第2話
─カボル大都市
「.....」
.....
.............
「...」
身体には防具を身に着けず、左眼周辺に刻印された紋様を魅せるように左目周辺が欠けているコリント式ヘルムを被り、腰に簡易的な布を巻いた上半身裸の筋骨隆々の大男。
大男から繰り出された重く、素速い肘鉄は対戦相手の男の額にめり込む。
「─ッ!ッバァ...」
致命的な打撃を受けた男の頭部は、頭部全体が地面に打ち付けた水風船の様に波打った。
頭部内の圧力が急激に高まったことにより、眼球が飛び出して口元まで垂れ下がり、額を起点に発生した衝撃波は頭部全体に広がり、対角線上の後頭部を頂点として衝撃波が一点に再集結した。
その衝撃を吸収しきれなくなった後頭部は、遂には
男は膝からゆっくりと崩れ落ちた。
それはまるで激務から一週間ぶりに帰宅した労働者がほんの一時の安らぎと次の日の仕事を
その後、背中側へ倒れ、手足をピンと張って数秒全身痙攣を起こした後、動かなくなった。
「そこまでッ!!」
「「「「うぉおおおお〜ぉお!!!」」」」
審判が判定を下すと同時に闘技場は大いに盛り上がる。
「いやぁぁぁ〜さぁぁぁっすがでしたねぇ〜!一言、お願いしまぁす!」
長年この場を盛り上げてきた軽い口調の出っ歯な司会者が優勝者に言う。
「......」
大男は司会者の質問にも反応を示さず、一点を見つめ続ける。
「...ッかっこよかったぜェェッ!!今回大会の優勝者はいつもの人でぇす。はい、ありがとうございましたー!!一ヶ月後ぉ、いよいよ待ちに待った年一回の大イベントォッ!!東西南北の国々で勝ち抜いた上位戦士達がァ、このカボル大都市に集まり頂点を決めまぁす。またのご来場ぅ、おぅ待ちしておりまぁす!解散!!」
「「「「うぉおおおぉお!!!」」」」
「くっそぉおぉお!!借金がまた増え…」
「俺の...戦士が...負け…」
「勝たんかッ!野郎ゥッ!あれほど金をつぎ込んで鍛えてやったろう…!」
「あの筋肉ジジィ...勝てるヤツいんのか?…」
「運営側が魔法使ってんじゃねぇだろうなぁ!?あぁ!?検査させ…」
「いい加減そいつを引退させやがれぇってんだこんちくしょうがッ!…」
「さっさと引退しろクソジジイ!!死ねッ!!クソッ!!…」
観客は優勝者の大男に思い思いに感情をぶつける。
「「「「「引退!引退!引退!引退…」」」」」
「え〜〜...皆様から恒例の引退コールが鳴り響いておりますがぁ〜、今の、心境、お聞かせ願えますかぁ?」
司会者は棒切れの様なものを大男の口元へ近づける。
「........」
「んも〜う。恥ずかしがり屋さんだなぁ〜。え〜なになにぃ?...うんうん。わかった。ハァァアイ!死ぬまで決ぇして引退しないそうでぇす!...わかったらとっとと帰りやがれぇ!客どもぉ!!見世物はしめぇだァッ!!!解散!」
司会者は大男に耳を傾け、何度か頷きながら、何かを聞いてる素振りした後、観客へ伝える。
「「「「うぉおおおぉお!!!」」」」
「嘘つけ!!てめぇら運営側が用意した人造人間だろ!そのジジィ!!…」
「そいつが喋れねぇのがその証拠だッ!!いい加減にしろ!!汚えぇぞぉッ!!!俺の金返せェッ!!!…」
「二十数年無敗とかあり得ねぇだろッ!!絶対魔法使ってんだろ?!死ねぇアァ!!…」
「いっぺん俺とヤラせろッ!!それでわかる!!…」
「俺が魔力
ここ数十年、優勝者に対する怒号もまた、この闘技場の恒例行事になっている。
「え〜、お気持ちはわかりますがぁ、
奴隷になった者は魔法により身体に独特な模様が刻まれる。模様が発現する箇所は人それぞれ。
因みに、奴隷印をさらけ出した状態で出場しなければならないため、防具は各個人で特注品となる。
「「「「うぉおおおぉお!!!」」」」
「イカサマだ!絶対にゆる…」
「それがきな臭えっつってん…」
「そいつをいい加減引退…」
「魔法残痕けん…」
「俺とヤラせ…」「「「「「引退!引退!引退!引退…」」」」」
「.....」
....
.......
............
引退?誰か引退すんのか?てか引退とかあるの?
...別にいいんだけど何でも。
.....
.........いや?
仮に俺が引退させられたら、誰が俺を食わしてくれるんだ?
ここは時を忘れるほど何も考えずに生活できて、飯を好きなだけ食わせてくれる良い場所だが......
......気分転換に少し外の世界見てみるか?
だが、俺はここの生活しか知らない。外へ出て何をしたら気分転換となる?
.........何も思いつかない。
ここに居座っても捨てられるのも時間の
「あ〜〜、こんな所で突っ立ってないで巣にとっとと戻ってもらいません?クソ客共はとっくに帰りましたよ?」
司会者は大男に向かって言う。
「.........」
いつの間に終わってた。
...
....もう少しぼけーっと居るか。
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