第215話 演者勇者と「あこがれのゆうしゃさま」20
「ジアは、氷の魔法が一番得意なのか?」
まだライトとフリージアが一緒に行動していた頃。フリージアの魔法がひと際レベルが高いのはわかるが、感覚的に氷の魔法が多い。なのでふとライトは気になって尋ねてみる事に。
「別に意識したこと無かったけど……確かに使い易いかもしれない。……えーっと」
剣を握り、意識を集中。威力を絶妙に調節すると――バリバリッ!
「おお」
氷の剣が出来上がった。フリージアも氷の剣を作るのはこの時が初めての挑戦だった。
「フリージア、格好いいな! ライトの隣でクールで強くて、しかもその氷の剣! 格好いい名前つけてやろうか! 「氷剣姫(ひょうけんひ)」なんてどうだ?」
「五月蠅い変な名前つけるな」
ヒュン。――そのままその氷の剣を振り、波動を飛ばし、命名者の、
「ぐへえ!」
「ポーン!」
ポンにクリーンヒットさせる(流石に手加減した)。
「でも、俺も格好いいと思うぞ。ジアに似合ってる。凄い人になるとそういう風に異名で呼ばれる人もいるしな」
「ならライトは呼んでいい」
「命名者俺ですけど! 何でライトは良くて俺は駄目なんだよ!?」
「あんたがライトじゃないから」
「そうかなら仕方ない!」
「それでいいのか、ポン……」
それが、氷の剣を扱うフリージアの戦闘スタイルの、始まりであった。そして……
纏う氷のオーラ。握られた氷の剣。冷たく見据えるその瞳。
(この状況、二対一がどうしてもね……だからまず)
タッ。――そして冷静な思考を巡らしステップを踏み、
「手っ取り早く、一人は潰す」
氷の剣をしならせる様に振り、フリージアが攻撃開始。――キィン!
「くっ……」
狙ったのはタック。どちらを先に「潰す」か考えた時、一人では指揮系統的に何も出来なさそうなデジフを残した方が色々やり易い。その判断からである。
(見た目通りの能力アップかよ……!)
勿論素直にやられるわけにはいかないタックも応戦するが、防戦一方、フリージアの猛攻に追い込まれていく。
「タック君!」
更にだからと言って見てるだけというわけでは勿論いかないデジフ。魔力を捻り、高威力の炎の魔法を放つ。
「ごめんなさい、ちょっと「二人きり」になりたいので」
「!?」
バリバリバリッ!――それに対し、フリージアは氷のドームを作り上げる。フリージアとタック、「二人分」の広さのドームを作り、デジフの魔法を防いだ。
「タック君、大丈夫!? タック君!」
デジフも状況を理解し、直ぐに自ら魔力を込めてドームを攻撃するが、簡単に打破出来そうにない。
「ねえお願い、タック君を苛めないで! 私達が悪かったから! 降参します! すみませんでした!」
どんどんどん。――氷のドームの外で、そのドームを叩きながらそう懇願する声が聞こえてくる。
「と、外の方が仰ってますけど、どうします?」
「しませんよ。面子丸潰れですから」
はぁ、とタックが溜め息。――今どんな指示を出しても無意味だろうなあの人。
「タック君も謝ろう? 一緒に謝ろう? タック君がやられちゃうなんて考えられない!」
どんどんどん。――デジフの必死の説得は続く。
「愛されてますね」
「仕事柄一緒にいるだけで正直ウザいだけですが」
本当にそう思っているのだろう、タックの表情に表れている。
「人に愛されるのが当たり前だとは思わない方がいいですよ。大切にしてあげたらどうです?」
「選ぶ権利位あります。というか初対面で綺麗で選り取り見取りだろう貴女にそんな説教を受けたくはない」
「選り取り見取り、か」
確かに生きて来た中で、言い寄って来た人間は少なくは無い。でも、皆自分の外見しか見ていない。自分の性格など見ていない。――最初に、心から自分を見てくれたのは。
「――本当に見て欲しいのは、一人だけ」
