第211話 演者勇者と「あこがれのゆうしゃさま」16
「……っ!」
ガバッ!――フリージアは目が覚めて体を起こした。時計を見れば朝、いつもの起きる時間。だから目が覚めるのは別段問題ないのだが、
「……記憶が無い」
昨日、会食という名目の合コンに国王権限で呼び出され、〇ッキーゲームをしてしばらくした辺りからの記憶が無い。とりあえずと思って飲み続けたのがマズかったか。
どうやって部屋に帰ったのか。記憶が無い間変な事はしていないか。――現場にいた人間に確認を取る以外知る方法は無い。
「ソーイ、起きてる? 入るから」
というわけで、早速その現場にいた人間の部屋に突撃。
「ん……んんー? フリージア……? 早いよ……もうちょっと寝たい……」
「あたしの質問に答えてくれたら二度寝していいから。――昨日、途中から記憶が無い」
「ああ、その事……? ふぁーあ」
ソーイも欠伸をしながら体を起こしてベッドに腰かける形となった。
「何処まで覚えてるの?」
「あんたに〇ッキーゲームやらされて少しした辺りまで」
「あー、一人で黙々と飲んでたもんね。しばらくしたらライトさんに詰め寄って」
「……詰め寄ったの?」
「許して欲しかったらあたしを満足させなさいって言って上着を脱いで抱き着いて」
「え」
「そして二人は夜の街へと消えて行きました」
「……ちょっと待って」
フリージア、急ぎ振り返り、上下の下着の着用具合、そして体の異変具合をチェック。
「とかいう展開だったら凄かったんだけどそんな事はなくて」
「あんたは今あたしを怒らせた許さない」
そしてもう一度振り返った時フリージアは鬼の形相だった。
「あーもうごめんごめん、この位の冗談は言わせてよ、起きてあげてるんだから」
「次は無いからね。――それで実際は?」
「すっかり寝ちゃったフリージアを気遣って、ライトさんが解散しようって言って合コンは解散。フリージアは微塵も起きないからライトさんが負ぶってここまで送ってくれた」
「それは本当?」
「うん。まあでも送り狼にはなってないよ。私もレナさんも一緒だったから」
「……そう」
言われて少しだけ思い出した。状況を思い出したわけではないが、でも何処か懐かしい感覚を感じていた気がする。――あれはきっと。
「……道中、ライトさんと少し話したよ」
「そう」
「詳しい事は聞いてない。でもライトさん、自分が悪いんだって。許されない事をしたって」
「……そう」
「フリージア的には、もう絶対許してあげられないの? ライトさん、多分本気でそう思ってたし、今思い返しても悪い人じゃ――」
「あんたには関係無い」
そう強引に言葉を切らして気付いた。ついきつく言ってしまった。
「……ごめん。別にあんたを信用してないとか、嫌いとか、そういうのじゃないから。ただ」
「わかってる。こっちこそ、踏み込んじゃってごめん」
ソーイはそう言って笑ってくれた。フリージアは大きく息を吐く。――駄目だな、あたし。
「教えてくれてありがとう。二度寝していいよ」
そう言って、ソーイの部屋を後に――
「きっとフリージアは、最後まで一人で抱え込む」
――しようとした所で、後ろからその声が。
「だから私は何も出来ない。でも私はフリージアを信頼してるからね。だから、フリージアの選択がどんな物であっても、それを応援するよ」
「ソーイ」
「うん?」
「もうちょっと、人を見る目を鍛えた方がいい。あたしはそんな立派な人間じゃない」
「じゃお互い様だ。私だってそんな立派な人間じゃないぜ」
もう一度だけチラリと振り返ると、優しい笑顔でベッドに腰かけるソーイの姿。――あたしには勿体ない位、いい奴。
「……ありがと」
「どういたしまして」
フリージアはそんなソーイに精一杯のお礼を言って、部屋を今度こそ後にするのだった。
「うおお……こんな広い裏庭があればあんなことやこんなことし放題……」
「それもしかして俺の真似じゃないだろうな」
