第241話 演者勇者と忠義の白騎士14

「疲れた」

「え?」

「何故俺は毎回毎回お前の新しい女に驚きツッコミを入れなきゃいけねえんだ。そろそろ本気でお前を弟子にした事を後悔しそうだ」

「俺も毎回毎回違いますと弁明するのに疲れてますよ! 今回も違います、事情があるんです!」

 というわけでお馴染みアルファスの店。再出撃を前に、レインフォルの装備を揃えなくてはいけないのという事で当然ここに足を運んだ結果の会話である。

「事情ねえ……よくもまあそんなに毎回事情が……うん?」

 と、アルファスそこでレインフォルの首にある契約の首輪に気付く。当然それが何の効果がある品物なのかが直ぐにわかるわけで。

「レナ。……もう、こいつを許してやってくれ」

 ポン、アルファスが優しくレナの肩を優しく叩くと、

「アルファスさん……私、もうどうしたらいいか……! 今まで一生懸命勇者君に尽くしてきたのに……!」

 感極まってレナが泣き出して、

「止めろぉぉぉ何なんだこの茶番!」

 ライトがまとめてツッコミを入れた。――レナは無論泣き真似である。

「…………」

 その様子をただ無言で見るだけのレインフォル。何処となくライトにだけ厳しい視線が向けられている気がしてライトは余計に辛かった。――中々緩和しないな、うん。仕方ないかもだけど。

「さて。――事情はライトから聞いてるな? どんな人間からの紹介でも一度俺がテストして合格しない限りは絶対に武器は作らない。動けるか?」

「問題ない。もうほとんど回復してるからな」

「じゃあ裏庭行くぞ。――ああ、ライトはちょっとここで待ってろ」

「? はい、わかりました」

 今まで仲間を連れて来てのテストは全てライトも見守る形だったが、ここへ来て店で待機命令が。意図はわからないが――

「ハッ……アルファスさん、もしかしてライトさんが羨ましくなってその方を口説こうとか!」

「五月蠅え俺は違うわ。つまんねえ事言うとお前は自宅で待機にするぞ」

「というか俺も違いますから!?」

 ――わからないが、とりあえず指示に従う事に。危うく一緒に自宅待機にさせられかけたセッテも一緒に残し(!)、そのままアルファスとレインフォルが裏庭へ移動。

「テスト内容も聞いてるな? 勝ち負けじゃない、兎に角俺が認めるかどうかだ」

「ああ」

「しかしまあ、流石に俺も初めてだわ。明確に敵だった奴に武器作るかもしれないなんてな」

「!」

 ライトはレインフォルに関して正体を説明していない。首輪で奴隷である事はバレたが、それ以上の事は言っていない。なのに、アルファスはレインフォルの存在に関して直ぐにある程度を掴んだ。

「ちなみに人払いしたのはそれが原因でこっそりお前を倒そうとかそんな理由じゃねえぞ。ライトがこうして連れて来てる以上、誰であれテストをして俺が認めれば武器は作る」

「なら何故だ?」

「見世物じゃねえんだよ。俺の本気は」

 そう言ってレインフォルにテスト用の武器を投げ渡し、アルファスは構えた。――瞬間、

「!?」

 ビリッ、と走る気迫。強者特融のそのオーラ、まるであの天騎士にも勝るとも劣らない。少なくともレインフォルはそう感じた。

「……驚いた。あの男の師匠だと言うからどんなものかと思っていたが。何者なんだ?」

「得体が知れないのはお互い様だろ。何でテストで本気出さなきゃなんねえんだって話だ。それに何度も言うが、大事なのは正体じゃねえ。――俺の武器を持って、何をしたいか、だ。それを示してみろ」

「わかった」

 直後、テストとは思えない激しいぶつかり合いが、もし戦場だったとしたら戦局を大きく揺るがすような戦いが、繰り広げられるのであった。



「あー疲れた、マジで疲れた。本当にどうなってんだお前が連れて来る連中は」

 しばらくして、そんな言葉と共にアルファスがレインフォルを連れて店内に戻って来た。

「お疲れ様です。どうでした?」

「どいつもこいつも当たり前の様に余裕で俺のテスト潜り抜けるんじゃねえよ。俺自分のテスト無意識の内に緩くしてるんじゃないかって自分でも勘違いしそうだわ」

 つまり、合格という事である。心配はしていなかったが、それでも実際に認められると一安心だった。

「レインフォルもお疲れ様。おめでとう、凄い武器を作って貰えるからな」

「ああ。――アルファスだったか。その事で頼みがある」

「何だ? 作ると決めた以上リクエストは受け付けるぞ」

「長剣が二本欲しい。私のスタンスはそれでの二刀流だ」

「? 俺達と戦った時は」

 黒い甲冑に、かなり大きな大剣一本。てっきりそれがスタンスだと思っていた。

「あれは圧倒的攻撃力防御力を手に入れる代わりに速度を犠牲にする装備だ。あれを無くした以上、以前のスタンスに戻す」

 言われて確かに思い返してみても、防ぐ、弾く等の行動をしても、回避という行動はしていなかった。――それでも圧倒的速度で動いていた気がするライトとしてみたら余計に驚く案件ではある。

