第233話 演者勇者と忠義の白騎士6
「やった……のか……?」
ライト、レナを除くライト騎士団全員での総攻撃。最後エカテリスの突貫により、黒騎士は大きく吹き飛ばされた。吹き飛ばされたと思われる先では衝撃で砂埃が舞い、視界が遮られどうなっているか確認出来ない。
「手応えはありましたわ。でも、油断は出来ない」
ザッ、とエカテリスが戻ってきてそう告げる。他の団員も警戒を怠らない。――直後、
「よもや……貴様ら如きに、ここまでされるとはな……」
ザッ、ザッ、と黒騎士が砂埃の先からゆっくりと姿を現した。――エカテリスの一撃で大きく腹部が、ニロフの攻撃により要所要所で腕、足の部分の甲冑が破壊され、浅黒い肌を見せた状態で。
「フン……予想外だったが……ある意味「作戦通り」というわけか」
そしてそう呟く。その呟きはリバールを除いた他の団員には届かない。――リバールとしても意味がわからない。ここでやられるのが作戦通り?
「天騎士の娘とその仲間達、か。その名前、刻ませて貰おう」
「あら、誤解しないで貰える? 私は確かに天騎士ヴァネッサの娘ですけど、部隊のリーダーは私ではありませんわ」
「……何だと?」
「部隊長はあの彼。勇者ライトですわ」
無理もない誤解をしていた黒騎士に対し、エカテリスがそう訂正。そこで初めて黒騎士がライトを見る。――何の実力も感じていなかったのでまったく見る気も今まで起きなかったのだ。所詮荷物持ちか何かだろうと思っていた。
「悪かったな俺が部隊長で。お察しの通り一番弱い俺が部隊長だよ」
相手が何を考えているかわかったので、ライトはそう黒騎士に告げ出す。
「でもな、お前にはわからないだろうけど、俺には皆と一緒に戦う理由がある。大切な人達の隣に立つ理由がある。守りたい物があるんだ。俺達のその想いが、今こうしてお前を追い詰めてるんだよ」
そして力強くそう言い切った。その想いは他の団員も同じ。全員がその言葉に鼓舞され、全員での勝利が頭を過ぎった。
「ふふふ……ハハハハ!」
だがその言葉に黒騎士は高らかに笑う。
「んー、勇者君の言葉馬鹿にするのは勝手だけど、それすればするほど、私達への挑発になるだけで――」
「馬鹿にしてるのはどちらだ……? 私を所詮、魔王軍の戦うしか能が無い存在だと言いたいわけか……? 私にも戦う理由がある……大切な人の隣に立つ理由がある……」
「……え?」
「守りたい物が……人が……いるんだよ!」
ズバァァン!――その言葉の直後、一気に迸る黒騎士の気迫。突然の事に一瞬全員が怯み遅れを取る。
「レナさん! マスターを――」
「わかってるって!」
その時、黒騎士はライトしか見ていなかった。サラフォン、ニロフ、リバールの三名が直ぐにそれぞれ魔法銃、魔法、忍術で遠距離攻撃。だがその遠距離攻撃を喰らいながら――そもそも避ける気も起きず、甲冑が損壊していてダメージになるのも気に留めず、剣を握りしめ、ライトへと突貫。――ガキィン!
「そんなヤケクソ突貫を通させるかっての!」
当然立ちはだかるのはレナ。黒騎士の大剣を、自らの剣に炎の魔力を込めて受け止める。だが、
(重っ……というか、こっちまったく見てない……!?)
ダメージがあるとはいえ、黒騎士が弱体化したわけではない。なのでその剣が重いのは当たり前なのだが、その予測を越える重たさ、それでいてその剣を抑えるレナを見ず、真っ直ぐにライトを見ている。その状態に、レナすら若干の焦りを覚える。
「いい御身分だな……その実力で自分は指を咥えているだけで、戦う理由があるなどと……! 自分達が正義、自分達だけに守りたい物があるなどと……! 貴様らさえ、ハインハウルスさえいなければ、あの方があんな想いに捉われる事など、苦しむ事など無かったというのに!」
黒騎士の叫び。いままで冷徹でどこまでも冷静だったのが嘘の様に、感情を剥き出しにして叫んでいた。
「指を咥えるだけにしか見えない人間が……守りたい物持ってて、何が悪いんだよ!」
その感情を一番に向けられたライトは、驚きよりも先に、気付けば反論に入っていた。本来だったらライトの実力なら黒騎士の威圧気迫を喰らえば最悪立ってもいられない。だがその威圧を気迫で跳ね返し、ライトも叫ぶ。
「ああそうだ、俺は何も出来なかった、だから何度も大切な人を守れずに傷付けた! 全部俺のせいだったよ! お前が何を守りたいかは知らないけど、守り切れないのを俺達のせいにするな! 守りたい物があるなら、言い訳なんて作らないで、立ち向かい続けなきゃいけなかったんだよ!」
『ごめんなさい』
『!? 何故……謝られるのですか』
『その決意をさせたのは私のせい。その甲冑を纏わせたのは私のせい。そうなのでしょう?』
『違います。これは――』
『守り切れないのを誰かのせいにはしたくないの。これ以上は背負わせない。言い訳なんてしない。これからは――私が、立ち向かってみせるから』
「あの方と同じ目で……あの方と同じ事を……貴様が、語るなぁぁ!」
「!? くっ……」
ズバァァン!――更に迸る気迫に、レナが押され始める。レナが押される事で危機が迫るライト。更なる援護に入ろうとする他の面々。防御を捨てている黒騎士。それぞれが紙一重の状態の正にその時だった。
「夢幻斬(むげんざん)」
