第3話
一ヶ月後
─カボル大都市
「.........」
....
..........
「!!ッブゥガッ!!...カァ...」
丸太のように太い腕から繰り出された肘鉄は対戦相手の男の胸の中心にめり込む。
超重量級の強烈な打撃は対戦相手の各内臓を圧迫、破裂させ、体液と共に大量の血液が口から噴き出す。
折れた肋骨が体内を更に傷つけ、大動脈、果ては背中の表皮を突き破り、飛び出す。
身体に受けた甚大な損傷に関わらず、奇跡的に軽傷だった心臓はその事を知る由もなく、突然の衝撃に反応し、不測の事態に備えようと本能的に血液をより多く全身に巡らすため大きく、早く懸命に脈打つ。
だが、心臓の頑張りも虚しく、脈打つ度に大量の血液が骨によって開けられた背中、口から体外へ噴き上がるだけで、
何が起こったのか未だに理解出来ていない男はただただ、身体を前後に小さく揺らし、口と背中から血液を垂れ流す事しかできず、眼からは徐々に生気が無くなる。
それはまるで長年パワハラを受けて遂には耐えきれなくなった瞬間のジャポン労働者のような光景であった。
やがて重大なミスを犯したジャポン労働者が客先で土下座をする前段階かと言わんばかりにゆっくりと膝が地面に着き、前のめりに倒れた。
絶えず口から血液を垂れ流しながら顎をガクガクと動かし、浅く、速い呼吸を繰り返しているような素振りを見せた後、動かなくなった。
「ッそこまで!!」
「「「「「うぉおおおぉおお!!!」」」」」
「ッまぁたしてもこの男の勝利ぃいい!!圧倒的パワーァァ!!コイツを止められるヤツはいつ現れる?!今大会で26連覇ァァ!!」
魔法で拡張された声で司会者は観客を煽る。
「....」
「「「「「うぉおおおぉおお!!!」」」」」
「っかしいだろッ!!…」
「いい加減にしろッ!!!…」
「つまんねぇぇよ!!…」
「今年は違うと聞いてたのに!!…」
「引退しろやぁッ!!つまんねぇんだよ!クソジジイ!!イキってんじゃねぇぞ!…」
「テメェなんか20年前から見飽きてんだよオラクソ死ねぇ!!…」
「テメモイクツダヨ引退シロゴミカス!!雑魚がッ!…」
年に一度の大会。
例年通り観客から怒号と歓声が飛び交う。
「......」
「あ〜、一部から批判的な声が聞こえますがぁ、優勝、おめでとうございます!今のお気持ちは......?」
司会者は大男に近づき
「......」
「...う〜んなになにぃ?大変に嬉しいと。はぁい皆さん、大変に嬉しいとのことでぇす!!」
耳を傾け、観客に大男の気持ちを代弁する。
「「「「「うぉおおおぉおお!!!」」」」」
「テメェの話なんか聞いて…」
「そのザコクソジジイに喋らせろ!!…」
「もうつまんねぇからいらねぇよ!!どうせシャバに出たらただのザコ…」
「コロッセオに新時代を求める!!…」
「コロッセオに新時代を!!…」
「「「「「新・時・代!新・時・代!新・時・代!新・…」」」」」
「「「「「イ・ン・タイ!イ・ン・タイ!イ・ン・タイ!イ・…」」」」」
「おぉ〜ッとぉ、どうやら今年はいつもより風当たりが強いみたいだぁ。さぁどうする歴戦の戦士よぉ」
「......」
「はぁ〜なになにぃ?...うんうん。わかるよぉマイブラザー。はぁ〜い、絶対に死ぬまで戦うそうでぇす!!」
いつものように、司会者はまた大男に耳を傾け、あたかも何かを聞いているような素振りをする。
「「「「「うぉおおおぉおお!!!」」」」」
「ッテメェコノクソ司会!!…」
「だからテメェの話は聞いてねぇっつってんだろうが!!…」
「クソがァ!…」
「コロッセオの膿がッ!死ねッ!!無能ッ!…」
「少しは観客楽しませろクソがッ!!…」
「駆引きが無い!つまら…」
「不正だぁあ!!!不正があるはずだぁ!!…」
「表出ろやぁ!一瞬でボコれる自信しかねぇ…」
ここは魔法が高度に発達した世界。
重い罪を犯したものは魔力を封じられ、奴隷となる。
魔法が使えない者は、どんなに屈強な肉体をしていたとしても、魔法の扱いにある程度慣れた子供にすら簡単に負ける。
「「「「「シィ・ネ!・シィ・ネ!・シィ・ネ!・シィ…」」」」」
人々は刺激的な娯楽を求め、圧倒的弱者である奴隷を使い、降参か、死亡するまで戦わせ、大いに盛り上がっていた。
そんな闘技場の全盛期は唐突に、十数年前、ある少年が現れたことにより終わりを告げた。
「...ひぃどいじゃないかぁ〜ヤングブラザー達ぃ!!歴戦の戦士へのリスペクトはど「「「「「シィ・ネ!・シィ・ネ!・シィ・ネ!・シィ…」」」」」」......ぁ〜っと、今年は例年より大荒れでぇす...」
今年の優勝候補者の期待値はかなり高かった。
他国がわざわざ現役の一流傭兵を奴隷落ちせ、出場させているという。
やっと退屈な試合に終わりをもたらしてくれる者が現れたと。
ということで、例年にも勝り、観客、他国の来賓も今大会の結果に納得いっていない。
「.......」
......
