第229話 演者勇者と忠義の白騎士2
「あ、お早うございます」
「おっ、お早う勇者ボーイ」
朝。ライトが部屋を出ると、早速昨日出会ったフウラと遭遇。
「勇者ボーイも朝飯か? 食堂なら一緒に行くか」
「はい」
というわけで、フウラと一緒に食堂へ向かう事に。
「にしても、お前は「勇者ボーイ」って呼ばれる事に嫌悪感出さないんだな。少しでも悪い反応があれば止めようかとも思ったけど」
「確かに個性的な呼び方だなとは思いましたけど、でもレナで慣れてるし、何より今は勇者だから、拒んだら任務放棄です」
更に言えば、フウラには不思議と言われても嫌な感じがしなかった。――流石エリート(?)と言えばいいのか。
「殊勝な心掛けだな」
「ちなみに嫌だって言ったらどうなります?」
「うーん……ハーレムボーイとかふしだらボーイとかぐへへへボーイとか」
「是非とも勇者ボーイでお願いします」
相変わらず傍から見たらそう感じてしまうらしい。最早ぐへへへボーイとか。――本当にどうしたらいいんだ。団員クビには絶対出来ないししたくないし。
「そういえば無知ですみません、フウラさんっていつから三大剣豪――夢幻騎士なんですか?」
「俺か? 俺はな……おっ、リバールお早う」
「お早うございます、フウラさん、ライト様」
「相変わらず綺麗な銀髪だ、朝から手入れとか大変だろ。これ、地方でしか手に入らないシャンプーな。髪にいいらしいぞ」
と、何処からともなくフウラはボトルを取り出す。
「まあ、頂いて宜しいんですか?」
「偶にしか会わないからな、お土産だ。どうせリバールの事だ、王女様の事も気にするだろ? だから二人分な」
「ありがとうございます、姫様にもお伝えしておきますね」
リバールは笑顔でお礼を言い、その場を去っていった。
「んで、俺の話だっけ……おっ、ソフィお早う」
「お早うございます、フウラさん、団長」
「昨日は直ぐに狂人化(バーサーク)してたから渡しそびれたけど、これお土産な。ハーブの種」
「! こちらでは手に入らない品ですね、よくご存じで」
再び何処からともなくフウラは袋を取り出すと、ソフィの顔がパッと明るくなる。実際珍しい品らしい。
「エリートは何でも知ってるんだぜ。育ったらハーブティー、御馳走してくれな」
「勿論です。ありがとうございます」
ソフィは笑顔でお礼を言い、その場を去っていった。
「んで、確か話が……おっ、知らない美人発見」
「え?」
視線の先にはフリージアがいた。ライトがいたのであちらと目が合う。
「お、あのガールは昨日見てないけど彼女もお前の知り合いか?」
「ああ、彼女は俺の」
「初めまして、フウラだ。今度のライト騎士団の任務に同行させて貰うんだ、宜しくな」
「いや説明を最後までさせない!?」
チラリ、とフリージアが何か言いたげにこちらを見たので、ライトはアイコンタクトでごめん大丈夫悪い人じゃない、と伝える。
「フリージアといいます。ライトの事、宜しくお願いします」
意図が伝わったか、冷静にフリージアはフウラに挨拶。
「心配いらないぜ。こう見えてエリートだから、責任持って同行させて貰うから。――にしても勇者ボーイ、幼馴染まで美人さんか。フリージアちゃん、今度食事でもどう? 君多分頭もいいな。俺は君のレベルに合わせたトークする自信があるぜ」
「お断りします、そういうのは結構ですので」
「オーケー、ハルちゃんタイプね。ま、気が向いたらいつでも声かけてくれな」
そう言って、若干呆気に取られているフリージアを残し、フウラは移動を再開。
「で、何だっけ? 昨今の少子化問題についてだっけ?」
「俺いつそんな話しました!?」
というわけで、この先もすれ違う人すれ違う人に挨拶するのでまったく会話にならないのであった。
「あっはっは、フウラさんらしいじゃん」
その日の午後。日課である剣の稽古をつけて貰いにアルファスの店へと移動中、ライトはレナに朝方の出来事を話していた。
「レナは? 口説かれた事あるの?」