「……そう、なんだ」

 でも、ライトとしてはそれ以上にふと思う事が。

「何か言いたげだな。言っておくが確かに戦闘スタンスは変わるが、それでも少なくともお前の仲間以上の動きはする」

「ああいや、実力を疑ってたわけじゃないんだ、うん」

 ただ、ならどういう経緯であの黒い甲冑を纏う様になったんだろう。――その疑問を何となく訊けないライトがいた。

「成程。長剣二刀流、ね。そういう事か」

 そしてそのレインフォルの言葉に何か納得した様な様子をアルファスは見せた。そしてゴトッ、とカウンターに二本の長剣を置く。

「まあ当たり前だがはいそうですかで今日明日剣は出来ねえ。だから完成までの間、その二本を持ってろ」

 レインフォルはその二本をそれぞれ鞘から抜いて確かめると、そのまま二本とも腰に。お眼鏡に叶ったらしい。

「ちなみにそれ、天騎士――ヴァネッサさんからのレンタル品な。私物だってよ」

「天騎士の……?」

「どうせ流れでここに武器調達に来る事になるから、俺のテストに合格したらそれを貸してやってくれとな。何で二本も置いて行ったのかと思ったら成程そういう事かって話だ」

「そう……か」

 先の戦いで何かヴァネッサなりに感じる所があったのだろう。そして今回の作戦にこれ以上参加出来ない事も含めて、ヴァネッサはこうしてレインフォルに愛用の剣を託した。

「感謝する。剣の作成、宜しく頼む」

「ヴァネッサさんにもお礼言っておけよ。それからヴァネッサさん剣コレクターだからな。それ壊したら怒られるから気をつけろよ。もし何かあったらライトの奴隷なのをいいことにライトに何させるかわからねえからな」

「変な脅しを俺含めてするの止めて貰えます!?」

 …………。

「……変な脅しなんですよね?」

「至ってマジ案件だぞ。お前があの人に逆らえるってんならいいがな。時間がある時に話してやるよ、昔あの人のコレクションをやっちまった奴がどうなったか」

「レインフォル、頼む。その剣は大事にしてくれ」

「……まあ、簡単に剣を壊すような戦いはしない、安心しろ」

 こうして多少イベントはあったが、無事レインフォルもアルファス印の装備が確定となるのであった。



 レインフォルのテスト後、ライトの稽古。それが終わると、ライトはレナとレインフォル(見学と帰宅の選択肢をライトから与えられ一応見学を選んだ)を連れて城へ帰還。

「ちょっと出てくる。直ぐに戻るから店番な。帰ったらフロウは鍛冶の稽古するからそれの支度をしてろ」

「はーい」

「わかった」

 アルファスはセッテ、フロウにそう言って店の外へ。そのまま路地へと進み、

「そんなに納得いかねえか、あいつのやり方が」

 明後日の方向を見ながらそう苦笑して口を開いた。――するとスッ、と姿を見せる人影が。

「こっそり監視か。「エリート」も大変だな」

「……からかわないでくれよな、アルファスさん」

 姿を見せたのは、自他共に認めるエリート、フウラである。――要は、ライト……というよりも、レインフォルを監視していたのを、アルファスに気付かれた形。

「お前居なくてもある程度は予測はついたが、お前が居る事で確信に至った。あの女、魔王軍だな。しかも結構な立ち位置だ」

「ああ。……魔王軍でも一、二を争う。王妃様と互角にやり合ったって話だよ」

「化物じゃねえか。どうりでテストがやばかったわけだ」

 じゃあそれを相手にしたアルファスは……という考えを出す余裕は、今のフウラには無い。代わりに頭の中にあるのは。

「納得いってねえな? あの女に合格を出した俺と、あの女に武器を貸す王妃様に」

「それは」

「無理すんな。別にお前の考えは間違っちゃいねえし変えろとは俺は思わない。お前は魔王軍に家族を……大事な人達を全員殺されてる。恨んで当然だ。その恨みを捨てられる聖人君子なんてそう居るもんじゃねえ。寧ろその想いが今のお前を育てたんだ。お前はハインハウルス軍に必要な存在だ、否定の要素なんてこれっぽっちもない」

「…………」

「でもな。あいつはあいつで、間違ってないと俺は思う」

「勇者ボーイ……ライト君の事、買ってるんだな、本当に」

「どうだろうな。今更珍しい馬鹿正直だなって思うだけかもしれない。でも嫌いじゃないし、面倒見てやろうと思ってるのは事実だな。――考え方がいくつもあったっていいだろ。答えが一つじゃなくてもいいだろ。お前とは違う方法で、お前と同じゴールを目指す奴がいたって、いいだろ」

「……アルファスさん」

「お前の考えは否定しないが、でもライトの気持ちとやり方を多少汲んでやってもいいんじゃないか? お前は「エリート」だろ。信じてやれよ、後輩を」

 そう告げると、アルファスはポン、と軽くフウラの肩を叩き、店へと戻っていく。

「……ふーっ……」

 その後ろ姿を見送りながら、フウラは大きく息を吐く。自然と空を見上げながら、片手で髪の毛をわしゃわしゃとかいていた。――思い浮かべるのは色々な人の顔。その中に、もう二度と会えない人の顔もある。そして今しがた言われたアルファスの言葉が、何度も頭を過ぎった。

 俺は間違ってない。でも答えは一つじゃない。――わかっていたつもりではあったが。

「まだまだだな、俺も。――アルファスさんには勝てないぜ」

 そう呟くと、またフウラも城へと帰って行くのであった。

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