一瞬過ぎったその顔を直ぐに消し、フリージアは再び目前に集中。――戦闘が再開される。
「ちっ!」
ヒュン、ヒュン、カキィン!――タックの剣とフリージアの氷剣がぶつかり合う。防戦一方の中、タックは必死に打破の方法を探る。
タックは決して弱くはない。速度を生かした剣術はレベルも高く、十分強者と呼べる存在だろう。
だがフリージアがタックのペースに持ち込まれることを完全に防いでいる。舞台を氷の空間にし、自らの有利な状態にする。二対一になれば不利になるのを見越して、相手を分断。その迅速な判断と実行速度が、戦局をフリージア有利に傾ける。
時折鞭の様にしなるフリージアの氷剣が止まる事無くタックを追い詰める。後がないタック。そして。
「はあああああああ!」
ガシャバリィン!――戦局は動いた。「外」から動いた。外で待ちぼうけになっていたデジフが、全力も全力、兎に角フリージアが作ったドームを破壊する為に、威力に全振りした炎の魔法を放つ。
結果、ドームは壊れた。だが――
「予測通り」
「……え?」
――その展開までも、フリージアの予定調和だった。
「さ、受け止めてあげて下さい」
「!?」
バリバリッ!――威力重視だった為、ドームを破壊しても勢いは止まらず、デジフの魔法はタックと戦闘中のフリージアに向かって行く。だがフリージアの前に居たのは、
「な……待て、待ってくれ!」
「え……タック君!?」
戦闘のペースを握られ、流れでその場に移動させられたタックであった。素早くフリージアに足元を凍らされ、移動も出来ない。
「ぐああああああ!」
ボファアアアアア!――タック、避ける事も出来ず、真正面から威力重視のデジフの魔法を喰らい、燃え上がり、その場に倒れた。
「タック君……タック君っ!」
「あ……ぐ……っ」
デジフが急いで駆け寄る。息はあるが、致命的なダメージを負ってしまった。――「デジフの攻撃」によって。
「貴女は降参したがってましたが、そちらは降参してくれなかったのでやむを得ず」
警戒を解く事無く、そう告げながら剣先をフリージアはデジフに向ける。――懸念材料だった二対一の可能性を潰した。フリージアの作戦勝ちである。これでそう簡単に負けることはなくなった。
「……さない」
そう思っていた。流石のフリージアさえも。――だが。
「許さない……許さない……許さない……! タック君を……傷付ける奴は……許さないぃぃぃぃぃ!」
「!?」
ズバァァン!――瞬間、デジフから一気に放出される膨大な魔力。その威力、先ほどとはまるで別人。
「がああああああ!」
デジフ、その膨大な魔力を纏ったまま、全力でフリージアに向けて突貫、タックル。動き自体は単純なのだが、
(っ、早い……!)
速度が段違いだった。フリージアもギリギリのところで避けるが――ガシッ!
「な――っ!?」
フリージアに手は届かなかったが、フリージアの持っていた氷剣に手は届いた。手に魔力を集中させ、刃を直接掴む。当然フリージアとしては剣を直接握られるのは予想外。
はいそうですかで刃を握って平気な品ではない。当然だが、剣の刃であり、更に強力な氷の魔力。普通握れば腕がしばらく使用不可能になる位のダメージを負うはず。――だがデジフにその様子は見られない。
「うわああああああ!」
デジフはそのままフリージアの氷剣を直接持ち上げ、地面に叩き付ける。
「ぐ……っ……!」
即ち、フリージアも一緒に地面に叩き付けられる、という事である。受け身を取る余裕もなく二度三度叩き付けられると、
「潰れろぉぉぉぉ!」
ブォン、ドガガッ!――そのままデジフに思いっきり投げ飛ばされ、シミュレーションルーム内のバリゲードも突き破り、壁に叩き付けられる。ダメージは重い。
「――アイシクル・メテオ」
一方でそのまま黙ってるフリージアでもない。叩き付けられた先で直ぐに魔法発動。巨大な氷の隕石をデジフに向けて降らせる。――ガシャァン!
