく闘技場に響き渡る。





「「「「「「うぉおおおぉおおおお〜!!!!」」」」」」

 闘技場の舞台に上がった衛兵を全て無力化した箱入王は動きを止め、観客からの歓声、怒号、罵声に包まれる。




......よし。もう居ないな。



「おぉおお!!じゃねぇえよ!!緊急事態だ!!!とっとと帰りやがれぇクッッソ客どもぉおおお!!!」

 司会者は精一杯叫び、客に退出を促す。




「.......」




......





......どうでもいいが、今回はいつもより人数が多かった気がするなぁ。

まぁお互いに殺されても罪に問われないどうしようもない人間同士みたいだし、どうでもいいんだけどな。




「......」






.....



    




..............








「.........」







...それより飽きたな。今度こそ外、出るか。


大変だったらまた帰ってくればいいし。そうしよう。




「...」






────────────────────






─大会終了後─






 峰々の輪郭や山肌がおぼろげに見える月夜。



 闘技場の一件で厳重に魔導具で拘束された箱入王は翌日の公開処刑に備え、二十数年間寝泊りしていた闘技場コロッセオの地下部屋で厳重に収容されていた。

 闘技場で動きを止めてから素直に指示に従っていた彼は、急に何かを思い出したかのように拘束具を難なく破壊し、地下部屋から堂々と脱出した。




 カボル大都市に大きな爆発音が鳴り響き、関係者達が爆発音の究明に慌てふためいていた。





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