「ちなみに……あんなことやこんなこと、具体的には……」
「それもしかして俺の真似じゃないだろうな!?」
ちなみに前者がレナ、後者のツッコミがライトである。――もしかして俺、あんな風なんだろうか。
さて日は少し移り、舞台は再びハインハウルス魔術研究所。例の魔法陣の解析も更に進み、何と仮で召喚してみるのでライト騎士団が呼ばれた形。研究所の裏手に広いシミュレーションルームがあり、それを見たレナがライトの物真似をした、というわけである。
「改めまして、今日も来て頂いてありがとうございます」
担当は引き続きフリージアとソーイ。フリージアの挨拶で始まった。流石にもう逃げる様子は無かった。……ライトと目を合わせてはくれなかったが。
「先日の通達通りですが、再度説明させて頂きます。ご依頼頂いている魔法陣の解析ですが、召喚を再現する所までは出来ました。ですので、実際に体験された皆さんには再現度の確認をして頂きたいのです。その結果次第で、この魔法陣の考案者、根本等の解析が更に進められると思います」
「えーっと、事件現場にいた皆さん、戦闘になったんですよね? 手っ取り早く戦って頂いてオッケーです! シミュレーションルームでは安全を期しているので、事故の心配もございません! まあ皆さんの実力なら問題ないでしょうけど」
そう言って、ソーイが魔法陣の支度を始めた。流石にあの事件の時の様に突然縦横無尽に出す事は出来ない様子。
「ではまず――」
どなたからやりますか、順番とか決めて貰えますか、とソーイが確認をしようとした所で、綺麗な挙手をする、綺麗な手が。
「騎士団でアタッカーを務めています、ソフィといいます。現場で遭遇、戦闘済みです。万が一の事を考えて王女様、団長――勇者様を一番手にするわけにはいきません。なので初手はアタシが」
ソフィである。穏やかに、淑女のまま、そう切り出して――
「……ソフィ」
「はい団長」
「無理しなくていい。既に一人称が変わってる」
――いたが、身内には既に狂人化(バーサーク)済みなのがバレていたり。
「えーっと……その」
「変に取り繕わなくても、ちゃんと最初はソフィにするつもりでいたから」
要は直ぐにでも戦ってみたい、でも我侭ってライトを困らせたくない、の葛藤の結果であった。
「あう……済まねえ団長、ほら、団長にも色々あるから、ぐいぐい行ったら駄目だと思って」
「それはそれ、これはこれ。ソフィは信頼してるから。――トップバッター、頼んだよ」
「わかった。任せてくれ」
というわけで、一番手はソフィ。斧を軽く振り、体を動かし、
「よっしゃ、いつでもいいぜ」
スッ、と身構え、準備完了の合図をソーイに出す。他は少し離れて見学する形に。
「では行きますね!」
ソーイが用意された魔法陣に対して召喚再現用に作られたか、小さいボールを投げ込むと、カッ、と魔法陣が光り、
「グルルゥゥゥゥ……」
あの日現場で見た、二足歩行の獣型モンスターが召喚された。
「っらあ!」
ズバシュッ!――そしてモンスターは真っ二つになって消えた。召喚型なのでやられると消えて綺麗に無くなる。
「おお……どうですか、再現度は!」
「弱えな。これの何倍か強くしてくれねえと訓練にならない」
「あ、いえ、すみません、訓練して欲しいわけじゃなくて」
「とりあえずこれ、後連続で百体頼むわ……っておい、ハル何だよ、おい!」
弱い相手に興味がないソフィ。すっかり目的を履き違えた所でハルに捕まりずるずる引きずられて退場。――ライトとしては一応想定内。まずは召喚の具合と見た目の再現度の確認は出来た。細かい感想は他の皆に頼めば。
というわけで、そこからは順序よく展開していく。
「風よ、我が槍に纏いし力となれ!」
二番手エカテリス、モンスターを瞬殺。
「氷激立仙(ひょうげきりゅうせん)」
三番手リバール、モンスターを瞬殺。
「はあああっ!」
四番手ハル、モンスターを瞬殺。
「えーっと、多分これ位の爆発で」