「!? 嘘でしょ……!?」
魔法は見事にクリーンヒット。威力の高い魔法を使ったのだが……デジフは、仁王立ちでそこに立っていた。
「こんな痛み……タック君の痛みに比べたら……!」
ダメージは入っている。相応のダメージは入っている。でもそれ以上に、デジフの「基礎体力」と「基礎魔力」が尋常じゃなかった。普通なら大半が倒せる攻撃でも、今の彼女にしてみれば小手先の攻撃程度。
知力、判断力、魔力具現化、技術力、基礎速度、etc...どれもこれもフリージアが勝っている。デジフが勝っているのはその基礎体力と基礎魔力だけ。
だが圧倒的体力を前に、フリージアは成す術がなくなる。どれだけ攻撃を放っても、デジフは立っている。そして膨大な魔力での反撃。フリージアも必死の抵抗を見せ、何度かぶつかり合うものの、相手の膨大な体力と攻撃力を前に確実に削られていき、
「が……はっ……」
ついにデジフを前にして、倒れてしまった。必死に立ち上がろうとするが、ダメージが重く、体が上手く動かせない。
「私、貴女を許さない。タック君に償って貰わないと」
そんなフリージアにデジフは近付き、しゃがみ込み、その顔を見下ろす。
「私、タック君は幸せになって欲しいの。本当はね、私が幸せにしてあげられたらいいんだけど、私不細工だし、食べてばっかりで太ってるし、タック君の隣には相応しくない。タック君に喜んで貰えない」
そう言いながら、フリージアが何とか持とうとした氷剣を拾い上げ――バキィン!
「力はあっても、タック君はそれも喜んではくれない」
「っ……」
そのまま両手で真っ二つにへし折った。折れた剣を明後日の方向に投げ捨て、デジフは続ける。
「貴女綺麗よね。羨ましい。スタイルもいいし、私が貴女みたいな外見だったら、タック君も喜んでくれただろうな。――そうだ!」
何かを閃いたらしく、デジフは重症のタックを引きずるように半ば強引にフリージアの前に連れてくる。
「私、タック君の幸せな顔を見てるだけで満足なの! だから、貴女がタック君を喜ばせてあげて!」
「何を……言って……ぐうっ!」
デジフはそのまま連れてきたタックをその場に「置く」と、今度はフリージアを無理矢理仰向けにし、両手首を掴んで大の字に寝かせ、その手首に思いっきり炎の魔力を込め鎖を作り逃げられない様にする。
「さあタック君、この人、好きにしていいよ! タック君だって男の子だもん、嫌いじゃないでしょ?」
「う……」
一人暴走するデジフ。タックも意味はわかるが、ダメージが重くそれどころじゃない。
「……狂ってる」
方や逃げられないフリージア。でも冷静に、その言葉をデジフに投げかけた。
「貴女のそれは自己満足。愛じゃない。それの何が楽しいの? それで本当に感謝して貰えるとでも思ってるの?」
「それは――」
「自分が不細工だから? 太ってるから? そうじゃない。貴女が誰かの横に立つのに相応しくないのは、貴女の心が歪んでるから。思い違いもいい所」
「っ……五月蠅い黙れっ!」
パァン!――デジフがフリージアの頬に平手打ち。だがぶたれてもフリージアは冷たい視線を外さない。
「誰が貴女に私の評価を頼んだの!? 私は幸せなの、タック君が見れたら幸せなの! タック君の幸せな顔が、私の幸せなの!」
言葉とは裏腹に、表情を歪ませるデジフ。フリージアの言葉が、心に突き刺さっている表れであった。
「もういい。貴女と話していても意味がない。――さあタック君、始めよう?」
再びデジフはタックを抱えると、無理矢理フリージアの上に馬乗りにさせる。
「疲れてて一人で出来ない? なら私が手伝ってあげるから! そうだね、まずはこの人をもっと弱らせよう!」
そう言って自分は抵抗不可なフリージアに向けて、魔力を込める。タックの為に、「もっと弱らせる」為に。
「さあタック君。ちょっとだけ待っててね、直ぐに気持ちよくなれるから!」
そして、本来の目的など一切忘れて、デジフは、タックは……フリージアは――
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