ズバズバズバッ!――無数の遠距離斬撃が、一番近くにいたレナにすらかすらせず、見事に黒騎士を襲う。その時出来たほんの僅かな隙を使い、レナは後退。ライトを抱えるように移動、距離を取り安全を確保する。
そして当然、レナの援護に入ったのは、
「よく耐えたな。何だかんだで生きてなきゃ何の意味もないからな。――よくやった」
「フウラさん!」
先程までドゥルペと戦っていたフウラである。ニッ、と笑顔を見せ、ライト騎士団を賞賛。そのまま黒騎士の真正面に立ち、対峙する。
「にしても黒騎士か……大物も大物だなオイ。こんな所へ何しに来た?」
「貴様らと仲良く茶を飲みに、と言えば信じるのか?」
そう言いながらも黒騎士は再び地を蹴っていた。やはり狙うのはライト――
「まあ待て待て。困るんだよあっち狙われたら。もう少し俺と遊ぼうぜ」
ガキィン!――ライトだったのだが、その軌道を見抜いたフウラが再び黒騎士を止める。
「お前等、退却だ。こうなった以上一度戻る。ハインハウルス城まで一度引き返して全部やり直しだ、支度始めろ」
そう告げると、フウラは黒騎士に向かって突貫。そこから始まるフウラ対黒騎士。速度と夢幻斬で攻めるフウラだが、
「邪魔だ! 邪魔者は誰であろうと斬る……!」
「おっとっ……とっ! チェッ、やっぱり相性悪かったか」
半ば捨て身の攻撃を続ける黒騎士に対して、攻撃力が足りない。フウラが弱いのではない。今現在の黒騎士の攻撃力が異常なのだ。
それでもフウラは体制を崩さない。不利を素直に飲み込み、全力での剣技。ライト騎士団が体制を整える最中、自分以外に手を出させない。
「フウラさん! フウラさんはどうするんです!? 俺達ならまだ戦えます!」
一方でライト達としてもありがとうございます、じゃあお先に、という訳にもいかない。実際連携で黒騎士をあそこまで一度は追い詰めたのだ。加勢すれば、状況も変わると信じてその言葉を代表してライトが投げかける。
「俺? 安心しろ、お前達と一緒に退却だ」
が、返事は予想外の物だった。――え? 一緒に退却?
「お前等のエスコートがそもそも俺の今回の任務だからな。エリートは途中で任務を放棄しないぜ」
「――調子に乗るな! 今更背中を向けて逃げるのを見逃すとでも思うか!」
最もな怒りを黒騎士がぶつける。――ちなみにこの会話の最中も黒騎士とフウラは激しい戦闘中。
「ああうん、お前さんの怒りは最もだ。勿論これで終わりなんてわけない。――最高の相手をちゃんと用意したぜ」
「何……!?」
ガシィッ!――大きな衝突で、一旦フウラと黒騎士の間合いが開く。
「まったく、神出鬼没もいい所だわ。いちいち出向くこちらの身にもなって欲しい位よ」
そして、その声が聞こえてきた。ザッ、ザッ、と力強い足取りでその場に現れたのは、
「お母様……!」「王妃様……!」「ヴァネッサ様……!」「天騎士……!」
ハインハウルス軍総指揮、王妃、天騎士ヴァネッサだった。――自他共に認める黒騎士と決着をつけられるのに一番相応しい人物。フウラが合流前に魔道具を使って呼んだのだ。
「横入りでごめんなさいね。でもこの戦いだけは譲らせて。――フウラ君、退却と護衛、お願いね」
「了解。――行くぞお前等。王妃様が来てくれたとはいえのんびり動くわけにもいかないからな」
「は……はい!」
言われるがままに急ぎライト達は撤退の準備に入る。
「お母様!」
その間に、エカテリスがもう一度ヴァネッサを呼ぶ。
「黒騎士のあの腹部の損傷、エカテリスでしょう?」
そのまま次いで出かけたエカテリスの言葉を、ヴァネッサは自分の質問で上書きする。
「あ……はい。私とハルと二人で、ですわ」
「強くなったわね。――「帰ったら」その時の話、聞かせてね」
「!」
それは、遠回しな言い方にはなるが、この黒騎士との闘いを終えても、必ず帰るという意思表示。
「私だけじゃありませんわ。皆の力あってこそです。全員の活躍、聞いて欲しいですわ」
「わかった。ちゃんと聞いてあげる」
ヴァネッサは優しい笑みを見せて、再び黒騎士と対峙。――体制を立て直し、ライト騎士団とフウラが乗り込んだ馬車がその場を後にする。その場に残るヴァネッサと黒騎士。
「追わないで私に集中してくれるのね?」
「貴様が来た以上、他を倒して何の意味がある。貴様を倒して終わりだ」
黒騎士もヴァネッサの登場に冷静さを取り戻していた。実際ここでライト達を追った所で――そもそもヴァネッサが追わせてくれない。もう落ち着いてヴァネッサと戦う以外の選択肢がないのだ。
「覚えてる? これで合計二十三回目の直接対決よ」
「その回数に意味などない」
「そうね、結局毎回何かしら横槍なりなんなりが入って、二十三戦二十三分けですものね。――それも今日で終わりにしましょうか」
「そうだな」
ザッ、とお互い身構える。それは最強と最強の戦い。誰も邪魔出来ない圧倒的空間がそこに生まれる。
「ダメージ回復させる? ハンデみたいで嫌なんだけど」
「その施しを受けて私が喜ぶとでも?」
「それもそうね。それを素直に受けてたら偽者かもね。――始めましょう」
そして、二十四回目の戦いが――ヴァネッサと黒騎士の最後の戦いが、幕を開けたのだった。
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