第3話
結婚式の日はあっという間にやってきた。
透は結局、俺の結婚式に来た。短大の入学式のときに買ったスーツを身につけ、式の
親父とお袋は挨拶回りで忙しく、透はずっと一人でいた。俺はそんな透の姿が視界に入るたび、なんで結婚式に来たんだよ、と思った。
俺は透のことが気になって式にも披露宴にも集中できなかったが、隣の真奈美はずっと幸せそうな顔をしていた。もうそれだけで十分だと思った。
披露宴も無事終わり、会場の出口で列席者たちを見送っていたときのことだった。透は緊張した顔をして一人で俺たちの前にやってきた。そのまま流れていけばいいのに、なぜか立ち止まっている。なにか話したほうがいいのかと気を遣っているのだろうか。
「体調悪いなか、来てくれてありがとうな。今日はゆっくり休んでくれよ」
と俺は透に声をかけ、先に進むように促した。透は静かに頷くと、会場からゆっくりと離れていったのだった。
もう当分は透の姿を見なくてすむのかと思うと、正直なところ俺はほっとした。
式から一週間経った、月曜日の夜のことだった。家のポストを開けると、俺宛てに一通の手紙が届いていた。差出人は透だった。やや分厚い封筒を見て、俺は嫌な予感がした。今まで透から手紙をもらったことなんてない。あいつは俺になにを書いて送ってきたのだろう。
真奈美はまだ帰ってきていないようだった。暗い部屋に電気だけつけると、俺は立ったまま恐る恐る手紙をひらく。部屋のなかは、湿度が高くじめじめしていた。嫌な汗が額をつたって下へと落ちていく。
『お兄ちゃんへ』
小中学生の女の子が書くような、小さくて丸い文字が便せんには並んでいた。鉛筆で書かれているわりに筆圧が強く、文字の色は濃い。
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