五番手サラフォン、モンスターを瞬殺。
「すぅ……すぅ……」
「寝るな起きろー!」
「いやだってもうこれ私がやる必要ないでしょ」
六番手レナ、昼寝。――の後、促されモンスターを瞬殺。
「あのー、皆さんもう少し、こう、あれです! 何かないですか!」
そしてソーイは笑っているが困っていた。確かに全員瞬殺じゃ何のテストにもならない。横のフリージアも軽く溜め息。
「ううむ……我は本物を見てませんからな……見て感じていればいくらでもアドバイス出来たのですが」
「同じく」「同じく」
事件時、未加入だったニロフ、ネレイザ、ドライブの三人も流石に何も出来ない。
「あ、あのっ」
と、そんな時に挙手が。――サラフォンだった。
「多分、ボクの計算、目測、雰囲気、感触、えっと、そんな感じなので信用出来るかどうかわからなくて、信用しない方がもしかしたら安全かもしれないんですけど」
「サラ、落ち着いて。何があったの?」
「ボク、あの時と同じ武器を使ったんですが、あの時よりも強さは下がっていると思います。割合で言えばあの時を百とすると、七十七、八。ダメージの入り具合からしてその数字が」
予想外の所から分析が入った。確かに、道具を使うという意味ではまったく同じ攻撃力で攻撃出来るのはサラフォンのみ。そこにサラフォンの持つ分析力が加わるとこうなるのか。全員が大小あれどおお、と拍手と感嘆の声を出した。
「ソーイさん、サラフォンは騎士団、いやハインハウルス随一の魔具工具師です。信じて参考にしてください」
「成程……! でもそうなると、残り二十少々は一体何がいけなかったのか……」
心の何処かに完全成功、という思惑もあったのだろう。うーん、とソーイが魔方陣を見ながら考え込んでしまう。
「召喚者の魔術提供」「召喚者の魔術提供」
と、その仮説フレーズを同時に発したのは、ニロフとフリージアだった。二人は魔法陣に近付く。
「見た目が再現出来たのであれば、シンプルに原因はそれでしょう。召喚者の魔力保持量が豊富であり、単純に召喚物に対する提供量を増やせば自ずと強くはなります」
パチン、とニロフが指を鳴らすと、
「ハァイ」
お馴染みクッキー君が登場。
「で、シンプルに渡す魔力を増やすとですな」
パチン、とニロフが再び指を鳴らすと、
「バァァァァイ!」
ビキビキ、とクッキー君がムキムキにパワーアップ。掛け声も力強く――
「ちなみに掛け声は渡す魔力を増やせば増やすほどバリエーションが増えましてですな」
「パワーアップさせる所間違ってない!?」
「安心して下されライト殿。ポーズの種類も」
――兎に角パワーアップする事はわかった。
「ただ……事件の概要を読ませて貰いましたが、この魔法陣を数多く作り、尚且つ更に魔力を上げるとなると、ちょっと異常です。今のあたしでもいくつかは同時に出来るかもしれませんが、屋敷中に出現していたんですよね?」
フリージアの問いに、事件遭遇者は頷く。
「そうなると相当の手練れか、何か尋常じゃない物を使用したか。――フリージア殿、ソーイ殿、研究をより一層気を付けて行って下され。きな臭い感じがします故」
「御忠告、感謝します」
ニロフの助言に、今度はフリージアとソーイが頷く。――あの現場で、一体誰が、何をしていたのか。謎は深まるばかりだった。
「あ、それではもう一つ、テストして貰いたい箇所があります!」
と、再び声を上げたのはソーイ。
「えーと、皆さんがお強いので細かい動きが確認出来ないんです! 勿論こちらでも動きはチェックしましたが、皆さんにも見て頂けると助かります!」
まあ出現して直ぐに瞬殺していたのでチェック所ではない。しかしそうなると、誰かが相手をしてしばらく倒さずに戦い続けなければならない。さて誰が、と思っていると、
「それだと……俺じゃ、駄目かな」
名乗りを上げたのは――ライトだった。
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