............
「「「「「シィ・ネ!・シィ・ネ!・シィ・ネ!・シィ…」」」」」
「...」
......
.............
「あ〜あうるせぇなぁクソ客ども...」
「「「「「シィ・ネ!・シィ・ネ!・シィ・ネ!・シィ…」」」」」
「「「「「シィッ「《鎮まれッ》!!」─ッ!!」」」」」
「...」
「...我が名はスゴクク・サイ・カルボ・オー第三王子だ!!」
何処からともなく美声が響き渡る。
「第三王子!?」
「え!?どこどこぉ!?」
「まじ!見にきてんの!?」
「「王子様!!!」」
「「「「きゃぁぁ〜!!!」」」」
「「「「「うぉおおぉおおお〜!!!王子様あああ!!」」」」」
「..」
「騒いでいる者達よ!聞け!」
金髪だがより淡い色の長髪の中性的な青年が舞台に上がった。
「「「「「「.........」」」」」」
「私は君たちに非常に興味を持った!!」
「「「「「....?..」」」」」
「私はね、幼かった頃、彼に憧れ、同じ形、重さの剣を買ってもらった。持ち上がりすらしなかった。彼の凄さを実感し、成長したらこれほどの剣を振れるようになることに期待し震えたのをよく覚えている」
「「「「「「......??...」」」」」」
「...何の話ししてんだ?…」
「...なんだ?…」
「何の話だ?…」
「急に語りがはじまったぞ…」
観客がざわめく。
「..」
「幼かった私は成長し、魔法を解かなくても一年中過ごせるようになった。魔法による肉体強化、すなわち
「「「「「「.........」」」」」」
「ふむふむ。あったあった…」
「懐かしいな…」
「俺もママンに買ってもらったよ…」
「...話が読めないな…」
「知っての通り
闘技場は元々は公正な決闘を行う場として使われていたが、魔法が発達した今の時代、魔法の実力が全て。魔法が使用できない決闘の文化廃れ、奴隷を見世物とする娯楽施設として成り下がった。
「「「「「「........」」」」」」
「......話が逸れてしまったが、それを踏まえたうえで私が何に興味を持ち、何が言いたいかと言うと」
「「「「「「.........」」」」」」
「不正はあり得ない。そのうえで頂点に君臨し続ける戦士を侮辱、見下しているだろう?ということは、君たちは少なからず魔法を解いても彼を見下せるほどの素の実力があるということだよね?大変素晴らしいよ。それほどに素晴らしい人材を遊ばせておくのは勿体ない。彼と戦い勝利した者は我が
「「「「「「うぉおおおぉ〜〜!!!」」」」」」
「つまるところ、勧誘さ」
青年は両手を広げ、爽やかな笑顔を観客に向ける。
「「「「「「うぉおおぉおおぉ〜〜!!!」」」」」」
「ッ大出世じゃねえか!!…」
「あの野郎と戦える日を待っていた!…」
「こんな願っても無い機会逃すわけねぇな…」
「
「26連覇だかなんだか知らねぇけど、世間知らずの箱入り野郎に負けるわけねぇ…」
「やる…」
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