第222話 演者勇者と「あこがれのゆうしゃさま」27
こちらに気付いておいて、先制攻撃もせず、ただ手招きする謎の仮面(ニロフ)。
(罠……!? 狙いは……!?)
タックの背中に冷や汗が流れる。――敵意は感じられない。そもそも仮面をつけているので表情も伺えない。だが罠らしき魔力も感じられない。
「よく出来た召喚術です。我は当時現場にはいませんでしたが、これを同時に多数使用していたとか。となると、恐らくこれがまだ完成形ではないはず。意見を聞きたい所でしてなあ」
だがそのタックの思惑など知った事かと言わんばかりに、興味本位の質問をするニロフ。
(ただの研究員なのか……!? 本当に……!?)
何にしろ、もう後に退ける様な状態ではない。選択肢など、あって無い様な物。ならば、
「デジフさん! 無理矢理にでも潰します!」
「う……うん!」
タック、再び球体をデジフに向かって使う。デジフとしてもどうしたらいいかわからない状態だったので、信用するタックの言葉の言う通りにするしかなく、
「うわああああああ!」
赤いオーラを纏い、突貫。無防備な二人に向かって――ズバァン!
「無粋だなぁ! ウチの魔導士が紳士に話しかけて来てんのにその殺意ぃ!」
「!?」
そのデジフに真正面からぶつかり合う様に姿を見せたのは、狂人化(バーサーク)済みソフィ。ソーイの護衛として近くに待機していた形である。
「デジフさん! 無視をしてでも突っ込んで下さい!」
「任せて! タック君の為に! うわあああ!」
タックの為にと気合を入れ直し、ソフィの攻撃力さえも押し退けようとするデジフ。
「ソフィ殿、一対一を邪魔されるのはソフィ殿からしたら余計かもしれませぬが、向こうは魔道具による増強。援護させて下され」
「気にすんな! こいつらの殺意は戦いの為じゃねえ! アタシを見てねえ人間に卑怯もクソもねえよ!」
一方で補助魔法でニロフがソフィの援護に入る。ソフィの体に、斧に、ニロフの魔力が付与され、
「うおおおおぉぉぉぉ!」
「っ……!?」
今まで純粋な攻撃力のぶつかり合いで負け知らず、そしてそれを利用して突破してきたデジフが、ソフィによってついに止まる。負けはしていないが突破出来ない。それはデジフの攻撃力頼みな所もあったタックとしては致命的。
(あの援護を……潰さないと……!)
勿論黙って見ているわけにもいかない。ニロフは研究と援護しか出来ないと「思い込み」、隙を突いてタックはニロフへ攻撃を仕掛ける。剣を持ち直し、素早く切り掛かり――カキィン!
「この状態で援護を潰す、当然の判断ですわ。そしてそれに気付いた以上、防ぐのも当然の判断」
「っ!」
振り下ろした剣を、槍で颯爽と防ぐその姿。エカテリスである。――二、三度のぶつかり合いで、タックは自ら間合いを取る。
「あら、もっと踏み込んで来て下さっても大丈夫ですのよ。その程度――」
「姫君、遠慮というわけではなさそうですぞ」
直後、エカテリスの周囲に三体、大型の虫の幼虫を彷彿させるモンスターが召喚される。――ぶつかり合いの時に、タックが周囲に使用したのだ。……だが、
「サンダーストーム・バースト!」
バリバリバリッ!――強力な電撃魔法が幼虫モンスターに降りかかり、あっと言う間に黒焦げになる。
「ごめんなさい王女様大丈夫でしたか!? 私虫嫌いで、手加減とか」
「大丈夫、私には一切届いてません、見事なコントロールですわ、ネレイザ」
その攻撃魔法を放ち、姿を見せたのはネレイザ。実際結構な近辺にいたエカテリスには微塵も届いていない、綺麗なコントロール、尚且つ高威力なレベルの高い攻撃魔法だった。――エカテリスは笑顔で賞賛を送る。
(クソッ、次から次へと……一体何人……!?)
「とりあえず私達が最後だよー」
「!?」
そして、タックの焦りの表情にそうツッコミを入れながら現れる人影。
「レナは俺だけじゃなくて他の人の心も読んでツッコミ入れるのか……」
「いやあれは流石に分かり易かったもん」
レナ、そして隣にライト。
「まあでも実際俺達で最後。――勿論入り口から順番に遭遇したのも俺達の仲間で、それを合わせて、だけど」
ズバァァン!――ライトのその言葉の直後、ソフィとデジフのぶつかり合いがいったん終わり間合いが開き、デジフがタックの所に、ソフィがソーイの所に。
タックはそこで気付く。――位置はバラバラだが、逆に言えば今から何処へ移動しようとも囲まれている状態。つまり、
(最初から……ここへ、誘導させられていた……のか……!?)