「ん? 何、気になる? 気にしてくれる? 嫉妬してくれる?」
「ばっ、そんなんじゃなくて普通に気になっただけだ」
くいっ、と横から少し嬉しそうな笑顔で顔を覗き込むレナの表情に、少しだけドキッとするライト。――普段の言動からつい忘れがちだが、本当に美人なんだよなレナも。
「まー、結論から言えば口説かれたよ前線時代に。面倒だからお断りしたけど、でも嫌な口説かれ方じゃなかったね。そうでなきゃあれだけ手当たり次第に口説いて訴えられてるよ普通。私はある意味勇者君よりもハーレムに近いと思うよ、あの人」
「その前に俺が目指してますみたいなの前提にするの止めて!?」
目指してません本当に。目指したら帰ってこれない気がする。
「……ん? 何か騒がしくないか?」
と、そんな会話をしながら歩いていくと、何やら先の方で人だかりが。
「商店街での揉め事じゃん。セッテが関わってるに十万ペソ」
「アルファスさんみたいな事言うんじゃない。あと何その単位」
アルファスの店に行くにはこの大通りを進まなくてはいけない。通りながらチラリ、と様子を見てみると、
「このアマ! 俺様を誰だと思ってやがる!」
「知りません! 知りませんけど、商店街は貴方一人の物じゃないのは事実です!」
大柄な男と、小さい子供を連れている母親と、その母親を庇う様に立ちふさがるセッテが――
「勇者君当たった。倍の二十万ペソ頂戴」
「だからその単位何っていうか本当にセッテさんがいる!?」
本当に商店街のトラブルにセッテさん付き物なんだ……じゃなくて!
「レナ!」
「んー、まあ流石にここでスルーはないわな……ん?」
レナを促しセッテを助ける為に介入しようとした、その時だった。
「俺は傭兵団「暁の羽」の人間だぞ! お前等の様な下民共の為に日々剣を抜いて戦ってるんだ、その俺に対して何だその態度はぁ!」
「おー、じゃあエリートなのか。奇遇だな、俺もエリートだぞ」
はっはっは、と笑いながらレナとライトより先に介入する一人の影。緊張感なく現れたのは、
「フウラさん!?」
自他共に認めるエリート兼三大剣豪の一人、フウラであった。
「で? トラブルの発端は何だ?」
「その人、このお店に並んでるこの親子連れの前に横入りして、挙句にぶつかって来たっていちゃもんをつけてきてるんです!」
その当事者の親子であろう二人を庇いながら牙をむくセッテの説明。
「らしいぞ。事実か?」
「言っただろ、俺はこいつら下民共の為に戦ってやってるんだ、優遇されて当たり前なんだよ! それを――」
ズザザザザッ!――喋っている途中で鋭い音。
「え?」
「おーおー、自称エリートにしてはそんなに立派な体してないな。もっと鍛えろよもっと」
「な……何ぃぃぃ!? おおおお俺の服ぅ!?」
気付けば、男はパンツ一枚でそこに立っていた。男の周囲には服の跡と思われる生地が散乱している。
「あ、フウラさん使ったわ」
「どういう事?」
「得意技。訓練の時には見せてなかったやつよ」
というレナの説明で、フウラが何かしたのはわかったが、具体的に何をしたかまではまったくライトにはわからず。
「テメエ、何しやがった! 俺は――」
「おい自称優遇マン。そこまで言うなら、今後あの親子に外部からのトラブルで何かあった時、全責任が取れるのか?」
そしてフウラはその恰好でもまだ威勢を振るおうとする男に対し、ふっと厳しい表情でそう迫った。
「気安く戦ってやってるとか自分は偉いとか言うんじゃねえよ。背負う覚悟もない癖に」
「な……何だテメエ……何者だ……!?」
「俺か? 俺はエリートだよ。エリートだから、全部背負う覚悟があるぜ。お前みたいなクズと違ってな」
その言葉と共に、ズドン、と重い威圧が男を襲う。傍から見るその光景は、フウラなりのポリシーなのか、まるでフウラを別人の様に見せた。
圧倒的迫力に、男は戦意喪失。それを確認すると、フウラも男から離れる。
「フウラさーん、やらかしてるねぇ」
「ん? おお、レナに勇者ボーイか。奇遇だな」
はっはっは、と笑うフウラ。直ぐにあの大らかな感じに戻った。
「しかし見られたか。俺もまだまだだな、つい手が出ちゃったからな」
「でも服だけじゃん。私なんて速攻でそのままグサッブスッドブシュッですよ。勇者君を守る為なら仕方ない」
「護衛は嬉しいけど必要の無い責任を俺に押し付けないで貰えるかな!」
「勇者ボーイ、男なら女の為に責任をだな」
「あ、そうなの勇者君。じゃ末永く宜しくお願いします」
「意味が違ってくる!?」
と、意味のないやり取りは兎も角。
「あ、あの、ありがとうございました」
親子連れの母親、そして何よりセッテがフウラに対してお礼を言う。
「セッテさん、気持ちはわかるけど、無暗に助けに入ったら危ないよ……それこそフロウがアルファスさんを呼ばないと」
「そうですよね……すみません、つい」
ライトに指摘され、少しシュンとなるセッテ。
「まあまあ、そう責めるな勇者ボーイ。結果として助けられたし。――知り合いなのか?」
「アルファスさんのお店の従業員さんですよ」
「セッテといいます」
「おー、アルファスさんの。――俺はフウラ。アルファスさんとはアルファスさんの軍時代に一時期一緒に戦った事もある仲だ。今日も実は剣のメンテを頼もうと思ってた所だ。――にしても、こんなに綺麗な人をアルファスさんがねえ」
「って思うでしょ? 実はお店にもう一人弟子兼従業員の美女が。最近は勇者君のハーレムルートにも興味深々よ」
「どさくさに紛れて後半が全部嘘!? 直ぐに俺を巻き込むんじゃない!」
と、そんな馬鹿なやり取りを挟んでいる一方で、
「アルファスさんの……軍、時代……」
セッテが何故かまじまじとフウラを見始めた。まるで何かを探るような、そんな目で――
「? 俺の顔に何かあるか?」
「あ、いえ、何でもありません! アルファスさんのお店ですよね、一緒に行きましょう」
というわけで、ライト、レナ、フウラ、セッテの四人でアルファスの店へと向かうのであった。
アルファスの店到着後、ライトは先に裏庭へ。アルファスはフウラから愛用の特殊二刀流を預かる。
「つってもほとんどメンテなんて必要ねえだろ夢幻斬(むげんざん)使ってれば」
「ちょっとは使ったちょっとは。昨日も勇者ボーイの騎士団の皆と模擬戦やって直接刃当てたし」
「まあ一応見てやるよ」
そう言ってアルファスは剣を鞘に仕舞い、さて自分も支度して裏庭へ、と動こうとすると。
「アルファスさん。勇者ボーイ……ライト君とも模擬戦したんだけど、彼に「ミラージュ」教えたんだな」
その指摘に、アルファスの足が一瞬ピタリ、と止まる。
「……教えたって言っても、まだ触り程度だよ。実際マスターする可能性は低い」
「でも教える気になった」
「選ばせたんだよ。――実際「ミラージュ」は、あいつの実力であいつの目的に辿り着くには、一番の方法だった。だから選ばせた。その先にある可能性も、提示した上で、な」
「……そう、か」
その先にある可能性。フウラもそれを知っている。アルファスの想いを、知っている。
「あいつらが間違ってたとは言わないけどさ。俺は、ライト君に「ミラージュ」を教えるの、間違ってないと思うぜ。あいつならきっと、アルファスさんの想いを汲んだ上で使ってくれる」
「会って数日でよくまあ断言出来るな」
「エリートなんで」
はっはっは、とフウラは笑う。――本当にエリートだからある意味困るわ、とアルファスは内心で溜め息。
「ただいま……あ、いらっしゃいませ」
と、そこで買い物から帰って来たフロウが店に。
「あー、客だがそういう客じゃねえ。知り合い系統だ」
「お、君がもう一人の美女従業員か。俺フウラ。よかったら今度食事でもどう? いい店知ってるんだ。何せエリートなんで」
「エリートなら少しは自重しろ」
本当に変わらない奴、とアルファスはそんなフウラを見て苦笑するのだった。
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