ということである。逃げ場がない。
「それだけじゃないよ。ここに来るまでに、色々使ったでしょ? 例えば奥の手、とか」
「!」
「やっぱり人の心読んでるじゃないか……」
「じゃあ勇者君の心も読んであげよう。――「レナ格好いいな、何だかオラ興奮してきたぞ、はぁはぁ」」
「寧ろ敵の心が読める代償で俺の心が読めなくなってる!? 何その一人称!? いつ使った!?」
レナとライトの夫婦漫才(!)は兎も角、レナの指摘な完全にビンゴであった。ここに来るまでに用意しておいた大半の魔道具を使わされた。特に奥の手だった転送用まで使わされた。デジフの強化用の道具もあと僅か、しかも使ってもソフィに喰い止められる始末。つまり、
「確実に……俺達を、捕まえる為に……小出しにしてきたのか……!」
ということであった。――最初から少しずつ人数を配備し、魔道具も少しずつ消費。引き返せない所まで来た所で、戦力を多めに投入してきた。最初からこれだけの戦力が配備されていると知っていたら強引に突入などしていない。
「タ、タック君、どうしよう、どうする? ヤバいよね、これ。本当にヤバいって」
焦るデジフ。実際タックも焦りが走っていた。完全にしてやられた形。最初に遭遇しているドライブ、サラフォン、ハル、リバールも直に合流されてしまうだろう。
「どうするも何も、そっちに選択肢なんてほぼ無いでしょ。観念するか無駄な抵抗して散るか――」
「その前に確認したい事がある」
レナの言葉を遮る様に、ライトが一歩前に出る。
「お前達の目的はこの特殊な魔方陣で、前回侵入して荒らしたのもお前達で――その時、ここにいた研究員と戦闘をしたのも二人か?」
「ああ、貴方達、あの女の知り合いなんだ!」
ライトの問いに先に答えたのはデジフだった。そして、
「もう死んだ? あの女」
「っ!」
平然と、そう尋ねて来た。
「あの女ヤバいよね。タック君を虐めておいたから贖罪させようと思ったら、自分自身を凍らせて何も出来なくさせてさ。折角タック君に色々楽しんで貰おうと思ったのに、つまんない」
ここでライト達は初めて状況を察する。――フリージア対タック、デジフの二対一。多勢に無勢、フリージアは敗れたが、勝敗が決まった後に二人はフリージアに追い打ちをかけた。結果フリージアは一か八か、する必要の無い自分自身への氷魔法で終わりにした。――死んだ方がマシ。「そういう事」を、勝負が決まった後で、二人はフリージアにやろうとしていた。
その事実がわかった時、大小あれどライト騎士団の面々には怒りが当然走った。各々武器を握り直し、タックとデジフを見る。
「勇者君どうする? ご希望なら、あいつら二、三発殴らせてあげるけど」
そして、一番怒りに震えているであろうライトにレナはそう提案。――でもライトの怒りが大きいのは、
(ジア……俺が……俺が、もっとしっかりしてれば……!)
タックとデジフに対する怒りと同じ位、自分自身に対する怒りがあったからだった。――大きくギュッ、と数秒間拳を震わせながら握ると、大きく息を吐いて、その握り拳を広げる。
「ありがとう。――でも、それをした所で何が変わるわけじゃない。結果報告なら、普通にあいつらを捕縛するだけで十分だ。私怨を混ぜたら、あいつらと変わらない」
そしてその結論をレナに告げる。その返事を聞いてレナはポン、と優しくライトの肩を一度叩くと、
「皆も聞こえた? 勇者君の意思だよ、一応殺すなってさ」
そう他の仲間達に告げる。――あれ、俺殺す殺さないの話したっけ、とライトは思ったが、
「わかりましたわ。ライト騎士団、ハインハウルス軍として、恥じる事のない戦いをします」
「マスターが我慢出来るなら私も我慢するわ。一番辛いのはマスターなんだから」
「任せとけ団長、生かしてアタシ達の、団長の強さをとことんこいつ等に教え込んでやるぜ!」
「ご安心あれ。その程度の調節も出来ずに世界一の魔導士など名乗れませぬからな」
仲間達には一応意思は伝わった様で、全員が気を引き締め直した。――ま、まあいいか。
「タック君、どうしよう……! あの女の復讐で、今度は私があんな目やこんな目に……! 私、タック君以外にそんな事をさせてあげるつもりはないのに……!」
「その心配はいらないですよ、向こうも自分もその気はゼロですから。――それにまだ、「もう一つだけ」打開案がありますから」
「そうなの!? 流石タック君!」
「はい。――デジフさん、後は任せました」
「え?」
タックはそうデジフに言い残すと、再び剣を握り直し、地を蹴る。――キィン!
「ハッ、よりによってアタシ狙いか! いい根性してんなぁ!」
そしてソフィに向かって突貫、剣を振るった。勿論ソフィは斧で防ぐ。――キィン、カァン、ギィン!
「剣筋は悪かねえ。でもお前からは戦士としてのオーラが微塵も感じ取れねえ。戦う意味も考えないヤローの剣に、アタシの斧が負けるわけねえんだよ!」
「っ……がはっ」
ズバッ!――そのソフィの言葉通り、タックの剣はソフィには敵わない。数合のぶつかり合いの後、ソフィの一振りが綺麗にタックに入る。タックはそのままその場に倒れた。
「タ……タックくーん!」
「安心しろ、殺しちゃいねえ。団長に感謝するんだな――」
「あ……あ……あ……あああああああぁぁぁぁ!」
「!?」
そしてその光景を見て、デジフの暴走スイッチが入った。目の前でタックが倒され、自我のコントロールを失う。引き換えに膨れ上がる魔力。それはタックが魔道具で強化させた時よりも遥かに強力な状態。
「お前達……お前達……全員……許さないぃぃぃぃぃ!」
まるでモンスターの様に叫ぶデジフ。
「ごめん勇者君、私の読みは外れた。――奥の手、隠してたみたい」
そう。タックはフリージアの時の様に自らが倒れる事で、デジフが暴走する事を読んでいたのだった。――本当の決戦の火蓋が、上がろうとしていた。
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